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2018.4.26 05:57/ Jun

「教育機関」を卒業し「リアル社会」に出ると、静かに変わっている「問題解決のルール」と「かしこさの定義」!? : 大人の「リアル社会」では何が求められているのか?

 立教大学経営学部で実施されている「ビジネスリーダーシッププログラム(BLP:初年次向けリーダーシップ教育プログラム)とは何か?」を「説明」差し上げるときに、僕が、今年あたりから用いているワンセンテンスは、
    
 BLPとは、大学生が「教育機関から社会人にトランジション(役割移行)していくこと」をサポートするプログラム
   
 であるというものです。
 
立教大学経営学部ビジネスリーダーシッププログラム
http://cob.rikkyo.ac.jp/blp/
  
 この春は、何度か、学生、兼任講師の先生方、SA、CAの皆さんに「BLPとは何か?」をご説明さしあげる機会に恵まれましたが、僕は、これまで自分がかかわってきた「研究」の観点から、BLPを「学生の皆さんが、トランジションしていくことに伴走する教育プログラム」であるとご説明差し上げました。
(※BLPの説明や解釈はいろいろなものがありうると思います。これはそのひとつです)
  
 端的に申し上げれば、
  
 学生が、教育機関を卒業し、社会人になっていくプロセスの中で、「社会人になって必要になる経験」を前倒して学ぶことのできるものが、BLPなのだよ
  
 という説明をしています。
  
 「社会人になって必要になる経験」のひとつとしては、
  
 1.権限やポジションのないメンバーのなかで
 2.共通の目標を設定し、
 3.ともによい影響力を与えあいながら前に進むこと
  
 があるのだよ、としています。
  
 要するに「集まったメンバーで、よい影響力を行使ながら、チームアップしていく経験」をつけて欲しい、と思っている、ということですね。
  
 リーダーシップを発揮しろといっても、何も「偉人にならなくてもいい」「カリスマ経営者にならなくてもいい」。
 むしろ、「半径5メートルの身近なリーダーシップ経験」を積んで欲しいと願います。
  
 すなわち、「たとえ、カリスマなリーダーがいなくても、自らチームアップを行い、チームをそれぞれがそれぞれの持ち味をいかして貢献し合い、前に動いていくこと」が社会においては求められるので、そういう経験を、今からしておこうね、と学生には申し上げます。兼任講師の先生、SA、CAの皆さんには、「知恵をだしあいながら、このようなカリキュラムをともにつくっていきませんか、お願いいたします!」と、ご説明を差し上げています。
  
 ▼
  
 教育機関から社会人に、ひとが、役割移行(トランジション)を果たしていくとき、そのプロセスを、やや戯画的に極端に描き出しますと、下記のような「大きな変化」が存在することがわかります。すなわち、「問題解決のルール」「問題解決の際に発揮されるかしこさの定義」が変わってしまうのです。いつのまにか、静かに・・・。
  
 もちろん、昨今では、高校・大学などで、様々なPBLやアクティブラーニングが実施されているので、下記は、現在の教育機関の現状をぴったり反映するものではございません。「かつての教育機関」と申し上げてもよいのかな、と思います。
  
 下記のように、教育機関と仕事領域の間には、問題解決のルールに「大きなギャップ」が存在するのです。
(このあたり、1980年代の学校と社会の問題解決の違いを指摘したおおくの、今となっては古典的な研究を思い起こしてしまいます)
    

   
 問題解決で与えられる課題は
  「与えられるもの」から「自ら設定するもの」へ
   
 誰と問題をとくか、という問いには
  「ひとりでとく」から「みんなでとく」へ
  
 課題を解いているあいだは
  「無言」から「相談しまくり」へ
  
 課題をとくあいだに道具の利用は
  「鉛筆とケシゴムしかダメ」から「コンピュータふくめて使いまくりへ」
  
 このように、教育機関から社会人へのトランジションプロセスでは、「問題解決のルール」が変わってくるのです。
 そして、そこで発揮されることが「かしこさ」にも変化が生まれます。
 要するに、知らず知らずのうちに、「かしこさ」の定義が変わり、
  
