批判的思考を育成するには?

 京都大学で楠見孝先生の「批判的思考力を育てる:初年度教育、専門教育における実践研究」というご講演をお聞きしました。ご講演内容は「批判的思考とは何か」ということからはじまって、「批判的思考を育成するご自身の授業」についてでした。

 実は、僕の勤務する大学総合教育研究センターに、来年度から「マイクロソフト先進教育環境部門」が設置されます。この寄附講座では、「情報テクノロジを活用したアカデミックスキル育成授業」を開発するということがプロジェクトのひとつになっています。この講演では、非常に有益な情報を得ることができました。

 楠見先生によれば、批判的思考とは下記のような思考であるとのことです。

 ・基準に基づく合理的・論理的で偏りのない思考
 ・自分の推論過程を意識的に吟味する反省的な思考
 ・帰納/推論が重要な役割をはたす思考

 その上で、批判的思考を構成する要素としては、

 1. 認知的側面
  1-1.領域普遍知識
   ・推論に関する手続き的知識
   ・スキル
   ・解釈の形成
  1-2.領域固有知識
 2. 情意的側面
   ・批判的思考に関する態度

 があげられるのだそうですね。

 要するに、1)ある知識領域に関係する知識、2)知識領域とは普遍的に存在するジェネラルなスキル、3)態度があるということになるのでしょうか。

 その上で、楠見先生は、1)大学1年生を対象にした初年時教育、2)大学2年生を対象にした専門基礎教育、3)大学3年生を対象にした専門的な演習などで、批判的思考を育成する授業を実践なさっているそうです。

楠見先生のWebサイト
http://www.educ.kyoto-u.ac.jp/cogpsy/kusumi/

初年時教育の情報http://www.educ.kyoto-u.ac.jp/cogpsy/personal/Kusumi/pokezemi.htm
http://www.educ.kyoto-u.ac.jp/cogpsy/personal/Kusumi/pokezemi.htm

 授業の評価は、いくつかの尺度、思考テストを用いておこなったそうです。尺度は、下記の論文で示されています。

<批判的思考態度尺度> 平山るみ・楠見孝(2004) 批判的思考が結論導出プロセスに及ぼす影響 教育心理学研究 Vol.52 pp186-198

<討論参加態度尺度>
武田明典・平山るみ・楠見孝(2003) クリティカルシンキングを用いた大学演習授業 日本教育工学会第19回全国大会論文集 pp377-378

<思考テスト>
WG批判的思考テスト
コーネル批判的思考テストZ

<参考>
平山るみ(2004)批判的思考を支える態度および能力測定に関する展望. 京都大学大学院教育学研究科紀要 Vol.50 p290-302

 その結果、1)探求心や論理的思考、能力に関する自己評価は向上する。2)討論参加態度は向上することがわかったそうです。3)標準的な思考テストの得点は向上するんですが、統計的有意な向上とは言えなかったようです。

 要するにこういった授業を行うと、「モノゴトを探求したり、論理的に考えること」に関する自己評価や意識は向上するが、授業とは離れた論理テストの成績は変わらないということになるのでしょうか。

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 この一連の研究、非常にリゴラスな手続きに従ってなさっていて、大変オモシロク聞くことができたし、大変勉強になりました。

 既述したように、来年度から3年かけてマイクロソフト先進教育環境寄附講座ではこれに類するような研究を行います。
 どこが似ているかというと、我々の場合も「アカデミックスキル」という「ジェネラルな能力」を育成することを目標にしている点ですね。アカデミックスキルは、批判的思考とはちょっと違うけれど、ニアリーイコールな部分もあるんだと思います。

 4月から研究をはじめるにあたり、僕自身、どこから手をつけてよいかわからなかったときだけに、非常に重要な起点をご提供いただきました。また、「ジェネラルな能力育成プログラムの開発がいかに難しいか」よくわかりました。

 4月から新しい研究がはじまります。
 しかし、それは悩ましい時間のはじまりでもあるようです。
 いずれにしても、前向きにね。
 とにかくエンジョイしようと思います。

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