中途入社社員が職場に適応し、仕事をなすためには!?:組織「再」社会化研究の必要性

 組織研究において、組織社会化とは「新参者が、組織目標を達成するために必要な知識・技術・価値観を獲得し、組織成員になっていくプロセス」をいいます。要するに、一言でいうと「新人が職場に適応し、一人前になっていくプロセス」ということになります。

 例えば、今は、新入社員がそろそろ研修を終え、職場に配属された頃でしょうか。この場合、新入社員は、まさに組織社会化のまっただ中にあるということになりますね。

  ▼

 昨日、大学院中原ゼミで、「組織社会化」の文献レビューを関根さん(M1)が報告してくれました。なるほど、この領域は膨大な研究知見があるのですが、印象的だったのは、「組織再社会化」という概念です。

 要するに、いったんある特定の組織に「社会化」された人が、それ以外の組織に参入したり、組織間の境界を渡ったときなどに、「ふたたび社会化されなおすこと」を、「組織再社会化」といいます。
「組織再社会化」と「組織社会化」を明確に区分する境界は曖昧です。「組織再社会化」は、「組織社会化」の「ひとつ」とみなすこともできますが、ここでは、敢えて分けて考えることにしましょう。

  ▼

 現在は、組織は常に揺れ動いています。また、組織間の人の移動も、どんどんと激しくなることが予想されます。
 M&Aや事業再編が繰り替えされ、「組織の境界」は常に入れ替わっています。一方、かつての「終身雇用」という雇用慣行(というよりも心理的契約)は、もう過去のものになりはてています。

 いったん社会化され、組織に適応したとしても、その組織自体がステイブルであることはあまり期待できません。組織自体が揺れ、再編成されているからです。また、今後、雇用の流動化、グローバル化は、望むと望まないとに関わらず、進むでしょう。これは、ひとつの企業の選択、経営判断というよりは、マクロな社会構造の変化です。

 このような中では、かつてからの「組織社会化」に加え、「組織再社会化」の研究の重要性が上がってくるのではないか、と推測します。実は、「組織社会化」の研究量に比べて、「組織再社会化」の先行研究量は少ないのです。

  ▼

 例えば、ある会社で、ITのプロジェクトマネジメントの経験をかなり積んだ人が、その経験をかわれて、他の会社に中途入社するとします。

「中途入社」ということですので、本人にも「俺は経験者だ、仕事はできるんだ、誰にも頼れないな」というプライドありますし、また、周囲も、当然のことながら「即戦力」と見なします。望むと望まないとにかかわらず、彼には「即戦力」としてのラベルがついてまわります。

 多くの会社では、中途入社の場合、新入社員のように、様々な「組織社会化」のための機会は設けられていないことが多いでしょう。中途入社のためのメンター制度なんて話は、新人のメンター制度の比べて聞くことは少ないと思います。中途入社した人は、プロマネの「即戦力」になることを期待され、職場にすぐに配属されます。

 しかし、わたしたちの経験則からは、必ずしも、この人が、十全たる仕事のパフォーマンスを発揮できるかというと、そうではありません。

 ある特定の会社でつんだ経験が、他の会社での仕事に「転移しない=活かせない」ということが往々にして起こるのです。つまり、仕事がなかなかできない。最悪の場合によっては、職場に適応できない、ということが起こりうるのです。また、仕事のパフォーマンスを十全に発揮するまでには、長い時間がかかることも、ままあります。

  ▼
 
 この現象の理由は、複雑であり、かつ、多要因です。

 外から見ると同じプロマネの仕事であったとしても、ある仕事をなしえるために、本来は必要な背景知識や業界の常識などを知らなかったりすることも、理由としてはありえるかもしれません。

 特に日本企業の人材育成の特徴であるOJT(On the job Trainng)で開発されるのは、企業特殊スキル(特定の企業で機能するスキル≒特定の企業でしか機能しないスキルともよべる)だと言われています。ですので、前職で学んだことは、次の職場で活かせないことが起こる可能性は低くはありません。

