アイスブレイクのデザイン

 のっけから「恐縮」なのですが、僕は「アイスブレイク」という言葉に、ひっかかる人間です。アイスブレイクとは、「授業、研修、セミナーなどの一番最初にやる、小さなワーク」のことですね。

「さぁ、皆さん、アイスブレイクをしましょう」

 という感じで、受講者の緊張をときほぐすために、「教育内容とは関係ないワーク」が実践されることがあります。たいていは、教授者のインストラクションに従って、ワークが進行します。

 この言葉、自分でも、ついつい使ってしまうことがないわけではないんですが(笑)、自分が受講者の立場だった場合に、誰かが、この言葉を発すると、ついつい

「オレはアイスで、これからブレークされるのか・・・」

 と「ほとんど、酔っぱらいのような、いちゃもん」をかましたくなるのです。というか、正確にいうと「少し寂しい気持ち」になるんだよね。「嗚呼、今、ここにいる人の間には、アイスがあるのか」ということを認めざるを得ないから。

 嗚呼、ホントに、困ったちゃんだね。あんまり相手にしなくていいよ(笑)。

 ていうか、今日も出張のスーツケース、電車に置き忘れるしさ。3日分の衣類、Gone。どうすんの、これから。真夏にパンツ、リバーシブル? リスキーだね。

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 なぜ、僕は「アイスブレイク」にひっかかるのか?

 それは、非常によくデザインされたワークショップやシンポジウムでは、この「アイスブレイク」が必要ないのです。つまり、授業内容とは関係ないような小さなワークを、敢えて授業冒頭でやらなくてもいいのです。
 アイス(参加者間に存在する無意識の壁)が自然と消失してしまうかのように、<環境>がデザインされているのです。正しくいうと「アイスブレイクが必要ない、のではなくて、知らず知らずのうちにアイスブレイクされている」のです。

 「これから、みんなのあいだにあるアイスをブレイクするどー、と言われるのではなく、あれ、不思議、知らず知らずのうちにブレイクされちゃってるよ、、、という感じ」

 たとえば、音楽。いかにもフォーラムにきましたぁ!という感じのクラシックではなく、どこかで聞いたことのあるような「懐かしく、ゆるい音楽」がかかっている。いつもとは違うな、という感覚を、ゆるく、もってもらう。

 たとえば、お料理やお茶。これらは通常、フォーラム修了後か合間に供されます。これを敢えて、一番最初にもってきて、いつもとは違うスイーツなどをだす。その上で、お隣の人と自己紹介をさらっと促せば、もう自然と会話がでてきます。

 たとえば、インテリア。いかにもフォーラムや研修室にきました、という無機質な白壁を、いかにリラックスした雰囲気に変える。グリーンを置く。雑貨をおく。

 要するに、「いつもとは違う」「ゆるくて安全な雰囲気」をつくりだすために、「遊び心」を持ちながら、「複合的なアプローチ(恥知らずの折衷主義)」で、様々なディテールを工夫しているということですね。
 そして、場の特性にもよるのですが、これが、ラーニングプロフェッショナルの取り組む「アイスブレイク」ではないか、と思います。

 その際、気をつけるのは4点だと僕は思います。

 1つは「学習者中心(Learner-centeredness)の信念」。
 学習者中心主義とは「学習環境をデザインする際には、学習者の認知スタイル、行動スタイルを最重要視すること」です。

 なぜ、ディテールを工夫するのか。

 それは、誤解を恐れずにいいますが、教授者が教授を楽にするためではありません。あくまで、学習者のためであり、後続する学習のためです。

 しかし、とかく、こうしたディテールに魅力を感じる人は、メタフォリカルな言い方をすれば、「学習者を忘れがち」です。ディテールを工夫することが自己目的化し、場作りそのことに、心を奪われます。
 ぶっちゃけた言い方をすれば、学習者が十分なレディネスがある場合は、場をつくることなど必要はないのです。学習者中心とは、そういうことです。

(本当は学習者中心主義は3つほどの異なる定義がありますが、マニアックなので、それはここでは述べません。興味のある方はこちらの文献をご覧ください。中原淳(2008)学習者中心主義 佐伯胖(監修)・CIEC(編)(2008) 学びとコンピュータハンドブック. 東京電機大学出版局, 東京)

 2つめ。大胆に未知のものに取り組むことです。
 どうせ、ディテールにこだわるのなら、「大胆に「誰も見たこともないような工夫」を「大胆」にやればいいのではないか、ということです。
 はじめて、こうしたディテールを工夫した方によく見られがちなのは、「自分でせっかくデザインしたのに、そのことを恥ずかしがってしまう」ということです。でも、主催者が恥ずかしがれば、学習者は「のる」ことができません。

