「革新的な学習手法」と「普及プロセス」について考える:あの魅力的な方法が、いつのまにか、「惨い学びの場」を生み出してしまうプロセス

 今日は、ひとつの寓話(ストーリー)から、「学習手法の普及プロセス」について考えてみたいと思います。もし興味をもってくださったなら、気楽に、読んでください。

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 今、仮に、という学習手法があるとします。もし、イメージがつかなかったら、何か「ワークショップの手法」を思い浮かべてください、はっきりいって、何でもいいです。
「ある一定の手続きに従って、学習を組織化しようとするもの」を、ここでは、ゆるく「学習手法」と考えてみましょうか。

 Aという学習手法は、「真空」から生まれ出たものではありません。Aは、「Bという学習理論」に出自をもち、Aを心底から理解するためには、「B」を理解しなくてはならない、とします。
 今、仮にAとB、すなわち、「学習理論と学習手法の関係性」を深く理解している創始者Cが、「理論を裏打ちとした社会的実践の構築」に熱意と善意をもち、Aを実践をしはじめたとします。

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 創始者Cは、自分が「A」の実践者であることに誇りをもっています。創始者Cは「善意」の持ち主です。「私利私欲」からではなく、心から「A」の社会的普及を願っており、Aを多くの人々に試して欲しい、実践して欲しい、と願っています。
 間違っても、Aをもって短期的な利益回収を目指そうとは思っていません。創始者Cは、社会的利益を優先する「善意の持ち主」なのです。

 実際、Cの元には、Cの理論・実践・熱意・善意に、興味関心をもつ人々D(アーリーアダプター)が集まってきており、DたちがAを実践しようとします。創設者Cは、そのことを非常に嬉しく思います。Dたちは、「理論と実践の関係性」は、Aほどには理解していません。しかし、熱意は有しています。

 ここで、今仮に、「Dたちが実践するA」は、「Cの行うA」とは、少し「クオリティが落ちるもの」だとします。アーリーアダプターのDたちは、創始者Cではありません。よって、創始者Cほどには、学習手法Aを使いこなせないのです。
 今仮に、アーリーアダプターDたちの行う学習手法を「A'」としましょう。ただし、「AとA'のあいだのクオリティの低下」は、問題になるほどのことはない、とします。

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 創始者Cは「A」を実践し、Dたちは「A'」を実践します。Dたちは複数人から構成されています。よってDたちの方が人数が多いので、当然ながら、「Aの実践回数」よりも、「A''の実践回数」の方が多くなります。

 ところで、「Aという学習手法」は、もともと、非常に革新的でいて、シンプルで、さらに多くの人々を魅了していきます。
 ですので、AやDの実践をみた、様々な人が模倣し、実践を行い始めます。創始者CとDたちは、このことを、非常に嬉しく思っています。ようやく、自分の考える学習手法が、広まり始めた、と考えるのです。

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 さて、先ほど、「Aを見て模倣した人々」の行う実践(学習手法)は、「A'」としました。これを敷衍して考えると、「A'を見て模倣した人々」の行う実践は、「A''」だとします。

 あとには、この連鎖が続きます。

「A''」を見て模倣した人々の行う実践は、「A'''」です。「A'''」を見て模倣した人々の行う実践は、「A''''」です。このように、アポストロフィーの数は、どんどんと増えていきます。

 しかし、一方で「理論と実践の関係性」「理論を社会的実践として立ち上げようとするパッション」そして、「学習手法としてのクオリティ」は、Aのアポストロフィーが増加するに従って、徐々に「減衰」していくものとします。
 本当は、このプロセスは複雑なのですが、今は次元を「一次元」にして、ものを考えましょう。人を媒介するに従って、どんどんと学習手法Aのクオリティは「下がっていくもの」とします。

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 さて、この段にいたって、創始者Cは、だんだんと「マズイ事態」になってきたな、と思いはじめています。

 創始者Cの目から見れば、「A'」は「問題のないレベル」でした。「A''」は「許せるレベル」。しかし「A''''」は「やや問題があるレベル」のように感じます。「A'''''」を見ると、まるで「別物」のように感じます。
「A'''''」には、すでに学習理論Bとの関連は全く失われています。正直、「A'''''」と「A」は同じ学習手法というにはおこがましい、「似てもにつかぬもの」です。

