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2017.11.29 06:01/ Jun

研究とは「見えてはいるが、誰も見ていないものを、見えるようにすること」なのか?

「見えてはいるが、誰も見ていないものを、見えるようにするのが、詩だ」
 
  ・
  ・
  ・
  
 詩人の長田弘さんの言葉です。この素敵な言葉をはじめて目にしたとき、僕の脳裏に真っ先に浮かんだのは
    
「研究も同じだよなぁ・・・」
  
 というものでした。
 本来、僕のような「ヘナチョコ研究者」の考えと、希代の詩人の言葉を「ごたまぜ」にしたくはないのですけれども(笑)、
  
 見えてはいるけれど、気づかれていないもの(Seen but not noticed)を「見える化」するいうイメージ

 は、僕の「研究観」に近いものがあるような気がしたのです。
 気のせいだったら、まことに申し訳ないのですが・・・(笑)
    
  ▼
  
 詩の場合であれば、珠玉の言葉をつむぐことによって「見える化」を試みます。
  
 研究の場合、問題は、
  
 じゃあ、どのような手段で「見える化」するのか?
  
 ということです。
  
 人文社会科学には、伝統的?に「質量論争」というのがあります。
 ヒアリングや聞き取りやフィールドワークや参与観察を行う「定性的な研究手法」と、数量化や統計的仮説検定を行うことをめざす「定量的な研究手法」というものが、ミュージカル「ウェストサイドストーリー」の「シャーク団」と「ジェット団」のように過去数十年にわたって対立抗争?を繰り広げてきました(笑)。
   
 今宵、世界は素晴らしく、そして輝いている
 トゥナイ、トゥナイ(笑)
  
 ちなみに、僕は、そのどちらにも「入らない」し、また「与しない」、「恥知らずの折衷主義派」という「無所属グループの人間」です。両者のシマを汚さないように、ひっそりと野に咲く雑草のように生きたいと思います。両者を適宜使い分けながら、「自分の目的」を達成することだけを考えています。
  
   ▼

「定性的な研究手法のよさ」として個人的にピンとくるのは、ご著書「質的社会調査の方法」にて岸政彦先生がおっしゃっているひと言です。
  
 それは、
   
 「息をとめて海にもぐること」
   
 に似ている。
     
「個人が抱える意味世界」という「深遠な海」に、調査者が息をとめて潜り、生々しい生活、現実のありようをさぐる。そうした個人の紡ぎ出す意味や物語に対して、これでもかと肉薄できることが、この手法の最大のよさであると思います。
   
 対して「定量的な手法」のよさとは、
  
 見失われがちな「全体像」を明らかにすること
    
 だと感じます。今の時代、全体像がとにかく見失われがちである。それを見ることができる。それも、誰が見てもわかる数字で、因果を設定したり、相関を見ることもできる。
  
「恥知らずの折衷主義者」は、「見えてはいるが、誰も見ていないものを、見えるようにすること」をめざし、それらの両者を使い分けます。
  
 そこには「目的」があるだけです。
    
  ▼
  
 今日は研究の方法論について書きました。
   
 いくつかの研究で、今年度のデータが出そろい、それぞれのプロジェクトの、担当者の皆さんが、分析作業に入っています。僕も隙間時間を縫ってではありますが、ひとつのプロジェクトのデータ分析を行いました。
  
 今年も、どんなデータに出会えるか、楽しみです。
  
「見えてはいるが、誰も見ていないものを、見えるようにすること」
  
 に何とか貢献することができればよいのですが。
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
  
追伸.
  
東洋経済オンラインで、ライフネット生命保険の創業者である出口治明さん、浜屋祐子さん、中原で、日本の育児を取り巻く環境やワンオペ育児が流行語にならないための世の中作りについて話し合っております。企画は光文社の樋口健さん、ライティングは井上佐保子さん、編集は東洋経済オンラインの菊地悠人です。皆様、大変お世話になりました! どうぞご笑覧くださいませ!
  
会社に閉じこもる大人は1ミリも成長しない
http://toyokeizai.net/articles/-/197023
  
「ワンオペ育児」を単なる流行語で片付けるな
http://toyokeizai.net/articles/-/196986
  
  ーーー
   
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