 3つめ。最後は、実施者の方が、こうした「創造」や「工夫」を、「みんな」で「楽しんで」やることができるか、ということです。「みんなで楽しみながら取りくめるか」というのは、不思議なもので、学習者に「伝わり」ます。やっている側がイヤイヤ、やらされ感が漂っている学習の場ほど、学習者にとって辛いものはありません。

 4つめ。それは、Formative Evaluationのマインドを忘れないということです。Formative Evaluationとは、日本語でいえば「形成的評価」(詳細は「企業内人材育成入門」をご覧ください)。すなわち、オンゴーイングで進行する学習を常にモニタリングして、インプロで、常に場をつくりかえ、崩していくことです。

 場やディテールに完璧なものはありません。それは、学習者のほんの少しの振る舞いで、いかようにもかわります。
 しかし、まずは、いったんは作り込む。「常に場を作り替え、崩す」ために、いったんは「作り込むこと」が僕は重要だと思います。その上で、学習者の振る舞いを見ながら、場を変化させる。これが、Formative Evaluationのマインドかもしれません。

 ぶっちゃけていうと、音楽をどのように工夫するか、料理をどのように出すか、ということに「王道」はありません。以上の4点に留意して、学習者と自分たちが楽しめる「コンテキスト」をつくり、壊し、またつくればばいいのかな、と思います。

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 こうしたディテールにこだわれば、敢えて、「さぁ、みんなでアイスブレイクをしましょう」と声高に叫ばなくても、すでに心は解れているのです。こういうときに、何を、どのようにデザインするのか。それが、「ラーニングデザイナーの専門性であり知性」なのかな、と感じます。

 今度、英治出版さんから刊行予定の「場づくり本? Learning bar本?」では、そんなことを書いています。お楽しみに。

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追伸.
 完全に、この夏は、「ワークライフバランス」を誤りました。瀕死のスケジュールです。猛省しながら、走りきります。来年は仕事を減らそうと思います。

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■2010/07/25 中原のTwitterタイムライン

  • 19:14  授業。今日のゲスト講師は、あおぞら銀行常務執行取締役 アキレス美知子さん。テーマは「ネットワーカーとしての人材開発部門」。僕の尊敬する女性リーダーのお一人です。
  • 17:30  富山大学 荒井明先生とディスカッション。
  • 17:27  修行します!いままでの僕には"魂"が足りなかったのかも(笑)RT @keiko_uk: きっとすぐ上手にセットできます!全くお化粧の仕方を分からない女子も、メイク魂に火がついたら、あっという間に上手くなります。自分のチャームポイントもしっかり把握して。可愛くなります。
  • 15:15  博士論文等指導。
  • 14:27  大学総合教育研究センター、TREEスタッフ会議。
  • 10:28  三宅なほみ先生の科研会議。コーチングに関する比較実験。三宅なほみ先生、白水先生、見舘先生、神田先生、シマダ先生、軍地さん、舘野君。
  • 10:24  三宅なほみ先生の科研会議。コーチングに関する比較実験。
  • 09:39  全くの根拠レスですが、アクティブユーザーは感覚的には2割くらい? 発言する人が5%くらいかな、と予想します。@hidefurutani アクティブな人はどれぐらい?2〜3割ぐらいかな。@satomaki @miz_oka: RT 日本のTwitter利用者、1000万人になる。  [in reply to hidefurutani]
  • 09:36  なるほど! セット録画サービスも、新しい付加価値としていいかも。@ZAN01020 美容師さんの視点と自分の視点がまず違うんですよね。美容師さん視点で,セットの仕方を録画させてもらおうかと思ったりしました。でも,所詮実践場面ではそこから自分の頭をみることあたわず  [in reply to ZAN01020]
  • 09:35  なるほど!新しい時代の美容室は「美容師さんがセットするのではなく、お客が実践し、美容師さんがコーチングする」なのかも。@clioneたぶんその場で自分でもやらせてもらえばコツを覚えられるんでしょうけどRT 美容師さんに、"今"風のヘアセットのやり方を教えてもらったが  [in reply to clione]
  • 08:25  先日、美容室で、美容師さんに、"今"風のヘアセットのやり方を教えてもらった。なんとなくわかった。今朝、自宅で、そのとおりにやってみたが、うまくいかず、いじっている間に、"テトラポットに打ちつけられた海藻"のようになってしまった。"わかること"と、"できること"とは、違うこと!
  • 07:10  日本のTwitter利用者、1000万人になる(ネットレィテングス調べ、毎日) http://ow.ly/2gku8
  • 07:08  ディズニーランドはいかにしてつくられているか? ディテールへのこだわり:詳細なバックグラウンド・ストーリー(背景の物語)によって、エリア全体からショップやアトラクション、そして細部に至るまで意味が与えられる。 http://ow.ly/2gkt5
  • 07:05  フラッシュマーケティング:ネットで仲間、時間内に揃えば大幅割引 米国発の新手法:24時間以内に30人集まれば、コース料金を7割引きにします----。ネット等で仲間を集めれば、レストランなどの5割から9割のクーポンをもらえるネットサービスが広がる。 http://ow.ly/2gkrb
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■2010/07/24 中原のTwitterタイムライン