 しかし、もう、この「アポストロフィーの増加=すなわち、学習手法の普及の連鎖」をとめる手段は、ありません。
 なぜなら、Aが「革新的」で「魅力的」で、かつ、「シンプル」でいて「模倣可能性の高い手法」だからです。つまりAが「手法」として「洗練されたもの」だからなのです。

「手続き」としてはシンプルで、誰もが行えます。また、「行うこと」が、許されているものだからです。

 かくして、「A''''」も「A'''''」も「A''''''」も、すべて「A」というラベルで流通しています。
 Aが、革新的でシンプルな手法であったが故に、そのバイラルはとめどもなく広がります。次第に、創始者Cは、「A」という革新的手法の創始者として、人々に、祭り上げられています。創始者Cが意図しようとしまいとに関わらず、この「祭り上げ」は進行します。創始者Cは、もう、「降りること」はできません。

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 そうこうしているうちに、ある日、とうとう、臨界点(クリティカルポイント)がやってきます。憂慮していた出来事が、連鎖するのです。

 あまりにクオリティの低い「A''''''」を体験した人々E(マジョリティ)から、「Aって流行っているけれど、ありゃ、ダメだね、惨い時間を過ごすことになっちゃったよ」という声があがりはじめます。

 実際、マジョリティのEたちが体験したのは「A''''''」であり「A」ではありません。しかし、ついに、その声は創始者Cの耳にも届くようになりました。

「Cさん、あんたの考えたという、A''''''って、あれ、キツイなぁ。こないだエライ目にあっちゃったよ」

 「創始者C」は、「A''''''」は「A」ではないことを叫びます。しかし、いくら叫んでも、そのことは伝わりません。「A''''''」と「A」は同じラヴェルで認識され、実践されているからです。学習のサプライヤー側の、細かい違い・細かい事情は、受け手には伝わりません。

 かくして、

「ところで、A''''''を考えたCって、どんな人?」

 話題は「A''''''」のみならず、それを創始した「C」のレピュテーションにも及びます。
 嗚呼、こうしている間にも、バイラルは広がっていきます。Aがシンプルで模倣可能性が高く、かつ、革新的であるが故に、このバイラルはとめられません。もう「A'''''''''''''」くらいになったでしょうか。かくしてクオリティは地に落ちました。Aという学習手法で生み出される学びの時間は、ひと言でいうと、「あまりに惨い時間」になってしまいました。

 さらに手痛いことに、アーリーアダプターのDたちから、こんな声もでてきました。

「Aも、昔はよかったんだけどね。Cさん、これから、どうするんだろうな・・・・そういえば、全然話が変わるんだけど、新しいQという手法って、最近、流行ってるけど、知ってる?あれ、面白いよねぇ。今度、みんなで勉強会してみようか。で、使ってみようよ」

 そして、創始者Cだけが、独り残されます。

「ああ、こんなはずじゃなかったのに」

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 電車の中で、ぼんやりと、「学習手法」「学習理論」「普及」のディレンマについて考えていました。
 革新的な学習手法Aが、シンプルで、模倣可能性が高いが故に、「惨いA」「痛いA」が量産され、消費され、最後は消失していく。学習手法が「洗練」されていればいるほど、「惨い学びの時間」が生み出されていく、そのプロセスを、「思い切り極端にストーリー」にして、描いてみました。 僕は「普及」についてはドシロウトなので、適当なのですが(笑)。

 さて、これを防止するためには、どのような方策があり得るのでしょうか?

「誰」が「何」をすれば、学習手法はクオリティを保ちつつ、広がっていくのでしょうか。

 すぐに誰もが思いつくのは「資格化」? 「サティフィケーション」?
 でも、Cは、そういうの、苦手な人かもね(笑)

 ひるがえって、そもそも「普及」とは何なのでしょうか?
「手法」を「全く同じかたち」で「実践する人」を「量産」することが、めざすべき「普及」なのでしょうか?
 あなたは、何をもって「普及」とみなしますか?

「エンドレスな問い」は、今日も、広がります。

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■2011/11/21 Twitter

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投稿者 jun : 2011年11月21日 10:49