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2018.12.4 06:39/ Jun

「やさしいことを超絶むずかしく伝えること」に見え隠れする自己防衛の本能!?

 むずかしいことをやさしく
 やさしいことをふかく
 ふかいことをおもしろく
 おもしろいことをまじめに
 まじめなことをゆかいに
 そして
 ゆかいなことは、あくまで、ゆかいに
   
  ・
  ・
  ・
    
 これは、作家「井上ひさし」が残したとされる名言であり、僕が座右の銘にしている言葉のひとつです。
 なかでも、とりわけ大切にしているのが「むずかしいことをいかにやさしく」の部分です。僕の場合、この一言だけをなんとか実践しようと、日々、心血を注いでいるといっても、過言ではありません。
  
  ▼
  
 ところで、これは自戒をこめて申しますが、知識人とよばれるひとのなかには、これとは「真逆」の発想で、ひとびとを「煙に巻こう」という方もいらっしゃいます。
  
「自分が不利な立場におかれてしまったな」と思ったときに、「やさしいことを、あえて難しく伝えること」で「自己の権力性」を保とうとするのです。いや、正しく言えば、「難しい言葉を用いれば、自己の権力性を保てると誤解する」のです。
   
 たとえば、あまり統計がわからないひとを相手から、鋭い質問を受けてしまったときに、素直に「そうですね」とか「おっしゃるとおりですね」と答えればいいのに、鋭い質問の内容にはまともに向き合わず・・・
  
「えっと、それはですね。最近、学会で主流になってきている、いわゆる調整効果の分析というやつでわかるかもしれなくて、独立変数と従属変数の関係をモデレーションしてる可能性はありますね」
  
 と、問われていない統計の専門知識を開陳してしまったり・・・(そんなこと聞いてないのに・・・調整効果の説明が悪いわけではありません)
  
「議論の前提」を問うような鋭い質問をしてきた相手に対して、「おっと、その質問は鋭いですね。僕も答えがないんですよね」と答えればいいのに・・・
  
「えっと、それは、いわゆるクーンがいうところの、パラダイムの共約不可能性という問題でして、両者の理論的体系に、共通する価値観は存在しないということになりますね」
  
 と答えてしまったりするものです。
  
 もうね、何を言っているんだか、わかりません(笑)。
 でも、すべて実話です。
 
 いずれも、これらの受け答えは、
 
「問いに向き合っていないこと」
 
 からはじまり
  
「難しくこたえることで、問いから逃げること」
  
 に終わります。
  
 でも「逃げ切れた」と思うかもしれませんが、質問をしたひとは、そんな「逃亡」の様子を見逃しません。あっ、ケムに巻かれたな、という顔をなさる方がほとんどであるような気がします。
  
 個人的には、むしろ、楽にならはるといいのにな、と思う時もございます。
      
「そうであること」は「そうである」と認めることがまず大切です。「わからないこと」は「わからない」と認めて、「わからないから、一緒に考えよう」と言えばいいだけの話のように思いますが、それは僕が「楽天的」すぎるのかもしれません。
   
  ▼
  
 今日は、シンプルにひとことでいってしまえば「やさしいことをむずかしく伝える」のではなく「むずかしいことを やさしく」伝えようというお話をしました。
 とりわけ、「やさしいことをむずかしく伝える」ときには、自己の権力性を保持したいという欲望が見え隠れするときがあるから注意が必要です。
   
 あなたは、やさしいことを、むずかしく伝えていませんか?
   
 そして人生はつづく
   
  ーーー
     
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