韓流eラーニング3日目:まさに混沌、m-learing市場

 早朝起床。ホテル近くを散策。

 9時30分、韓国最大のeラーニング会社であるCREDUへ。ここは2000年にサムソン電子のサイバー研修チームがスピンアウトしてできた会社。

 CREDU

 代表理事(社長)のYoung Soon Kimさんのもと、従業員121名。コンテンツ開発、システム開発、教育コンサルティングの3種のサービスを提供している。国内30の大企業をはじめとして、これまでの顧客数は950というから、かなり大きい方だと思う。

 大規模なシステム開発からコンテンツ開発までを、一貫して請け負うCREDUであるが、定評があるのは「eラーニングの運営ノウハウ」である。彼らの提供するコースの平均修了率は95%というから驚異的な数字である。

 この秘訣は2点。

 まず第一に、ナインタッチ(Nine touch)という原則を遵守していること。つまり、学習者に対しては「月に9回メールや電話等で、手をかえ品をかえ、連絡をとる」という原則をもち、それを遵守している。
 
 2点目にComputer Telecomnucation Interfaceというシステムを有していることがあげられる。これは、学習進捗管理システムとコールセンターシステムが融合したようなもの。

 学習者からサポートの電話が入ると、CTIシステムは、サポート担当者のコンピュータに、どんな学習履歴のあるどんなユーザから連絡がきているのか、過去にどのような問い合わせを行ったのかを表示する。これによって、365日年中無休のヘルプデスクサービスを実現している。

 あとで同行したある方にお話を聞いたところによると、「通信教育には電話でのプッシュは不可欠であり、それがあってはじめて通信教育はサービスたりえる」のだという。

 現在、CREDUは一月に5万3千人の学習者を抱えているが、この学習者のケアを40名の派遣社員が上記のような原則とシステムのもと、実現している。

 こうした地道な取り組みのかいあって、CREDUの「企業eラーニング市場占有率」は30.6%となっている。

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 そんなCREDUが半ば先行投資として実施しているのがm-learning市場。現在大学生や社会人を中心に36万人いるといわれるPDA所持者を対象に、m-learningのコンテンツを提供している。MOBISTAとよばれるサービスがそれだ。

 CREDUのシステム「MOBISTA」の特徴は下記にある

 ・コンピュータからPDAにコンテンツをダウンロード
  して学ぶこともできるし、Webでも学べる

 ・PDAの学習進捗状況は、On-lineになった段階で
  自動的にサーバにおくられる
 
 要するにPDAとコンピュータのSync機能を充実させている。

 それではなぜケータイではなく、PDAなのか?

 CREDUでは、これらのサービスを開始する前にサムソン電子の従業員を対象に、ベンチマーキングテストを行った。その結果、携帯電話は画面が小さく、彼ら学習者が満足出来る学習を行える可能性はないと判断したという。

 彼らのm-learnigのコンテンツ自体は非常にシンプルである。まず最初にアニメーションを見て、学習内容を把握したうえで、テストを行う。基本的なCAIの動作原理そのままである。

 現在、MOBISTAはBtoCのビジネスモデルで運営されている。社長自ら告白するとおり、やはりBtoCのモデルは非常にきびしい。売り上げの2%程度の貢献しかしていないのだという(ちなみにCREDUの売り上げの10%はBtoG、70%はBtoBである。eラーニングはいかにBtoB市場しか成立しにくいかがわかる!)。

 まだまだ技術的な課題が多く、現在は先行投資にしかなっていないと自ら思う。近い将来には、BtoBへの移行をはたしたいと考えている。「F2Fの研修の補完がe-learning、e-learningの補完がm-learnig」という風になればよいなと考えているのだという。

 最期にCREDUが、注目しているテクノロジについて聞いてみた。2点あげられた。

 1点目は「ワイブロ」というテクノロジー。
 これは、「広帯域+広域の無線LAN」である。済州島あたりで現在実験段階にある。これが実現すれば、車で120キロで移動中には1.5MBPS、移動しないときはより広帯域のネットワーク環境が手に入る。これが都市で実現すれば、飛躍的にm-learningの可能性が高まると考えている。

 韓国では、ケータイの電話網はまだまだスピード遅い。かといって、いつまでたってもコンピュータと同期するのでは、m-learningの特性を生かし切れない。そこで注目されているのが広域無線LANである。だから、これもきっと過渡期の現象になるとは思うが、韓国でm-learningというと、「無線LANを利用したPDAサービス」をさす場合が多い。

