越境することによる違和感 : Management Guruという言葉

 僕が、「経営・組織」といった領域に、学習の観点からアプローチする研究を志してから、はやいもので、もう10年近くになろうとしています。

 はじめて口に出したのは、2002年のある研究会だったのですよね。「これから、企業と学習のことを考えたいんです」と申し上げたのは。会場は「は?」という感じで、鳩が豆鉄砲を食らったような感じでしたけど。

 これまで上梓してきたいくつかの本に書きましたが、その当時、この「越境」を行う際には、それなりの覚悟と勇気が入りました。「ルビコン河を渡る」ではないですが、「いい年ぶっこいて、河をいったん渡ったら、おいそれと、やっぱ、やめますー」ではすみませんので(笑)。

 しかし、何とかかんとか・・・この話をすると、これだけで1冊の本が書けちゃいそうですが・・・多くの実務家の方々、経営学の研究者の方々からご支援・ご助言をいただきつつ、何とか「今」に至っています。誠にありがたいことです。

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 ところで領域間の移動、すなわち「越境」とは、時に「違和感」が伴うものです。
 程度の差こそはあれ、「それまで自分が立っていたコンテキスト」とは、勝手が異なる「新たな地平」に足を踏み入れるわけですので、そこには、違和感が生じる可能性が高くなります。
 違和感自体がよいこと、とか、悪いこと、というわけではありません。程度の差はあれ、越境には心理的葛藤が随伴する可能性が高い、という、それだけのことです。

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 僕が、「経営・組織」といった領域に足を踏み入れたときにも、やはり、いくつかの考え方の違いで「違和感」がありました。

 研究の主眼がいったいどこに置かれているのか。
 組織の研究においては、何が最終のゴールなのか?
 研究の宛先は誰なのか?

 学問には、その領域ごとに、「暗黙の規範」や「研究者間の前提」が隠されているものです。僕の10年を振り返りますと、ふだん、あまり明示的に語られない、こうした事柄を、手痛い失敗を繰り返しつつ、ひとつひとつ学びながら、何とか適応をしていく過程であったように感じます。

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「違和感」といえば、「新たな地平」で目にした「ある言葉」に、思わずのけぞってしまった経験もあります。そのひとつが「Management Guru(マネジメント・グル)」ですね。

 日本ではあまり言わないかもしれませんが、よく海外では語られたり、用いられたりする傾向があります。非常に著名な経営学者、経営実践家につけられる呼称であり、尊称ではないか、と思います。

「Guru」とは「権威者・指導者のこと」、すなわち「教え導く人」という意味ですので、「Management Guru」とはさしずめ、「経営を導く人」という意味になりますでしょうか。そして、当時、僕は、この言葉に、ものすごく違和感を感じました。

 なぜなら、この言葉の背後には、「経営に関する答え」は「現場にいないGuru(主導者)が持っており、現場の人々は、そのGuruの教えをご託宣のように受け取ること」という知識観 / 現場観 / 研究観が存在しているように感じるからです。

「いいや、そんな知識観 / 現場観 / 研究観なんてないよ。ただわかりやすいから使ってるだけ」

 とおっしゃるかもしれませんし、そんな言葉は皆が使っているわけじゃないのかもしれません。
 しかし、他の領域から越境してきた人が感じることというのは、そういうことなのです。

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 この問題に関して、僕の考えはどうか、といいますと、むしろ「逆の考え方」を持っている、といって差し支えないかと思います。昔から、そして、今でも、この考えが揺らいだことは、あまりありません。

 現場のことを知っているのは、現場の人
 現場を変えられるのも現場の人

 現場を外部から支援する人が為しうることは
 現場の方々の声を「聴くこと」
「いつか別れが来ることを知りながら、協働すること」。

 そして

 現場の方々が考えたり・対話することのリソース
 になるようなデータ、思考枠組みを提示すること

 である、と。

(「いつか別れが来ることを知りながら」という言葉は、これだけで、また、「実践と研究」に関する論文が書けちゃいそうな出来事がたくさん経験してきたのですが、ここでは掘り下げますまい。このテーマでは、何度か学会で激論を交わしたことがあります。フィールドをもつ研究分野では、答えのでない、永遠のテーマかもしれませんね)

 僕が学問的訓練を受けた分野では、1970年代は、Guruモデルといいましょうか、「研究 - 実践」「研究者 - 実務家」の間に相当非対称な関係性が想定されていましたが、1990年代以降は、こうした考え方のもとで、研究が進行していくケースが多かったように思います。

 そういう知識観、分業観のもとで、アカデミックなトレーニングを受け、みずからも、そうしたパースペクティブを獲得してのでしょう。ですので、最初に「Guru」という言葉を聞いたときは、本当に焦ったことを覚えています。

「Guru」本人が、そう呼んでほしいというわけでなく、きっと、誰かが使い始めた言葉なのでしょうけれど、そういう言葉を見かけるというのは、極めて面白いことのように感じます。もちろん、それがいいとか悪いとかいうつもりはありません。

 今日は、この言葉への違和感を通して、越境するとは違和感を感じることなのだ、ということを言いたいだけです。
 そして、そのリアリティとは、こういう現象にあらわれる、ということです。