 この場合は、必要な知識を「学び直す(Re-learn)」必要がでてきます。場合によっては、今までの「知識・技術」を「捨て去る=学習棄却する(Unlearn)」必要がでてくる場合もあります。

 また、仕事をなすためのコンテキストが、会社がかわれば、全く変わるということもありえます。コンテキストを理解するまでに相当の時間はかかるでしょう。あらゆる仕事の能力は、文脈や状況に埋め込まれています。
 
 こうした場合、おそらく「組織再社会化」が必要になるのでしょうが、実は、あまり、これらについてはわかっていないことが多いように思います。そして、これからの時代は、こうした研究が増えてくることが求められるようになるでしょう。

  ▼

 組織の境界を越えるとき・・・
 人は、今までもっているものの何を捨て、何を得なければならないのでしょうか。何を学び(Learn)し、何を学びほぐし(Unlearn)、何を学びなおさなければ(Re-learn)しなければならないのでしょうか?
 また、どのような経験を活かし、どのような経験の意味づけを再び行わなければならないのでしょうか。

 いずれにしても、間違いのないことは、私たちは、望むと望まないとにかかわらず、いつまでたっても、組織社会化が終わらない時代を生きることになってしまった、ということです。
「組織再社会化」「組織再再社会化」「組織再再再社会化」が連綿と繰り返され、その矛盾と葛藤のプロセスの中をサバイブしなければならないということなのかもしれません。

 ---

追伸.平成23年度東京大学大学院学際情報学府修士課程入試説明会のお知らせ

 今年の大学院入試説明会が、6月12日開催されることになりました。この1日で、大学院のシステムがご理解いただけるものと思います。また、16:00~17:00からの「学環・学府めぐり」では、各研究室がポスターセッションをします。僕もポスターセッションで、研究のご説明をいたしますし、また中原研究室の大学院生もたくさんおりますので、お話をお聞きいただけるものと思います。もしよろしければ、ぜひ、お越しください。

■平成23年度東京大学大学院学際情報学府修士課程入試説明会
日時:2010年 6月12日 (土) 13:00 ~ 17:00
会場:東京大学大学院情報学環・福武ホール(赤門横) 福武ラーニングシアター(B2F)

