そのメッセージは「ダブルバインド」ぢゃないですか?

 この週末は、青学での集中講義「組織間ネットワーク特論」がありました。この講義では、「働く大人、組織、学習」に関係する基礎理論を集中的に学ぶことを目的にしています。

 ひとつのテーマに文献が複数指定してありますので、それを一人ずつ担当し、発表します。課題は日本語で読めるものだけに限っていますが、結構ヘビーです。その発表のあと、ディスカッションをするというかたちで、授業が進行します。

 ゼミ参加者の社会的出自が全く異なるので、ディスカッションは、かなり多岐に発展します。先日のゼミでは、活動理論の説明のときに、グレゴリー・ベイトソンの「ダブルバインド」が話題になりました。

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 専門家から便所スリッパで、後頭部をぶったたかれることを覚悟して、ダブルバインド(二重拘束)を説明すると、下記のようになります。

1.権力関係で上にたつ人間から、
2.矛盾するメッセージが連続的に発せられ
3.かつ、そこから逃げることが許されない状況を
4.ダブルバインドとよぶ

 ベイトソンは、家族の中のコミュニケーションが、上記のような状態に置かれると、子どもは精神に異常をきたす可能性が高いことを指摘しています。

人間のコミュニケーションにおけるメッセージには、メタ・メッセージによって自己言及してしまうものが多く含まれる。その中にはパラドックスをつくりだしてしまうような表現も存在する。人が権力関係の中でパラドキシカルな状況定義を余儀なくされるとき、状況の正確な対象化能力を失って、適切な反応ができなくなる場合がる。このような状態をダブルバインドと呼ぶ。
(ベイトソン)
 
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 ベイトソンが、彼の著書の中で指摘したのは、家族におけるコミュニケーションです。

 たとえば、親子関係などでは、

1.こっちにきて一緒に遊ぼうといいながら
2.子どもが寄ってくると、冷たくつきはなす

 といったことが起こりうる。こうしたことが繰り返し起こると、子どもは、精神異常をきたしやすいというのではないか、と思います。

 しかし、ここまでヒドイ事例はないにしても、「家族以外のコミュニケーションの現場」では、こうした事例は結構ありそうですよね。
 会社、職場、学校でも、人がコミュニケーションをする限りにおいて、どこであっても、ダブルバインドに似た状況が起こる可能性があるのではないでしょうか。

 裏表のあるメッセージに翻弄され続ける
 繰り返し発せられる矛盾したメッセージに戸惑っている

 かつ

 そこからは決して逃げられない状況

 あなたは、ダブルバインドの中にいませんか?

 こうしたときであっても - いいえ、こうしたときだからこそ、 - 人は学んでしまします。「この場では何をやってもダメなのだ」「僕は何をやってもダメな人間なのだ」。「でも、、、この状況から僕は逃げられないのだ・・・・嗚呼」

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 自戒を込めていいますが、ダブルバインド的メッセージを発したくはないものです。教員としても、一人の子どもの親としても。

 あなたのメッセージはダブルバインドではないですか?

 
 
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組織間ネットワーク特論
青山学院大学大学院 冬学期集中講義 最終シラバス

中原 淳
東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
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■講義の目的・概要
 人は、人生の一定期間、学校という場所「だけ」で学
ぶわけではありません。学校を「卒業」した後でも、会
社や組織の中で、新たな知識を獲得したり、他者と知識
を共有したりしながら、仕事に日々取り組んでいます。
人は年をとっただけでは、学びをやめません。人は、生
けとし生きる限り、学び続ける存在なのです。

 本授業では、従来あまりスポットライトがあたること
のなかった、学校の「外」の学習 - つまり、「企業・
組織における学習」に関連する文献購読を行います。経
営学、教育学、心理学、社会学等の分野をとわず、関連
する文献を購読することを目的とします。

 近い将来、組織における学習、人材育成システムを実
際に「分析」したり、あるいは「構築」したりする場合
に必要になる基礎的概念を理解することをめざします。
 
 
■授業の基本的アーキテクチャ(90分)
 ・イントロダクション(中原:5分)
 ・プレゼンテーション前半(20分)
 ・プレゼンテーション後半(20分)
 ・ペアディスカッション(20分)
 ・オープンディスカッション(クラス全体で:20分)
 ・ラップアップ(中原:5分)


■場所
 青山学院大学 青山キャンパス


■プレゼンテーションのやり方
・課題として設定された文献を購読し、内容を要約する。
すべての要約をより集めて、「ひとつのストーリー」を
構成すること。

文献はPDFになっているものはダウンロードすること。
PDF化されていないものは、図書館などで借りてくること。
文献の貸与は行わない。

・プレゼンテーションはパワーポイントで行う。

・プレゼンテーションの構成には下記を必ず含めること
 ・各文献の要約をまとめた内容
 ・今回の文献で興味深かったところ/面白かったところ
  現場で役立ちそうなところ
 ・今回の文献の課題、問題点
 ・考察したこと
 ・ディスカッションのポイント

