NAKAHARA-LAB.net

2019.2.4 06:22/ Jun

危機感を煽り、変革を迫る「ブーカおじさん」にご用心!

 ブーカ、ブーカって大声で「危機」を煽っているオジサンが、社内にいるんですよ。わたしたちの周りでは、「ブーカおじさん」と呼ばれているんですよ。ちょっと痛いときもあるんですね。
     
 逢うたびに「今は、ブーカの時代」「現代社会は、ブーカだ」って煽られてもね。だったら「過去」には、「安定」で「確定」で「単純」で「明確」な時代があったのかなって、思ってしまうんですよね。
     
 そもそも、ブーカって、何ですか? なんか、煙に巻かれているような気がするんですよね。
    
  ・
  ・
  ・
    
 ちょっと前のことになりますが、ある催しで、参加者の方がおっしゃっていた言葉です。ICレコーダで記録していたわけではないので、一言一句正確なわけではありませんが、趣旨は異なってはいないのではないか、と思います。危機感を煽る「ブーカおじさん」とはね(笑)。うまい言葉を考えるもんだな、と思っていました。
    
 ここで、VUCA(ブーカ)とは、Volatility(不安定)、Uncertainty(不確定)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字をとった造語です。
  
 VUCAは「現代社会が予測不能で、不確実性に満ちていること」を表現する言葉として、おそらく5年くらい前?から、人材業界、コンサル業界などで?使われるようになったのかな、と思います。僕自身は、ほぼ使ったことはないとは思いますが、たしかに「ブーカ」「ブーカ」言っている方は少なくありません(笑)。
  
 先ほどの方が、VUCAに対する懸念を表明しておられるときは、そういう受け取り方もあるんだな、と思っていましたが、せんだって、名和高司さん(一橋大学大学院国際企業戦略研究科・教授)の書かれました「企業変革の教科書」を読んでおりましたら、下記のような記述がございました。「企業変革の教科書」は、数多くの企業変革を経験してこられた、元・マッキンゼーの名和さんが、変革のタイポロジーを示し、その要諦を論じた本です。
  
 書籍の内容の詳細はぜひ本書を手にとってお読みいただきたいのですが、懸案の記述は「企業変革を行う際には、危機感を煽るだけでは奏功しないこと」を主張なさっている文脈で、語られていた内容です。
   
 曰く、
  
危機感をやたらに煽る経営者や経営コンサルタントもいます。このところ彼らが好んで使うのが「ディスラプション(破壊)という言葉です。危機を連想させるし、これまでのやり方が通用しなくなると思わせれば、変革を迫りやすいからでしょう。
  
 VUCAも便利な言葉です。環境変化をVolatility(不安定)、Uncertainty(不確定)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)という4文字で表せば、不安を煽り、聴く人を変革に駆り立てやすくなります。しかし、危機を煽るだけでは意味が無い
  
名和高司(2018)「企業変革の教科書」東洋経済新報社 p275
  

  
 ははは、確かに「ディスラプション」も好きなひとはいますね。
 ブーカもね。
  
 ▼
  
 現代社会の本質を表現する言葉として「VUCA」という言葉が便利なのは、よくわかります。
 しかし、それが相手に思考停止を迫り、不安を煽り、聴く人を思考停止のままに変革に駆り立てる言葉として機能するのだとしたら、すこし課題もあるのかな、とも思いました。
  
 確かに、ブーカって、いったい、何がどうなっていることを表現しているのでしょうか。
 もし、仮に、危機感を煽り、変革を迫る思考停止ワード?として機能しているのだとしたら、注意が必要です。
 というか・・・この言葉に、もう賞味期限が来ているのかも知れません。
 といいますのは、ひとびとは、危機に煽られることに飽きていて、もう、この言葉を聞いても、ピンと来ないのかもしれませんね。
   
 あなたのまわりには、「ブーカおじさん」がいませんか?
 あなたは、「ブーカおじさん」になっていませんか?
 
 そして人生はつづく
  
 ーーー
   
新刊「残業学」重版出来、4刷決定です!(心より感謝です)。AMAZONの各カテゴリーで1位を記録しました(会社経営、マネジメント・人材管理・労働問題)。長時間労働はなぜ起こるのか? 長時間労働をいかに抑制すればいいのか? 大規模調査から、長時間労働の実態や抑制策を明らかにします。大学・大学院の講義調で語りかけられるように書いてありますので、わかりやすいと思います。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
 ーーー
  
新刊「女性の視点で見直す人材育成」(中原淳・トーマツイノベーション著)が、ついに刊行になりました。AMAZONカテゴリー1位「企業革新」「女性と仕事」。女性のキャリアや働くことを主題にしつつ、究極的には「誰もが働きやすい職場をつくること」を論じている書籍です。7000名を超える大規模調査からわかった、長くいきいきと働きやすい職場とは何でしょうか? 平易な表現をめざした一般書で、どなたでもお読みいただけます。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
 ーーー
  
新刊「組織開発の探究」発売中、重版3刷決定しました!AMAZONカテゴリー1位「マネジメント・人事管理」を獲得しています。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
  

 
  ーーー
  
【注目!:中原研究室のLINEを好評運用中です!】
中原研究室のLINEを運用しています。すでに約10000名の方々にご登録いただいております(もう少しで1万人!)。LINEでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記のボタンからご登録をお願いいたします!QRコードでも登録できます! LINEをご利用の方は、ぜひご活用くださいませ!
  
友だち追加
  

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.3.19 08:33/ Jun

私たちには見えている「将来の光景(vision)」!?:心ゆくまで知的に暴れてください!

なぜ?(why)と聞くより、How と What を聞け!:学生面談・部下面談をより有意義にするためのコツ!?

2024.3.15 10:38/ Jun

なぜ?(why)と聞くより、How と What を聞け!:学生面談・部下面談をより有意義にするためのコツ!?

相手の行動を変えたければ「行動を変えよ」と命令してはいけない!?

2024.3.14 08:16/ Jun

相手の行動を変えたければ「行動を変えよ」と命令してはいけない!?

生成AIがあるから「基礎」が重要!?

2024.3.12 11:04/ Jun

生成AIがあるから「基礎」が重要!?

「現場を知っていること」は本当に「良いこと」なのか!?:「おまえは現場をわかっていない」というフィードバックが、相手に1ミリも刺さらない理由!?

2024.3.11 10:43/ Jun

「現場を知っていること」は本当に「良いこと」なのか!?:「おまえは現場をわかっていない」というフィードバックが、相手に1ミリも刺さらない理由!?