「全体像を理解すること」って難しい:巨像と盲人のお話

「ものごとの全体像を理解すること」とは、実に、難しいことだと、つくづく感じます。

「何かのラヴェル(コンセプトでもいいですよ)」を貼って、それを理解しようとすると、一見、それですべてが説明つきそうになるのですが、でも、やっぱり、すべては説明できない。

 強力なスポットライト使って、あるものに光をあてて、それを「見た」つもりになっても、すべてを把握できているわけではない。光のあたらない場所が残っている。

 つまり「何かのラヴェルを貼ること」は、「ラヴェルから抜け落ちる部分」をつくること。
「スポットライトで明るい部分をつくること」は、「漆黒の闇をつくること」になってしまいがちです。

(これは、研究方法論についても言えることかもしれませんね。現象のすべてを切り取ることのできる研究アプローチというものは存在しないと僕は思っています。

つまり、あなたが「見たいもの」を決め、それを可能にする方法「見るための方法」を選ぶことは、「あなたには見えないもの」をつくることなのです。難しいねー。)

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 ちょっと、これに関連するかもしれませんが、有名な「喩え話」に「象を見たことのない盲人のメタファ」というのがありますね(これ、僕の好きな喩え話です。これまでにもお話ししたことがあると思います)。

 今、「一匹のとてつもない大きさの象」がいる。そこに数人の「象を見たことのない盲人」がおり、「象とは何か?」をいいあてようとしている。彼らは目が見えないので、手で象をさすり、さぐりあてようとしている。でも、彼らは、仲が悪く、お互いに対話をすることはない。

 鼻をさすっている盲人は、「象とは長いしわしわの円柱である」という。「おなかをさすっている盲人」は、「象とは、ぶにょぶにょしているもの」である、という。「しっぽをさすっている盲人」は、「象とはブランブランしていて、先に毛がついているものである」という。

 もう「寓意」は、おわかりですね。
 すべての盲人は、自分の「見たもの」から「真実」を語っているのです。しかし「象を語り得ていない」。

 盲人たちが、「象とは何かをわかりえる」ためには、

 1)自分たちが見たものをいったん相対化し
 2)他者との協働によって全体像をつかむことを合意し
 3)それぞれの情報を持ち寄り
 4)お互いの意見の受容可能性を高めたうえで
 5)象が何たるかを対話しなくてはなりません

 という「絶望的な努力」をしなくてはならないのですね。
 うーん、こりゃ、大変だ。

 でも、盲人たちのあいだに「権力関係が存在しない」場合は、まだまだ「マシ」かもしれません。民主的な関係のもと、1)から5)に挑戦することができるから。
 
 しかし、特定の努力がない場所で、「権力から無縁になれる人間関係」とは、なかなか存在しないものです。つまり、人間関係に「権力関係」は、もれなく付随する。「タテの関係」が存在しない人間関係は、まー、存在することはかなりレアである。

 だとするならば、すなわち「盲人の間に権力関係が存在しており、お互いがフラットな関係ではないこと」を当然の前提として認めるのだとすると、先ほどの「絶望的な努力」は、「さらに絶望的な努力」になることは、容易に予想がつきます。
 偉そうな態度をとる人とか、萎縮しちゃう人とか。人の話を聞かない人とか、簡単に納得しちゃう人、ふつうに、でてきますから。そういうものです。

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 今日の日記は、何を言いたいってわけではありません(笑)。この文章をもって、「寓意」を、しれっと、「誰か」に届けたいわけでもありません。そんな「まどろっこしいこと」を、僕はやりません。僕は「直球勝負」なので。

 違うんだよ。
 むしろ、「全体像がわかる」ってことは、とてつもなく難しいことなんだよなぁ、という「ため息」でございます(笑)。今、ある研究のデータをまとめていて、そのことを強く思うのです。なんか、「全体像」がはっきりしないなぁ、と。

 まー、それでも、「あきらめ」の悪い僕は、「やっぱり、象の全体象って、知りたくない? 知りたいよね」と思ってしまうのですけれども。

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■2011年6月21日 Nakahara Twitter

  • 22:51  先日のPARTYstreamで、同志社女子大学の皆さんが、パフォーマンスしてくれたのは、こちらですね。Ease on down the road (Youtube) : http://ow.ly/5lM1k
  • 20:54  おお。お手柔らかに、おねげーしますだ(笑)。RT @satoko_212 これから大学院の講義。今週と来週の課題図書は中原淳(@nakaharajun)先生の『職場学習論』です。楽しみ。  [in reply to satoko_212]
  • 20:42  プチ悔しいので、マルマルモリモリ、ギターを練習する。Bが、ちと辛いが。http://ow.ly/5lFh3 RT @saoino マル・マル・モリ・モリ...小学生にも大流行みたいですよ。休み時間にみんなで大合唱しているそうです
  • 20:35  オーノー(笑)RT @pomepoku おそらく中原先生だけです(笑) RT マルマルモリモリ。カミサンとTAKUZOが盛り上がっている。テレビ・保育園業界では話題らしい。大学では聞いたことないけどなぁ。知らないのは小生だけ?http://ow.ly/5lEKO  [in reply to pomepoku]
  • 20:26  マル・マル・モリ・モリ。カミサンとTAKUZOが盛り上がっています。テレビ業界、保育園業界では、最近ちょっとした話題らしい。大学では聞いたことないけどなぁ。知らないのは小生だけ?http://ow.ly/5lEKO
  • 19:32  面白い。キュレータとは何か?>RT @tomokihirano 良い議論。日本でいう学芸員は欧米でいうキュレーターとは違う。学芸員の仕事はキュレーションを含むが、それだけではない。http://togetter.com/li/151232
  • 18:41  TAKUZOの保育園へダッシュ!
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投稿者 jun : 2011年6月21日 09:49