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2018.12.19 06:36/ Jun

ビジネス世界の住人は「感情レス」で命令されれば何でも言うことを聞く!? : 教育世界とビジネス世界にはびこる「ステレオタイプ」!?

 僕は、「教育領域」と「仕事領域」を往還しながら、人事・人材開発の研究をしている人間です。
 このように「異なる2つの世界」を往還しながら研究をおりますと、「2つの世界の住人」には、それぞれに双方に対して「思い込み(ステレオタイプ)」を持っていらっしゃることに、いやがおうでも、気づかされます。
   
 教育機関にいらっしゃる方は、仕事領域(とりわけビジネス)で働いている方に対して、あるいは、ビジネス世界に対して、下記のような3つの典型的な「ステレオタイプ」をお持ちのように思います。
  
1.ビジネスには「感情」はない
  
2.ビジネスは「儲け」だけである
  
3.ビジネス世界では「命令」されれば「兵隊」みたいに言うことをきく
     
 いかがでしょうか・・・ビジネス世界の方(笑)。
 もちろん、そういう側面もゼロではないと思いますが、どう思われますか?
   
 いかがでしょう? ビジネスの世界で仕事をなさっている方にうかがいますが、仕事に「感情」は入らないですか? むしろ、僕なんかは「ビジネスは感情(好き嫌い)がかなり影響している」ようにも思います(笑)。「あうーあわない」が事業・ビジネスに影響を及ぼしているところはないですか? ビジネスは本当に「感情レス」の世界ですか? だったら昨今話題の「エンゲージメント」という概念も存在しないですよね。
   
 また、ビジネスは「儲け」だけでしょうか。もちろん、そういう側面もあるでしょう。しかし、責任ある立場になって事業を率いていくときには、社会的意義を意識したビジネスを意識するのではないでしょうか。むしろ、昨今では、社会を意識したビジネスを行わなければ、企業はただちにレピュテーションを失います。また、ソーシャルなものに対する貢献意識は、とりわけ若年層において高いものがあります。採用ー引き留めという観点でも、事業をとおしていかに社会に貢献するか、という見方は、かつてよりも高まっているように思います。
  
 また、最後の「ビジネス世界では命令されれば、兵隊みたいに言うことを聞く」は、いかがですか。
 そりゃ、サラリーマンであるならば、命令されれば「はい」とは言うでしょう。でも、納得していないことに対して、大人は「やったことにしよう」とか「忘れるのを待とう」とか「華麗なるスルーをかまそう」とかしませんか?。みんな言うことを聞いてくれるなら、どんなにマネジャーが楽ちんか。
  
 いかがでしょうか?
 以上が、教育業界の方が、ビジネスに対してもっているであろう典型的な印象です。
  
 ▼
  
 次に、反対に、ビジネスの方が、教育業界にもっている典型的なステレオタイプは何でしょうか。僕は典型的には下記の3つかなと思います。
  
1.教育の人は「暇である」
  
2.教育は「変わらない」
  
3.教育の人は「ビジネスの世界を知らない」
  
 まず、教育の人は「暇」である、はどうでしょうか。
 昨今は、教師の働き方改革が話題になっておりますので、その猛烈な労働時間は、多く人口に膾炙するようになってきました。義務教育の先生方の、一日の平均的な労働時間は、12時間弱となっており(横浜市教育委員会+中原研調査)、「暇」はありません。多くの方は誤解しておりますが、長期休暇も今はとれなくなっています。労働時間は、民間企業の残業時間の数倍に達すると思います。「暇」じゃありません。
  
 つぎに2です。教育はたしかに「変わりにくい」性質をもっていることは確かです。
 そのひとつの理由は「止められない」からです。たとえば学校のカリキュラムを変えようという場合、移行期間を設け、旧カリキュラムの学生をすべて輩出すると同時に、新カリキュラムを走らせます。こうした移行期間の存在、そのあいだの労働力の分配の必要性から、ただちに、教育が「変わること」は難しいものです。
 また、公教育をかえるという場合には、国家がからみます。また、その規模は数十万人におよびますので(超大企業なみ)、慎重な議論が必要です。教育の「変わりにくい」性質は、こうしたところからも、生まれます。
  
 ただし、教育の世界が「変わりにくい」のは確かですが、確実に「変わっています」。
 たとえば40歳くらいの方が、30年ぶりに、現在の小学校に行ってみてください。賛否両論はあるとは思いますが、プログラミングははじまっているわ、英語をやっているわ・・・びっくりなさると思います。社会の年号の細部を問うようなテストは、非常に少なくなっており、教育全体は、思考力を涵養するものに変わりつつあります。
  
 教育は「変わっています」。
 変わっていないのは、自分の記憶のなかにある「かつての教育」です。
  
 最後に、3の教育の人は「ビジネスの世界」を知らない、はどうでしょうか。
 一面では「正しい」ともいえます。
 しかし・・・もうおわかりですね・・・しかし、その「逆」もそうなのです。ビジネスの世界の方々も、教育の「今」を確実に知っているわけではありません。ですので、知らないのは「お互い様」なのです。「ビジネスの世界のひとも、教育のことを知っているわけ」ではありません。
  
 このように「2つの住人」は、それぞれ双方に対して「色眼鏡(ステレオタイプ)」をもっているように、僕には思えます。時に、そうしたステレオタイプに基づいて相手に向き合い、ときにコンフリクトを起こしているように、僕には見えてしまいます。
  
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 今日は、教育とビジネスの世界にはびこるステレオタイプについてお話をしました。
 こうしたステレオタイプのすべてが間違いだと言いたいわけではありません。「一面」では「真実」といえそうな部分もあるかとは思いますが、よくよく子細に考えてみますと、「たいした変わりはない」とも言えるとも申し上げたいのです。
  
 端的に申し上げます。
  
 どうせ、どちらも、人がやっていることなんです
 思っている以上の「ちがい」はありません。
  
 対して、みんな「自分は特殊だ」と思いたい。
 そうやってアイデンティティを守りつつ、日々、一生懸命生きているのだとも思うのですが。
  
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 教育と仕事領域のトランジションは、さらに厳しくなっています。
 仕事領域で求められる業務遂行能力はさらに高度化したものになってきており、より柔軟で、スムーズな接続が求められます。今は一時的に「空前絶後の好況」なので表面化していませんが、僕に時折「危なさ」を感じることがあります。
  
 教育のひと、とビジネスのひと・・・
 できれば「幸せな出会い」をしていただければと思いますし、そのために自分ができることは為していこう、と思っています。
  
 そして人生はつづく
  
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