NAKAHARA-LAB.net

2018.4.23 05:59/ Jun

学問は「わからないこと」だらけである!? : 「知識の消費者」から「知識の生産者」へ

 先生、リーダーシップって、日本の組織に必要ですか?
 先生、人事はなぜ働く人の「モティべーション」を気にしなければならないのですか?
   
  ・
  ・
  ・
   
 学部生を教え始めるようになってから3週間。
 僕の周囲では、これまで経験しなかったことが、いくつも起こっています。毎夜ごとの「違和感ノート」のメモには、ことをかきません。まことに面白いものです。
  
新入生や新入社員におすすめしたい「違和感ノート」!?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/8750
  
 数あるメモの中でも、面白いなぁ、と最近感じるのが、
  
 学生は「そもそも」を問うてくる
  
 というものです。
  
 授業やゼミなどで質疑応答をしていると、「とんでもない方向」から、「愛すべきナイス質問」をしてきます。冒頭ご紹介させていただいたような質問は、そのうちのひとつです。問いをもつことは素晴らしいことです。ナイス、それでいいのです。
  
 先生、リーダーシップって、日本の組織に必要ですか?
 先生、人事はなぜ働く人の「モティべーション」を気にしなければならないのですか?
  
 こうした類いの質問は、大学院生やビジネスパーソン相手に授業をしていると、なかなか出てきません。
   
 一般に、大学院生やビジネスパーソンですと、「リーダーシップやモティべーションが組織や労働には必要であること」や「リーダーシップやモティべーションが人材マネジメントの学問領域では、取り扱われるべきものであること」を「前提」にして質問をしてきます。
 また、自分の過去の業務経験や社会人経験で「足りない箇所」を補いながら、質問をしてくるので、とんでもない角度からの質問には、なかなかなりません。
  
 しかし、学部生は違います。彼らには「前提」と「働いた経験」がありません。
  
 先生、リーダーシップって、日本の組織に必要ですか?
 先生、人事はなぜ働く人の「モティべーション」を気にしなければならないのですか?
  
 といった「そもそも」をえぐるような・・・こちらが思わず答えに窮してしまうような「愛すべき質問」をしてきてくれるのです。僕は、思わず、唸ってしまいます。
  
 いい質問だ!
  
 質問をもらったからには、僕は教員として、答えられるものは、どのような質問であっても「全力」で答えようと思います。
  
 しかし、一方で、いまだに学問上、答えのでていないことに関しては、
    
「それは、まだ、わからないんです。そういう研究を、皆さんが企画してみてください」

 とおこたえします。
 別に「投げている」わけではありません。
  
「わからない」「まだわかっていない」と正直におこたえすることで、
  
 学問というものは、まだまだ「穴」だらけなのだ
 世の中には、まだまだ「わからないこと」がある=自分にも「探究の余地」がたくさんある
     
 ことを知って欲しいですし、
  
 学問というものは、素朴な問いから、はじまるものだ
  
 というものを実感して欲しいのです。
  
 そして、
  
 大学生のうちに、「学問の消費者」ではなく「学問の生産者」になる経験を一度はして欲しい
  
 と願うのですが、いかがでしょうか。
  
  ▼
   
 かつて、恩師の苅谷剛彦先生(オックスフォード大学教授:勝手に私淑させていただいていただけです)は、僕にこんな類いのことをおっしゃっていたことがあります。
  
 学部生を教えるときの大学教員の仕事は、学部生を「学問の入口」に立たせること
  
 学問って、面白いよ
 学問って、わからないことだらけだよ
 みんなが、学問の担い手になれるんだよ
  
 とあの手この手を通じて、「学問の入口」に立たせること。
  
 かつて20年以上も前に、苅谷先生が僕にしてくれたように、現在の僕の学生たちを「学問の入口」に立たせることができたとしたら、嬉しいことですね。まぁ、愚鈍で凡庸な僕は、苅谷先生のようにはなれないのですが(笑)、同じような思いで今日もキャンパスに向かいます。
  
 そして人生はつづく
  
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