  • 23:45  RT @sankoda0210 分かります!4才の甥と遊ぶと、時間が子供のスピードでまったり流れます。小さな発見や感動が楽しい、その時間を共有できたことが嬉しい。結果を知ってる(予測できる)大人には無駄な時間となるのかもしれませんが...
  • 22:59  "早くしなさい!" この後のスケジュールを計算して、立ち止まって動かないTAKUZOに、僕は言う。しかし、TAKUZOは動かない。ふと、我が子の視線の先に目をやると、彼が見たこともないであろう、綺麗な蝶々がいる。TAKUZOじっと見ている。難しいよなぁ、、子育ては。
  • 22:12  大人が、もたもたしている子どもを急かし、時に、苛つくとき、もしかすると、そこには大切な、"子どもの今、ここ"が、ある場合もある。わかっちゃいるけど、難しいけどね、自戒をこめて。
  • 22:09  三歳の愚息TAKUZOと接していて、つくづく感じるのは、"時間には、大人の時間と子どもの時間の二種類がある"ということ。大人の時間は、為さなければならぬ"未来"からさかのぼり、"今"を推し量る。故に"今"は、時に短い。子どもは、"今ここ"を生きており、ゆったりと時間が進んでいる。
  • 22:00  TAKUZOと男二人旅 http://tweetphoto.com/34609932
  • 09:32  TAKUZOと北海道へ。気温は15.7度。避暑というよりは、寒いです。
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■2010/07/23 中原のTwitterタイムライン

  • 23:22  RT @akiko_kokubo: 私は忙しいときもJTM(just talk to me)オーラ放ちたい RT @ak_oxford: 忙しくない時にも自在に放てるようになりたいQT: DTMオーラとは、忙しいマネジャーが放っているDon't talk to meオーラ
  • 23:21  知者は、行動を考えることによって生きるのではなく、行動を終えた時に考えるであろうことを考えることによって生きるのでもなく、行動そのものによって生きるのだ。(Don Juan)
  • 23:14  理解することとは、変わることである (サルトル)
  • 10:10  RT @clione: TTMオーラ?RT @hari_nezumi: RT @makocoach: 元NY市警交渉人のニックネームは「talk to me」http://ow.ly/2fm8M RT: RT @hari_nezumi: いつでも気兼ねせずに話しかけてねオーラ
  • 08:49  どなたかご存知の方は?RT @hari_nezumi: @nakaharajun いつでも気兼ねせずに話しかけてねオーラ、みたいなのに対する言葉はないのでしょうか。。。
  • 08:28  「DTMオーラ」という言葉を妹尾先生に教えてもらいました。DTMオーラーとは、忙しいマネジャーが暗黙のうちに放っている「今、おれにはなしかけんじゃねー」という雰囲気のこと。Don't talk to meオーラだそうです。僕も、たまーに、放っているような気がします。すみません。
  • 07:47  ブログ更新。あなたの使っている「場」という言葉の意味は何ですか?:場のコンセプトとユーザー参加型デザイン。場とは何か? 物理的スペースのことですか? それとも ネットなどの仮想空間のことをさしますか? http://ow.ly/2fkKl
  • 07:05  うーん、デカイ:世界一大きな「花」、東大小石川植物園で初開花:野生でも開花は数年に一度で、同園での開花は19年ぶり。25日まで公開を予定(読売) http://ow.ly/2fjRw
  • 01:03  あなたの人生は限られています。無駄に他人の人生を生きないでください。他人の雑音によって、あなたの心の声がかき消されないようにしてください。最も重要なことは、自分の直感に従う勇気を持つことです。直感とはあなたが本当にやりたいことを知っています。それ以外は二の次なのです。(Jobs)
  • 00:52  一日一日を人生最後の日として生きよう。いずれ、その日が本当にやってくる。(中略)今日が、人生最後の日だとしたら、今日やることは、本当に自分がやりたいことだろうか。「NO」という答えが、もし幾日も続くのだとしたら、自分は、何かを変える必要がある。(Steve Jobs)
  • 00:51  未来をみすえ、点をつなげることはできません。我々にできるのは、過去を見て、点をつなげることだけなのです。(Steve Jobs)
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投稿者 jun : 2010年7月27日 08:37