NAKAHARA-LAB.net

2017.11.7 06:51/ Jun

半年に1度しか会話をしない上司から下される「人事評価」への不満 !? : そろそろ近づく人事評価制度の「曲がり角」!?

 先生、わたしは、期初にわたしと「10分」しか話していない管理職に「評価」されるんです。
 ふだんはまったく「会話」はありません。
 10分で評価ができるんですか?
  
  ・
  ・
  ・
  
 先だって、ある方から、こんな言葉をいただきました(ありがとうございます)。
 いわゆる「目標管理制度」に基づく、半期に一度の期初期末面談にもとづく、形式化された「評価」のシステムに対する矛盾をついた、非常に示唆に富んだ言葉と思います(まことにお疲れさまです)。
   
 一方、せんだっては、ある管理職の方から、こんな言葉をいただきました。
  
 先生、わたしは、ふだんまったく接していない、2階層下の部下に、期初・期末の面談で、フィードバックをしなくてはいけないのです。こんな場合、効果的なフィードバックの方法はありますか?
  
 双方、悩みは深いようです。
  
  ▼
  
 いわゆる世の中で広く行われている期初期末の面談、その中で機能していると思われている目標管理制度は、 ドラッカーが考えたと言われています。しかし、学習院大学の守島先生が明らかにしておられるように、
  
 もともとMBO(目標管理制度)は、上司・部下のコミュニケーションのために、ドラッカーが生み出したもの
  
 であり、それは現在用いられているような「人事評価の仕組み」ではありませんでした。
 それが1990年代の成果主義導入のときに、「成果主義の付属品」としてあやまったかたちで導入され、今に至っているといいます。
 おそらく、当時の人事制度をコンサルティングしていた人などが、「成果主義を仕組みや概念として導入したはいいものの、それを機能させる適当な仕組み」を当時の人事部から求められたときに、苦し紛れに、持ち出したものではないかと想像します(これは想像です)。
  
ドラッカーが考えたMBO(目標管理制度)による人事評価・マネジメントが日本で機能しない理由
http://diamond.jp/articles/-/134685
  
  ▼
  
 仕事柄、さまざまな企業にうかがいますが、どう考えても、僕は、現在の評価制度は、明らかに「見直し」の段階にきていると思います。「ではの神」になって、「No Rating」とか、「欧米企業の後追い」をしたいわけでは、1ミリもありません。
 僕は評価制度の専門家ではないので、ここからは素人目になりますが、今、企業・組織では下記のような問題が起こっているように思います。
  
1.期初に設定された目標が「上司にも部下にも忘れ去られる問題」
 上司にとってみれば、半年前の、複数いる部下の目標を覚えてろという方が、どだい無理ではないかと思います。
  
2.変化の激しい企業の場合、期初に設定された目標が「すぐに色あせてしまう問題」
 特に変化の激しいIT企業などでは、よく聞く話題です
  
3.期末の面談までの時間が「半年」と長すぎる問題
 期初期末以外も面談すればいいのですが、オフィシャルに面談期間を設定されれば、それ以外の面談はなされなくなるはずです。みな、忙しいので。 
  
4.長すぎる間隔のあいだに、上司による「観察」や「サポート」が得られない問題
 上司も多忙なので、無理はないと思います。
  
5.期末の面談時間が短すぎて「納得感」が得られない問題
 目標は覚えられず、意識もされず、しかし、それに対してフィードバックがなされるので、納得感は得られません。
  
6.その結果、十把一絡げの評価が横行し、人事の「個別管理」や「多様性への対処」ができない問題
 育児、介護など訳あって働く人への対処、再雇用、定年制度を廃止し長く働ける環境をつくるためには、人事を個別管理し、そのひとにあった評価とフィードバックを行える環境をつくることとセットであるはずです。「条件」である評価とフィードバックがうまくいかない場合、様々な問題への対処は難しくなります。
 
 単純にあげても、上記のような問題が起こっているかのようにわたしには感じます。
 そして、この問題を解決する処方箋のひとつは、「そもそもの基準」に立ち返ること。すなわち「上司部下のコミュニケーションの頻度をあげること」「日常的なフィードバックを可能にすること」「日常のコミュニケーションの延長上に評価を位置づけること」の3点であろうと考えられます。
  
 もちろん、管理職にその時間が限られていることは周知のとおりです。いわゆる働き方改革は、今、一般社員からあふれた仕事が管理職や下請けに押し寄せる現象ー「管理職と下請けの過剰負荷」の新たな問題を生み出しています。
 いずれにしても、この3点を実行するためには、もしかすると、上司の役割定義を見直し、仕事のダイエットを行い、場合によっては、新たな人的サポートをつけなければならないかもしれません。
  
 しかし、専門家がいらっしゃるのに恐縮なのですが、今、どう考えても機能していない「評価制度」を見直していかないかぎり、現在の組織が抱えるさらなる問題ー「人事の個別管理」や「多様性への対処」が難しいように思われますが、いかがでしょうか?
  
  ▼
  
 今日は珍しく、朝っぱらから難しい問題?を書きました。
 皆さんは、いかが思われますでしょうか?
    
   ・
   ・
   ・
  
 ひさしぶりだねー。いつぶりかな、話すのは。
 じゃ、面談しましょう。
 面談、やることになってるからね。
 やらなければならないんですよ。
 忙しいのにごめんね。
    
 あのさー、期初に君が書いた目標って何だっけ?
 目標、3つくらい書いてたよな?
 あれっ、2つにしたんだっけ。
 まぁ、いいや。
    
 じゃ、それぞれ、みてみようか。
 どう?
 おれ、細かいことはわからないからね。
 状況、だいたい教えてくださいね。
 まぁ、教えてっていわれても、
 かなり前のことだから、君も、困るよなぁ。
 いいよ、思い出せる範囲で、いいんですから。
      
 うーん、要するに、できてるんだね。
 君、できてるって思ってるんだしね。
 できてますよ。
 うん、できてる。
       
 じゃあ、いいですよ、このまま頑張ってくださいね。
 頑張ってねー、期待してますからね。
 また、しばらくしたら、面談しようね
    
 何、来期?
 このシステム、目標のコピペができるらしいよ。
 でもね、しっかりと自分を振り返ってね。
   
 目標設定しといてくださいね。
 コピペだめよ。
 できるけどね。
 前の年は、バレるよ。
 前の前の年のやつなら、どうかな。
 いや、だめだからね、コピペは。 
    
 じゃあ、また来期。
 頑張ってくださいよ。
 ほんじゃ、次の人、呼んできて。
 忙しいのにごめんね。
      
 あなたの会社や職場では、評価制度が「機能」し、パフォーマンスはあがっていますか?
  
 そして人生はつづく
  
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