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 早いもので、もう10年です。
 今年僕は37歳ですので、10年前は27歳。そして次の10年が終わる頃には、47歳です。時間を大切にしなくてはなりませんね。

 実は、今度、学会でTED TALKのようなトークイベントをするそうで(今まではシンポジウムだったのですが、それをやめて、トークイベントにしたそうです)、そこのプレゼンターの末席に加えていただきました。 

 プレゼンテーションでは、この10年を振り返り、「新たな領域にアプローチするときには、どういうことが起こるのか? 結局、何をしてきたのか?」について話そうと思っています。主に、僕よりも若い人たちに向けて。

 そんな背景があり、意図的に、少し昔を思い出していました。
 そして人生は続く。

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■2012/08/26 Twitter

  • 23:29  (3) バンクシーについて知りたいのなら、本編ではなく、特典映像を見るのがよい。本編ではなく、特典にそれを含めるのが、面白い。そういう意味でもアイロニーだらけ:http://t.co/IIvh0iwc
  • 23:28  (2) 映画「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」では、ビデオ撮影が趣味の男ティエリーが、バンクシーなどの有名グラフィティアーティストと出会い、自らもアーティストとして振る舞い始める:http://t.co/YWy4rLZs
  • 23:28  (1) 映画「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」、面白かった。この映画が自体が、たぶんグラフィティアーティストのバンクシーによって仕組まれた、「アートとは何か?」を問う、上質で鋭い皮肉を込めた作品(たぶん・・・):http://t.co/JQnPYGdL
  • 12:13  TAKUZO進級テスト合格。苦節半年。好きなあの娘まで、あと二級。隣のレーンに移れる日を夢見て。 http://t.co/uDPwfX55
  • 10:53  (3)コレクションすることで、アーティストと制作のプロセスを「分かち合いたかった」。「たくさん集めれば、アーティストの成長や変化がわかる」という言葉が印象的だった。こちらに予告編があります:http://t.co/yVQqoyeU
  • 10:52  (2)購入の決め手は「自分が気に入り、手が届く値段で、アパートに収まる作品を買うこと」。二人で働き、夫のサラリーはアートに消えた。これまでに集めた約5千点のアートは、ナショナルギャラリー他、全米の美術館に寄附した。http://t.co/5zSPtnps
  • 10:52  (1)映画「ハーブとドロシー」視聴。面白かった。ミニマルアートを中心に過去数十年にわたりコレクションしたハーブとドロシー夫妻の物語。富豪でも億万長者でもなく、慎ましい生活をする二人がいかに世界有数のコレクションを行ったのか?http://t.co/4BNlnsXS
  • 10:47  TAKUZO、プール進級テスト。昨日家族全員で、近くの公営プールに練習に行った。その成果は、いかに?
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■2012/08/25 Twitter

  • 23:20  【ブログ更新】経営学習研究所 sMALLラボ(田中潤研究室)新規企画! ドラムサークルで「人材育成」ワークショップ開催のお知らせ!:当日は、ドラムサークルの人材育成への可能性を体験を通して探ります: http://t.co/xmWuUuqH
  • 21:33  映画「パリ・ルーヴル美術館の秘密」、面白かった。その舞台裏には、迷宮のような地下収蔵庫が広がり、そこには作品の修復を行う専門家たち、作品の運搬を行う人々、熱いバトルを繰り広げるキュレータたちがいた。1200名の人々の仕事と職場の記録: http://t.co/A4IwnQYD
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■2012/08/24 Twitter

  • 23:36  スタイリスト・グレイスと編集長アナとの葛藤を描いて、VOGUEの制作プロセスとアナの魅力を語るみたいな感じですかね。「ファッションとは、常に前を見ること!」RT 同感。でも、このドキュメンタリーはグレースの話? こういう描き方いいね!: http://t.co/lrTT25XC
  • 21:31  面白かった。38歳でVOGUE編集長に就任したアナ・ウィンターの仕事を記録したドキュメンタリー。他者に完璧な仕事を求め、冷徹にボツをだす「すべてアナの感性よ。ヴォーグは、アナの雑誌。彼女が何もかも決める」映画「プラダを着た悪魔」のモデル http://t.co/lrTT25XC
  • 00:01  Sting and Stevie Wonder「How fragile we are!」(Youtube) : http://t.co/IC42p0oa
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■2012/08/23 Twitter

  • 17:59  私は、私の人生物語の共著者の一人に過ぎない。(Macintyre 1993)
  • 17:17  お迎え、行くど。
  • 14:13  【ブログ更新】世界最大の経営学会で「ケア」の話を聞く!? : Suffering organization(苦しむ組織)を前に、今、何ができるか?: http://t.co/ruO8SwOv
  • 13:48  アジアの大学も入っているのが興味深い。今後のマーケットの伸びを考える上でも>横浜国大、新入生1割に「集団留学」、2015年から: http://t.co/xCUiY5Kx
  • 10:19  お邪魔したかったです。後日お話をお聞かせ下さい!>昨日のLIN論番外編「人材教育」の編集者、吉峰さんと、ライターの井上さんのトークセッション。 http://t.co/vtgSFZy8
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投稿者 jun : 2012年8月27日 18:46