快適空間、背伸び空間、混乱空間・・・あなたが今立っているのはどの空間?:学びとリスクの微妙な関係

 玉川大学学術研究所・心の教育実践センターの難波克己先生には、毎年、僕の授業「ラーニングイノベーション論」にご登壇いただき、体験学習に関するワークショップを実践いただいておりますが(感謝です!)。その際、難波先生から教えてもらった概念に「学びとリスク」の考え方があります。

 「学びとリスク」に関して、体験学習(Experiential learning)理論、ないしは、野外教育論(Outdoor Education)の中ではよく、下記の概念図が用いられます(例えばBrown 2008など)。

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 今、学習者が立っている状況を、仮に「3つのゾーン」にわけます。

1.Comfort Zone(快適空間:コンフォートゾーン)
2.Stretch Zone(背伸び空間:ストレッチゾーン)
3.Panic Zone(混乱空間:パニックゾーン)

 の3つです。

 1の「快適空間」とは、文字通り、学習者にとって何のストレスもない空間、心理的安全(Psychological Safety : Edmondson 1999)の支配する空間です。この空間では、学習者は、未知のものに出会うこともありませんし、挑戦もありません。
 裏返して言えば、この空間では「学習」は起こりません。日常のオペレーションやルーティンがそこを支配し、かつ、生活は、昨日のように、かく流れていきます。

 対して2つめの「背伸び空間」というものは、学習者が様々な未知のものに出会い、それへの適応や対処を求められる空間です。
 ここは「ストレッチ」という言葉の示すとおり、学習者には「挑戦」が求められ、かつ、失敗するリスクが生まれます。
 しかし、「挑戦」や「失敗」を裏返して言えば、そこには「学び」があるということです。ですので、この空間は、別名「Growth Zone(成長空間)」「Learning Zone(学習空間)」とよばれています。
 
 3つめの空間「混乱空間」では、未知のものに出会う頻度、対処の難しさ・複雑さが格段にあがり、学習者はいわばカオスに投げ込まれたもののようです。
 高い不確実性、高い不透明性が眼前には広がっています。そこでは「失敗するリスク」が高すぎて、「恐怖」が支配し、とても、冷静になることはできず、学ぶこともできません。
 あるのは、ただただ「パニック」。それ以上でも、それ以下でもありません。

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 上記の概念図は、非常にシンプルな図ですが、「学びとリスクの関係」について、それが微妙なバランスの上にたっていることを教えてくれます。

 リスクが高すぎては「混乱空間」になってしまい、人は恐怖におののきます。
 とはいえ、低すぎては、つまり「快適」すぎてしまっては、人は日常のルーティンに流されていくだけです。
 両者ともに、いずれにしても、学ぶことはできません。

 非常に興味深いのは、1の「Comfort Zone」とは、快適で、一見、「ノーリスク(No Risk)」「ゼロリスク(Zero Risk)」の空間に見えるかもしれませんが、それは長期的にみれば、「非常にリスクの高い空間」である、ということです。

 なぜなら、そこには「快適さ」が支配しており、学習者に「学び」や「進歩」がありません。ですので、いずれ環境が変化し、適応や革新をもとめられた際には、学習者は、もっとも「脆弱な立場」に置かれやすい、ということを意味します。

 リスク論をひくまでもなく、この世界に「ノーリスク」「ゼロリスク」の「地平」は存在しません。
 短期的には一見「リスクがない」と思われるものほど、長期的には「リスキーであること」が、この世の中には多いものです。「ゼロリスク」とは、見方をかえれば「ハイリスク」のことなのです。

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 今日のお話は、学びとリスクの微妙な関係についてでした。
 今日は、体験学習のコンテキストで、この話をしませんが、このことは、経営学習(Management Learning)的なコンテキスト、つまりは、「ビジネスパーソンの能力形成・キャリア形成」のコンテキストにおいても、十分、フレームワークとして参照が可能なのではないか、とも思います。

 あなたが、もし、指導側にいるのならば、学習者にとってちょうどよい「Stretch Zone」をいかにセットするかがポイントになるのかもしれません。

 また、あなたが学習者側にいるならば、自分を適切な「Stretch Zone」に導くことが求められます。ともかく、「最近、何か、快適だなー」と思ったら、それは「学び」から遠ざかっている証拠かもしれません。

 あなたが今たっているのは「快適空間」ですか?
 「背伸び空間」ですか?
 それとも「混乱空間」ですか?

 そして人生は続く

  

投稿者 jun : 2013年4月17日 07:50