変わる新人研修のあり方

 先日、あるところで、ある方々と「今年の新人研修は、どのような傾向があるか」というディスカッションをしました。話は、いろいろな方向に飛びましたが、非常に興味深かったことがありました。それは「今年の新人研修は、内製化比率がさらに高まっているが、それは不況だけが原因である、というわけではない」という話です。

 ここでいう「内製化」とは、「企業が研修を外部の企業にアウトソーシングせずに、自前で準備すること」をさします。「内製化比率が高まる」とは「現場の部課長自らが教壇にたち、新人を相手に、より自社にあった内容を教える比率が高まっていること」をさします。こうした変化は、かつて「不況」が理由で起こる、という風に言われていました。要するに、「研修発注費を押さえること」を目的として内製化をすすめるべし、ということです。

 もちろん、企業経営がすこし持ち直してきたとはいえ、以前厳しい状態が続いておりますので、そうした動きは、いまもなお歴然と存在しています。しかし、同時に、新人研修の内容を「より実践的にしたい」というニーズ「も」背景にあるのではないか、というお話でした。

 一般的なルール、一般的な仕事のやりかたを、外部の人が教えるのではなく、「その会社・組織に特化した、実践的な内容を、内部の人々の語りによって、伝えよう」とする努力のようにも思われます。
「この会社」の「あの職場」において、「自分」は「この仕事」をしているのか。自分は、「この会社」で、「どんな仕事」をして、一人前になってきたのか。そういう「状況依存」で「実践的」な語りが、「コンテンツ」になるのでしょうか。

 僕としては、こうした動きは、非常に望ましいものであると思います。願わくば、教壇に立たれる方に、ほんのすこしだけ「教える原理、学びの科学」を学んでもらって、ぜひ、インタラクティブな「場」をつくっていただきたい、と思いました。

 「自分の経験」や「自分の仕事」を一方向的に「伝達」するのではなく、ぜひ、双方向の場にして、新人の語りにも耳を傾けていただきたい、と願います。つまり、「インタラクション」の重要性を、今一度、認識していただけると、非常によい場になると思います。

 先ほど、僕は、「状況依存で、実践的な語り」が「コンテンツ」である、と書きました。しかし、これは正しくないかもしれません。状況依存で、実践的な語りとは、すなわち、「インタラクション」です。

 「インタラクション」こそが「コンテンツ」である。

 僕が新人研修であるならば、そのような場を、期待してしまうのは贅沢なことでしょうか。

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「実践性」というキーワードは、新人研修の他のところにもあらわれているようです。一緒に仕事をしている、雑誌「人材教育」の吉峰さんによりますと、今年の新人研修の人気は「シミュレーション」にあるとおっしゃっていました。

 従来は、名刺交換、挨拶の仕方などのスキル練習を、一方向的に講師が説明し、個別に演習していたそうですが、それらを複合的にシミュレーションさせる、ということが試みられようとしているようです。

 昨今の新人は、個別のスキル動作になると器用にこなすことができるのだけれども、実際の職場に配属されると、「個別の動作」だけが求められるわけではありません(これは昨今の新人だけにあてはまることではなく、人間とはそういうものです)。当然のことですが、その「文脈」や「場の流れ」に応じて、個別スキルを複合的に組み合わせて、振る舞うことが求められます。これに関する「シミュレーション」機会を、新人研修においても導入しようという動きが高まっているとのことです。

 あるいは、研修を終えた新人を、職場のメンター、上司が引き続き、見守る体制も、今年の新人研修では、次第に広まってきているようです。研修で学んだことを意識して、仕事をさせるということですね。別の言葉でいうならば、OFF-JTとOJTを組み合わせたハイブリッドラーニングを志向する企業が増えている、とのことでした。

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 厳しい採用プロセスをへて、企業にたどり着いた「新人」を、いかに「会社」「職場」に迎えるのか。その「あり方」が微妙に変わってきているところがある、というお話は、非常に望ましいことであると感じました。こうした変化は、「教育の原理、学びの科学」にてらしても、理のかなうものだとおもいます。

 もちろん、ここで述べた内容は、日本企業全体を代表するようなデータではなく、あくまで、僕が最近見聞きした範囲の情報です。しかし、こうした内容が、様々な場所でシンクロして語られるようになってきていることは、「変化の兆し」が生まれてきていることを感じさせます。

(しかし、本当の変化は、これからだと思います。まず、日本の大学を卒業した留学生の採用比率が高まるのではないでしょうか。元留学生たちがいかに日本の会社に組織社会化されるのか、という問題は、僕の研究室のD2の島田徳子さんが熱心な研究をなさっています。新人研修の多言語化という問題も起こってくるかもしれません。

長期的には、新卒一括大量採用という雇用慣行に見直しがはいるのではないでしょうか。おそらく、そのときが、本当の正念場でしょう・・・)

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 あなたの会社・組織の新人研修、どんな「変化」がありますか?
 社会の状況、ビジネスの環境、新人の状況は、毎年、変わっています。
 新人研修には、どのような変化がありますか?
 あるいは、変えてはいけないものとは何ですか?

 そもそも「新人研修」とは、何のために存在するのですか?
 それが、もし、明日突然なくなったとしたら、あなたの会社ではどんな変化が生まれますか?

 あなたの会社・組織の新人研修は、どうなっていますか?

 このブログは、おそらく民間の教育ベンダーの方もお読みいただいている方がいらっしゃると思うので、あえて、最後にお聞きします。

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 このような「新人研修の変化」が企業に生まれてきた場合、どのようなことでバリューを提供しますか? 内部にできなくて、外部から介入することで得られる付加価値とは、いったい、何でしょうか。 

 新人研修のサービスは、今後、どのように変化していきますか?
 10年後、それは、どうなっているでしょうか?

 皆さん、10年前を振り返ってください。10年前、僕は、まだ大学院の博士課程の学生でした。当時は、ブログも、Twitterも、Youtubeも、iPhoneも、ありませんでした。

 明日には、今年もたくさんの新人が、会社にやってきます。
 10年後の今日、、、僕たちは、どのような面持ちで、新人を迎えているのでしょうか?

  

投稿者 jun : 2010年3月31日 07:53