 また既に韓国ではじまっている「携帯電話で受信出来るデジタル放送(Digital Multimedia Broadcasting)」も将来的には非常に可能性があるメディアだ。いわゆるワンセグ放送というやつである。これが2つめの注目テクノロジー。

 現在、韓国では93チャンネルの番組を携帯電話で見ることができる。費用は基本パッケージで1300円程度。有料放送も中にはあるが、1300円払えば一通りは見ることができるという。既に、韓国の教育テレビであるEBSはここでサービスを行っている。
 これは現在、One-wayであるが、近い将来的にはTwo wayになりうる可能性がある。

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 最後に、CREDUの社長が韓国のeラーニング業界団体であるKERIAの会長に先日選出されたことから、業界の推進方針について聞いた。

 韓国では1990年代後半より、eラーニングの振興に関する法律がのきなみ制定されている。

 1996年に設立された生涯教育法は、のちに17のサイバー大学がうまれる素地をつくった。また2003年に制定された産業資源部によって「eラーニング産業発展法」が制定され、2005年には「eラーニングを活用した国家人的資源開発法」が教育部によってつくられた。

 いずれも、立法化を行うこと、行政によって支援がなされることは業界の発展にとって非常に重要な意味をもつのだという。

「韓国と日本の違いは政府の関与にある。日本の場合、eラーニングに関する政策がないばかりか、予算も少ない。この領域に関して、日本は韓国よりも遅いといわざるをえない。この原因は行政の関与の低さにあると思う。」

 もちろん、上記の言葉はある種の感情浄化には寄与するかもしれないが、考える行政だけを責めれば解決するという問題でもない。割り引いて考える必要がある。
 ただし、この視察を通して考えるに、ある一面において、それはあたっていると僕は思う。

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 午後からはGrobal21という語学教育コンテンツの開発会社に出向いた。Grobal21は、1987年に設立。外国語に特化したコンテンツの開発にこだわっている。2002年からはeラーニング市場に参入。ストリーミングをはじめとして所持するコンテンツのデジタル化につとめてきた。

 Grobal21

 今日デモしてもらったのは、各種のモバイルプラットフォームで稼働する外国語コンテンツについて。1コンテンツ20分の長さで、1ヶ月で20コンテンツで修了するのだという。だいたい3000円程度の費用がかかる。なお、すべてのファイルはMPEG4を用いており、DRM(Degital Rights Management)がなされている。

 今日、見せてもらったのは下記。

 1) PMP(Portable Multimedia Player)
 2) PDA
 3) PSP
 4) 携帯電話

 1)のPMPは、数十ギガの大容量HDDを有するプレーヤ。静止画、動画、音楽など多メディアを再生することができる。市価は3万円程度。Grobal21では、今年の5月からサービスを開始し、現在、PMPで1万人が学んでいるという。

 2)はいわずもがな。3)は日本の誇るプレイステーションです。

 1)から3)までがコンピュータでファイルをダウンロードしてファイルを見るかたちになるが、4)はその都度通信が発生する。ただ4)に関しては、テキストデータが中心で、まだ動画を扱うことはできないとのこと。

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 現在、Grobal21で行われているm-learnigサービスは、まだまだこれからという感じであるが、ひとつ懸念しているのは韓国教育放送の動き。

 韓国教育放送EBSは、最近、大学入試の動画コンテンツを無料でダウンロードできるようにして、民間教育業者の非難をあびているのだという。

 もし番組が無料でダウンロードできるのであれば、Grobal21のようなビジネスモデルはいっさい崩壊する。事実、EBSのおかげで、韓国のeラーニング業界は巨人MegaStudy以外が、のきなみM&Aの憂き目にあっているのだという。

 山内さんによるとこのあたりの問題はフィンランドでも起こっているのだという。日本のNHKは、ダウンロード型のコンテンツ提供を行っていないが(ストリーミングは行っている)、近いうちに公共放送のあり方をめぐる議論がおこるのかもしれない。

 なお、下記は私見。
 現在、PMP、PSP、PDA、携帯電話等、文字通り百花繚乱状態にあるプラットフォームであるが、Appleのipodがビデオを扱えるようになり、また、iTune Video Storeなんかが万が一でてくるようになると、一気に淘汰が進むだろうな、と思った。

 現在、この市場はカオスである。
 何が残り、何が駆逐されるのか、誰もわからない。しかし、かつてのインターネットがそうであったように、カオスにあるときこそ、チャンスがある。

 目が離せない。