組織開発ジャングルをかきわけても、かきわけても、青い山!?

 土曜日は、神戸大学で金井壽宏先生が主催されている「人勢塾」で講演+ミニワークショップをさせていただきました。

「人勢塾」のテーマは「組織開発」。僕は「学習のデザイン」という観点から、それに関連するであろう、と思われる理論と、事例を紹介させて頂きました。お役に立てたとしたら嬉しいのですが、その判断は参加者の方々にお任せいたします。

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 神戸大学からの帰り道、新幹線の中で、組織開発について、それが具体的に何を指し示すのか、どういう改めて考えさせられました。

 よく知られているベッカード(Bechhard 1969)の定義によりますと、組織開発とは

 1)計画に基づき
 2)組織全体にかかわる努力であり
 3)トップ主導でマネージされ
 4)組織の有効性・健康を高め
 5)行動科学の知識を活用して
 6)組織のいろんなプロセスにおける
 7)計画的介入・計画的ゆさぶり

 を行うとされています。

 もちろん、組織開発の定義には様々なものがあり、その様相は、さしずめ「ODジャングル」と形容可能な様相を呈しています。人文諸科学では、よくある状況ですね。

 Burke(2011)は、組織開発の定義を様々にレビューしたうえで、組織開発の共通点として下記をあげています。

1.計画的な実践であるということ
2.行動科学が適用されるということ
3.人間中心的、参加的、協調的(ヒューマニスティツクな人間観に基づく実践であるということ)
4.長期のプロセス介入であるということ

 もちろん、これに異論を唱える議論も存在します。

 さて、様々な手法によってもし、仮に組織開発が奏功した場合、どのようなメリットが組織には生まれるのでしょうか。当日配布された金井先生の論考によりますと、組織開発の結果もたらされるものとしては、

 組織のリニューアルの親展
 組織文化の変化
 組織と従業員の健康と幸福の確保
 学習・発達の促進
 問題解決の改善
 有効性の増加
 変革の創始と管理
 システムの強化とプロセスの改善
 変化への適応の支援

 といったものがあげられているそうです(Egan 2002)。

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 組織開発に関しては、わたしは専門ではありませんが、公刊されている国内外の様々な文献を読んできました。また2011年には、中原研の関根さんが研究会などを実施し、皆さんと議論してきました。

 かくして、このように微力ながら努力はしているのですが、僕自身は、組織開発の指し示すところについて、実は、確固たる定義を自分の中でもてているわけではありません。それは、僕にとって「何となくわかり、何となく語れる」程度のものです。

 とはいえ、上記のような様々なレビューはあるものの、僕の今のところの理解としては、

「組織開発とは"野党"である」

 という市瀬博基さんの名言が、一番しっくりしています。

市瀬博基さん Twitter
https://twitter.com/#!/ichinosehiroki

 いわゆる組織が公式に行うような「組織デザイン」では「ない」もので、かつ、「組織を円滑に回すために必要なもの」であれば「組織開発というラベル」で語られている言説空間である、ということです。

(組織デザインを組織開発の中に入れるべきだという議論もありますので、上記は万能な理解とは言えません)

 先日拝読させていただいた八木洋介さん(元・日本GE HRの責任者)と金井先生の新刊には、日本GEの組織開発として、

1.各ビジネスリーダーたちが全国を行脚し、現場の社員の問題をその場で解決するキャラバン
2.GEのバリューについてリーダーと社員がともに語る場の創出
3.社員がキャリアについて語り合う場の創出
4.社員が参加でき、ともに知り合うことのできる様々なイベント
5.「仕事」に関する社員のインタビューを集めた冊子の作成
6.人事担当者が現場の問題に介入して、組織の問題点を掘り起こす実践

 などがあげられていました(八木、金井 2012「戦略人事のビジョン」)。非常に興味深い事例で面白く読ませて頂きましたが、ここにも「組織開発の多様性」が、見て取れますね。
 