・配付資料は人数分用意し、各自で印刷すること。

・配付資料は「パワーポイントの配付資料」を用意する。
 
 
■授業内容

●1 経験学習と組織学習

・松尾睦(2006)経験からの学習-プロフェッショナルへの成長プロセス. 同文舘出版, 東京

・松尾睦(2004)内部競争のマネジメント 同文舘出版, 東京
 
●2 中間管理職の経験学習と暗黙知の獲得

・楠見孝(2003) 暗黙知. 小口孝司・楠見孝・今井芳昭(2003)エミネント・ホワイト:ホワイトカラーへの産業・組織心理学からの提言. 北大路書房, 京都 pp6-24

・楠見孝(1998) 中間管理職における経験からの学習能力を支える態度の構造 日本労働研究機構 資料シリーズNo.110

・楠見孝(2000)中間管理職のスキル、知識とその学習. 日本労働研究雑誌 No.474

●3 職種と熟達化

・笠井恵美(2007)対人サービス職の熟達につながる経験の検討. リクルートワークス研究所(http://www.works-i.com/flow/survey/download.htmlにて入手可能)

・笠井恵美(2007)対人サービス職の熟達につながる経験:小学校教諭・看護師・客室乗務員・保険営業の経験比較 リクルートワークス研究所(http://www.works-i.com/flow/survey/download.htmlにて入手可能)

・見舘好隆(2007)顧客接点アルバイト経験が基礎力向上に与える影響について:日本マクドナルドに注目して. (http://www.works-i.com/flow/survey/download.htmlにて入手可能)

・伊東昌子・河崎宜史・平田謙次(2007) 高達成度プロジェクトマネジャーは組織の知とどう関わるか. 組織科学 第41巻 第2号.

●4 経験による成長:
  人を飛躍的に「成長」させるのはどんなイベントか?

・金井壽宏(2002)仕事で「一皮むける」.光文社書店, 東京

・モーガン=マッコール(2002)ハイ・フライヤー:次世代リーダーの育成法. プレジデント社

・谷口智彦(2007)マネジャーのキャリアと学習―コンテクスト・アプローチによる仕事経験分析. 白桃書房

●5 経験と内省:

・ジョン=デューイ(2004)経験と教育. 講談社, 東京

・ジョン=デューイ(2004)学校と社会. 講談社, 東京

・ドナルド=ショーン(2007) 省察的実践とは何か. 鳳書房, 東京

●6 成人教育学

・マルカム=ノールズ(2005)学習者と教育者のための自己主導型学習ガイド. 明石書店

・シャラン=メリアム(2005)成人期の学習ー理論と実践. 鳳書房, 東京

・日本社会教育学会(編)(2004) 日本の社会教育 第48集「成人の教育」 東洋館出版, 東京

・赤尾克己(2004) 生涯学習理論を学ぶ人のために―欧米の成人教育理論、生涯学習の理論と方法. 世界思想社, 東京

●7 ワークプレイスラーニングと越境性

・中原淳・荒木淳子・北村士朗・長岡健・橋本諭(2006)企業内人材育成入門.(ダイアモンド社)

・中原淳・荒木淳子(2006) ワークプレイスラーニング研究序説:企業人材育成を対象とした教育工学研究のための理論レビュー. 教育システム情報学会. Vol.23 No.2 pp88-103 (http://www.nakahara-lab.net/blog/2006jset_workplace.pdf)

・荒木淳子(2008) 職場を越境する社会人学習のための理論的基盤の検討―ワークプレイスラーニング研究の類型化と再考― 経営行動科学 Vol21. No.2 (http://wwwsoc.nii.ac.jp/jaas2/doc/pdf/journal/21_2/21_2_12.pdf)

・荒木淳子(2007) 企業で働く個人の「キャリアの確立」を促す学習環境に関する研究 : 実践共同体への参加に着目して. 日本教育工学会論文誌. Vol.31, No.1 (20070520) pp. 15-27

●8 ノットワーキングと活動理論

・山住勝広・ユーリア=エンゲストローム(2008)ノットワーキング. 新曜社, 東京

・ユーリア=エングストローム(2001)拡張による学習. 新曜社, 東京

・杉万 俊夫 (2006)コミュニティのグループ・ダイナミックス. 京都大学学術出版会, 東京

●9 ネットワークと学習:人のつながりの中で学ぶ

・安田雪・鳥山正博(2007) 電子メールログからの企業内コミュニケーション構造の抽出. 組織科学 第40巻 第3号

・安田雪(1998) ネットワーク分析. 新曜社, 東京

・ウェイン=ベーカー(2003)ソーシャル・キャピタル―人と組織の間にある「見えざる資産」を活用する. ダイヤモンド社, 東京

・ドン=コーエン(2003)人と人の「つながり」に投資する企業―ソーシャル・キャピタルが信頼を育む. ダイヤモンド社, 東京

・市田行信・吉川郷主・平井寛・近藤克則・小林愼太郎(2008)マルチレベル分析による高齢者の健康とソーシャルキャピタルに関する研究

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投稿者 jun : 2009年1月13日 09:36