 「与えられた課題を、ひとりで、無言で、素手で、しこしこ解くこと」から「課題を自ら設定し、みなで目標を決めて、コミュニケーションを取りながら、前に進むこと」
  
 に変わってしまうのです。
 
 しかし、かつて多くの教育機関では、上記のように「問題解決のルール」が変わり、「かしこさの定義」が変わっても、そこで展開される教育には、あまり変化はありませんでした。大学になれば、「答えのない問いに挑戦する教育」も多々ありますので、下記は、かなり誇張した図になることを最初に申し添えますが、要するに、わかりやすく描くと、こういうことです。
  
 そういたしますと、下記のようには、教育機関と仕事領域には「大きな段差」が生まれてしまいます。
  
  
  
 これを立教経営のビジネスリーダーシッププログラムでは、BLPや同校同学部内の様々な他のリーダーシップ教育、ゼミ・専門と「連携」「協力」しながら(BLPのみがこれを成し遂げているわけではまったくございません。他のリーダーシップ教育、ゼミ、専門科目すべてが重要です)、下記のようなトランジションプロセスにかえていくことを目指しているのかな、と思います。成果を求めるアウトプットには、堅牢なインプットも極めて重要です。専門知識をしっかり学ぶことも重要であることは言うまでもありません。
  

   
 これが、僕なりの立教経営学部ビジネスリーダーシッププログラムの理解ですが、いかがでしょうか。
  
 立教大学経営学部 ビジネスリーダーシッププログラムとは、
  
 リアル社会で発揮される問題解決への「準備」
  
 であり、
  
 リアル社会で求められる「かしこさ」への挑戦
    
 であるということです。
 
 個人的な思いとしては、立教大学経営学部 ビジネスリーダーシッププログラムは、
  
 教育機関から仕事領域へのトランジションに「寄り添う」プログラム
  
 でありたい、と願います。
  
 そのような支援を通して、
  
 大学卒業10年後、社会のなかで生き生きとチームを動かしている「かつての学生たち」
  
 たちを僕は夢に見ています。
    
 大丈夫、君らが時代だ!
     
  ▼
    
 最近、異動したばかりのせいか、大学での自分の仕事の話題が多くなっています。
 他にも面白いことがたくさんあるのですが、どうしても、今の自分の中心的な思考は、
  
 立教大学経営学部 ビジネスリーダーシッププログラムをいかに安定的に継続させ、
 同時に、その価値を高め、魅力を伝えていくか?
  
 に占められています。起きているときは、そのことしか考えていません。今はそういう段階にあるのだと思います。
  
 今、まさに、僕自身が「大きなトランジション」の「まっただ中」にいます。
   
 ハードだ。
 しかし楽しくて仕方がない。
  
 ゴールデンウィークは、すこし頭と体を休めて、また鋭気を養いたいものですね。 
 そして人生はつづく
   
  ーーー
   
新刊「事業を創る人の大研究」(田中聡・中原淳著)、発売10日で重版決定、AMAZONカテゴリー1位(リーダーシップ、オペレーションズ)を記録しました。本書は、「人と組織」の観点から、「新規事業づくり」を論じた本です。新規事業に取り組む人をどのように選び、どのように仕事を任せ、そして支援していけばいいのかを論じています。イノベーション人材、次世代経営人材を育成している教育機関の方にもおすすめの内容です。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
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昨日は、かつて「ワークプレイスラーニング2007-2009」をともに企画させていただいた、JMAMの張士洛さん、ダイヤモンドの石田哲哉社長、永田正樹さん、学部時代に大変お世話になった石井宏司さんと蛇の健寿司で久しぶりに会食をさせていただきました。昔話もさることながら、昨今の人材開発などなどの動きについて、多くを学ぶことができました。
ワークプレイスラーニング2007を企画していた11年前、僕はまだ31歳。今から考えれば、向こう見ずな企画でございました(笑)。皆さま、人材開発研究・実践を産学で立ち上げるため、大変快くご協力いただきました。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました!

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