詳細はこちらでお願いします

http://blog.iii.u-tokyo.ac.jp/iii/news/201123.html

 ---

■2010年5月25日 中原のTwitterでの発言

  • 22:25  RT @fujisiro: 日本のマスメディアは専門性は必要とされてこなかったから当然だがシステムもないし、専門記者も非常に少ないRT @tamdai99: RT RT @yuuhey: 多くの新聞社やテレビ局では専門性向上のための研修システムが整備されていない
  • 22:06  海外のマスメディアはどうなのでしょうね。ジャーナリズムスクールなどの果たす役割もあるのだと予想しますが。RT @yuuhey 新聞社やテレビ局では専門性向上のための研修システムが未整備。
  • 22:04  研究分野的に様々な会社の人材育成システム、体系を目にしますが、マスメディアは最も、その整備や意識が遅れている業界のひとつだと感じます。ただし、ここ1年で志や危機感のある企業は、整備をはじめています。RT @yuuhey 新聞社やテレビ局では専門性向上のための研修システムが未整備。
  • 21:59  RT @yuuhey: 多くの新聞社やテレビ局では専門性向上のための研修システムが整備されていない。影響力を持っているのでせめて統計的な考え方ぐらいは研修でフォローして欲しい。
  • 21:57  嬉しいことですね、応援します。RT @yohei917: 1つ実践コミュニティが生まれた! RT @YurieSONOBE 成人教育の勉強会始めました!第1回は6/16教育学研究棟社会教育学ゼミ室付近にて。まれびとハウスでの中原先生のお話をきっかけに先輩と始めました。感謝です☆
  • 21:42  "大人の学び"勉強会開催 メジロー、ノールズなどかな。Have fun ! RT @yohei917: 支援!RT @YurieSONOBE 成人教育の勉強会始めました!第1回は6/16教育学研究棟社会教育学ゼミ室付近にて♪興味ある方是非!
  • 19:59  京都大学大学院・教育学研究科の集中講義(7/28-7/30)の準備をそろそろ進めなければならない。参加人数未定とのこと(笑)。課題文献をいくつ選ぼうかな。経験学習論、職場学習論、組織学習論、組織社会化論、組織社会化論、越境学習論などを扱う予定。
  • 19:26  組織社会化とは「新参者が、組織目標を達成するために必要な知識・技術を獲得し、組織成員になっていくプロセス」。しかし、現在は、いったん社会化され、組織に適応しても、組織自体が揺れ、再編成され、雇用が流動化している。今後は、組織「再」社会化の研究の必要性があがってくるのかな、と思う。
  • 19:04  大学院ゼミ。今日の英語文献購読は「組織社会化:過去・現在、未来への序章へ」というレビュー論文。1992年から1996年の組織社会化研究の文献レビュー。
  • 18:18  大学院ゼミ。木村君(M2)の研究発表。大学におけるサービスラーニングの教育効果に関する実証的研究。サービスラーニングとは、「学生が、一定期間、社会奉仕活動を体験し、学問知識として学んだことを体験に活かし、また、体験を省察し生きた知識を学ぶ教育プログラムのこと」をいいます。
  • 17:27  誤診率14.2%・・・診断とは難しいんですね。。RT @well_be: 「徹底的に診断しても,厳格な基準のもとでは,誤診はこんなに出る。医学とは難しいものなのだ」 誤診率14.2%。 http://ow.ly/1Ps4B
  • 17:15  大学院中原ゼミ(@nakaharalab)。福山君(M2)の研究課題。社会的ジレンマを学習するための協調学習について。
  • 17:10  今年の大学院合宿は(山内研究室と合同)、デューイ、ヴィゴツキー、ピアジェ、スキナー、ショーン、ブラウン、レイブ、レヴィン、エンゲストロームの代表的文献を購読し、これらの学者たちの理論的系譜を整理するという学習課題に取り組むことになった。
  • 13:47  RT @majohina: RT ワクワクの時代到来です。助産師教育にも新しい風を吹かせたいっ‼毎日小さな工夫を繰り返し、生き生きした助産師の育ちを支えたいと思います。 @nakaharajun http://ow.ly/1Pm7Q
  • 13:47  アップルは"帝国"、Googleは"連合軍"。非常にわかりやすいビジネスモデルの整理でした。http://bit.ly/ajNC8Q
  • 13:17  RT @zacky1972: 中原さんのブログ http://ow.ly/1Pm7Q は,医療教授システム学会とその方向性についての議論について実に興味深い記事です.我々も「ソフトウェア工学教授システム学会」「組込みシステム教授システム学会」とか立ち上げるかな?
  • 09:50  ブログを書きました。「医療現場の学びをみんなで探求する」です。「クオリティの高い研究知見」と「インサイトに富む現場の経験」の二つを「コア」にした「ハイブリッドでオープンな知のエコシステム」をいかに構築するか、というお話です。 http://ow.ly/1Pm7Q
  • 09:49  悲しいかな、人生のギアボックスに「バック」はないですなぁ(笑)。@Tom_Nakata: バックギアなどあるわけもなく RT ここから10年は、ギアを4速にいれて、アクセルを一杯まで踏み込んだくらい、早く過ぎるよ RT @yohei917: @YukiAnzai のアラサー祝い
  • 07:03  学術出版社の寡占も一因なんですね。研究者としては、多くの人に読んで欲しい&多くの論文を読みたいだけんですけどね。RT @sugi2000: 電子ジャーナルは冊子よりも購読料が高騰しています。その一因は巨大な学術出版社の寡占状態にあるようですhttp://bit.ly/9kUBPA
Powered by twtr2src.  

投稿者 jun : 2010年5月26日 06:17