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 日本の企業・組織は、いわゆる「正社員・男性」を構成メンバーの主軸とした職場から、今後、さらに多様性をますことが予想されます。「もう、すでにそうなっているよ」という方も多いでしょう。

 様々な雇用形態の方、さらには国籍の方、さらには今後は「年上の部下」など、職場の多様性はさらに増すことが予想されます。

 そうした組織では、「人を集めただけでは、組織・集団として、あうんの呼吸で動くことは難しくなります」。
 皆が否定できない価値観や建前をつくり、さらには、「人々の群れ」を組織としてまとめ機能させていくテクノロジーが必要になってきます。そういう意味では、組織開発が何たるか、その定義の詳細はおいおい議論・整理するとして、こうしたことに関する社会的意義は、さらに高まっていくのでしょう。
(このような状況下では、組織開発が何かを、前もって形而上学的に定義するのではなく、諸実践から定義を析出させるというアプローチの方がよいかもしれませんね)

 最後になりますが、人勢塾での講演の機会をつくってくださった金井壽宏先生、そして参加者の皆様に感謝いたします。最近は、「職場の人材育成」などにかんする講演はお引き受けすることが多くなっていますが、「学びのデザイン」というテーマで講演をさせていただくことは、ほぼありませんでした。ありがとうございました。

 そして人生は続く。

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追伸.
 現在、二つのイベントの募集を行っています。
 ふるってご応募ください! 皆様のご参加お待ちしております。

7/6(木) 東京大学 実践を記録すること、物語ること、コミュニティを創ること - 小西貴士さんをお招きして : ACADEMIC HACK!の参加者募集!
http://www.nakahara-lab.net/blog/2012/05/_academic_hacknakahara-lab.html

8月19日(日)京都大学【大学生研究フォーラム2012】参加申し込み開始!:大学生のキャリアと仕事、きっと、こうなる :グローバル時代の大学生のキャリアと学び
http://www.nakahara-lab.net/blog/2012/05/2012.html

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■2012/05/26 Twitter

  • 09:33  金井先生(@tkanai1954)主催「人勢塾」で講演するため、一路、神戸大学へ。
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■2012/05/23 Twitter

  • 15:04  大学院授業「経験学習論」:「Learning from experience論」と「experiential learning論」、「対話」を導入することによる個人学習と組織学習の接合。
  • 12:01  明らかに研究量が足りない「象限」で実現しそうな研究は、1)あなたのやりたいことですか? 2)それは社会的に解決すべき「イシュー」ですか? いったんつくった二軸を、つくっては壊し、壊してはつくり、自分の研究課題を見つけるといいかもしれません #nakaharalab
  • 11:56  先行研究の読み込みのファーストステップは「自分で整理軸をつくること」を目的にしてください。膨大な研究を「整理することのできる二軸」を名付ける。そしたら四象限のうち、明らかに研究量が足りない「象限」がないでしょうか? #nakaharalab
  • 11:42  「何」を「分析単位(Unit of analysis)」にすると「オリジナリティ」になるのか?既存の研究は、何にスポットライトをあてて、何を見逃しているのか? #nakaharalab
  • 11:26  大学院・中原ゼミ(@nakaharalab)保田さん(M1)の研究報告「新人看護士の熟達に関する研究」膨大な先行研究を読み込み、二軸でマッピングして、先行研究の「穴」をさがす。#nakaharalab
  • 11:23  興味深い記事>10年後の教室「講義が宿題になる」――「反転授業」(教育とICT Online): http://t.co/Bx7j01F0
  • 11:23  ヒアリング対象者が、思わず「過去の出来事」を語ってしまう「問い」をどうつくるか?:理論的飽和をめざして「エピソード」をどのように集めるか? #nakaharalab
  • 10:12  大学院・中原ゼミ(@nakaharalab)伊勢坊さんの研究発表「秘書職の経験学習に関する研究」秘書の「タフな業務経験」とそこからの「レッスン」#nakaharalab
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■2012/05/22 Twitter

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投稿者 jun : 2012年5月27日 10:30