ストレス耐性・リーダーシップ・ユーモア・危機突破力をもった個人いかに見抜くか?

 ストレスに耐える力
 リーダーシップとフォロワーシップ
 チームを盛り上げるユーモア
 危機を乗り越える力

 これらは、宇宙飛行士に求められる「個人的資質」だそうです。「壁一つ隔てた向こう」は、漆黒の闇と死の世界。多国籍の人々から構成される「異種混交チーム」の中で、一つ一つミッションをこなしていく。
 たとえ万が一、危機に遭遇したとしても、落ち着いて、考える。「今使えるリソース」をチェックし、チームとして動く。
 宇宙飛行士には、このような個人的資質が求められます。

 ならば、そのような人間をどのように「選抜」するのか。

 大鐘良一・小原健右「ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験」を読みました。JAXAにおける宇宙飛行士の選抜プロセスを描いた良質のルポルタージュだと感じました。

 同著によりますと、宇宙飛行士の選抜試験は、「一般教養・専門試験・心理検査」などからなる「1次選抜」、医学検査を行う「2次選抜」、そして、宇宙ステーションを模した閉鎖環境で、各種の課題達成させ、個人的資質を見る閉鎖環境試験、泳力試験、面接試験などからなる「3次選抜」からなります。

 この三段階のプロセスを経て、963人のアプリカントが2人にしぼられていきます。

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 本書を読みながら、僕は、2つのことを思っていました。

 ひとつめ。
 それは閉鎖環境試験についてです。

 かつて、学習・認知研究において、ハーバード大学のハワード・ガードナー(Haward Gardner)が多重知能理論(Multiple Intelligence)を提唱していた頃、「文脈の中での評価」ということの重要性が指摘されていたことがありました。

 20世紀は「テスト社会の誕生」とも形容できる時代です。
 20世紀初頭、ビネーらによって知能検査の発明され、それ以降、人間の知能を「標準化テスト」によって計測し、ひとつの抽象的基準にしたがって数値化・序列化し、それをもって、その人間の潜在的能力を仮定する、というやり方が、普及しました。

 これ対して、1980年代、「一般知能」という概念や「標準化テスト」とよばれる評価手法に対して「カウンターカルチャー」になるような考え方が生まれます。
 人間の能力とは、いあゆる認知的能力から芸術・身体の能力に至る多重で、多様なスペクトラムとして構成されており、それは、文脈や状況の中でこそ発揮され、測定されるべきものである、ということが主張されました。

 具体的に就職試験などに照らして考えてみれば、わかりやすいか、と重います。
 ある環境・ある状況・ある課題を、志望者に与えてみて、課題を行わせ、そこで起こりうる出来事、それへの対処から、人間の潜在的な能力をおしはかろうというものとして、実装されるのでしょうね。

 宇宙飛行士選抜試験における閉鎖環境試験も、これに類似するものと考えられます。
 閉鎖試験では、宇宙ステーションを模した小さな閉鎖環境に10人が閉じ込められ、課題に当たります。窓はありません。壁は無機質・均質な色です。
 この環境は、このようなストレスフルな環境においても、リーダーシップ、フォロワーシップを発揮できるのか、どうかを検証するための「人工的な観察装置」とも呼べる環境でしょう。

 その背景に流れるのは、「文脈・状況をつくって評価する」という考え方なのかもしれないな、と勝手に、僕は想像していました。

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 ふたつめ。

 ストレスに耐える力
 リーダーシップとフォロワーシップ
 チームを盛り上げるユーモア
 危機を乗り越える力

 という宇宙飛行士の持つべき資質とは、程度の差こそあれ、現代の企業で働くマネジャーが持っていた方がよいものだよな、と思って読んでいました。

 あまりに月並みな枕詞ですが、現代、私たちが直面しているものは、不確実で、変化の激しい、競争環境です。

 このような環境下においては、ストレスをコーピングする能力も必要です。そんな状況下においても、ビジョンを掲げて、人を巻き込む能力、そしてポジティブさを失わない資質が必要です。

 もちろん、宇宙飛行士のそれと、一般組織のマネジャーの仕事は同じではありません。しかし - 程度の差こそあれ - 宇宙飛行士が有することを期待される個人的資質の一部でも、組織を率いる人々に期待したいのは、それほど道理を外れていることではないようにも感じます。

 たしかに、この種の評価手法は手がかかるかもしれません。コストが高い、めんどくさい、とおっしゃる方もいるでしょう。

 しかし、「本来リーダーにしてはいけない人」をリーダーにしてしまった「後」に生じる「組織・組織メンバーが支払わなければならないコスト」を考えれば、ある程度「選抜」にコストがかかったとしても、それほど高いコストとも言えないのかな、とも感じます。

 というのはね、「本来リーダーにしてはいけない人が、組織にもたらす組織・組織メンバーが支払わなければならないコスト・苦労」は数字にもなりませんので、顕在化しませんよね。
 でも、これはね、少なくないだろうな、と勝手に想像します。実は、めちゃくちゃコスト高いんじゃないかなぁ(笑)、予想ですが。
 
 一般組織における「選抜」を宇宙飛行士のそれに近づけましょう!、と言っているわけではありません。マネジャーは宇宙飛行士じゃないんだから(笑)。
 でも、「選抜」をしっかりとした科学的根拠に基づき、潜在的な資質を、ある程度見抜くことができるようにすることができたとしら、素晴らしいな、と思います。

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 ともかく本書は、良質なルポルタージュでした。企業で採用などを担当なさっている方にもおすすめです。

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追伸.
 ソーシャルメディアの企業利用について幅広い立場から活動をなさっている小林弘人さんと、小生の二人でワークショップをすることになりました。「ソーシャルメディア時代の組織コミュニケーションを考える」という内容で、今、準備をすすめています。一般的な企業広報でソーシャルメディアをいかに活用するか、という話の他に、組織内コミュニケーションも扱っていく予定です。

ソーシャルメディア時代の組織コミュニケーションを考える
http://seminar.jpc-net.jp/detail/mdd/seminar006107.html

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■2012/01/31 twitter

  • 06:51  全く同感です。紙一重になる可能性もありますね>この中では「過大な要求」と「ストレッチ」の境目が最も難しいと思った RT 「職場パワハラ」6類型「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」(日経)
  • 06:51  ブログ更新。あらゆる人材育成にはリスクがある:「ニュートラルな言葉」「語感がよい言葉」にご用心!: http://t.co/QwRyL3sR
  • 06:12  部下から上司に対する同様の行為も「パワハラ」だそうです>厚生労働省部会、「職場パワハラ」を6類型にまとめる:「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」(日経)
  • 06:04  昨日、一番びっくりしたニュース。小生宅愛用しています>ドコモ、野菜宅配らでぃっしゅぼーやを買収(日経)
  • 05:59  外国人雇用状況の届出状況(厚生労働省):外国人労働者雇用の事業所数は前年比7.2%増の116561箇所、労働者数は5.6%増の686246人、国籍は中国が最多297,199人で全労働者数の43.3%、製造業中心、30人未満の事業所中心: http://t.co/74hDG1eS
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投稿者 jun : 2012年2月 2日 10:36