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2017.10.11 06:31/ Jun

ビジネスの現場で忌み嫌われる「他責思考」とはいったい何か?

 あの人は、いつも「他責」なんだよな・・・
 うちの新人は、なかなか「他責思考」が抜けないね
  
  ・
  ・
  ・
  
 「他責(たせき)」という言葉があります。
 この言葉、聞き慣れない人もいるかもしれません。僕も、ビジネスの文脈で研究をしはじめるまで、一度も耳にしたことがない言葉でした。
  
 手元のコンピュータで「たせき」と入力して漢字変換を行っても、候補としてでてくるのは「他席」のみ。
 このことだけからは判断はつきませんが、おそらくは、この言葉は、一般的な言葉というよりも、ビジネスの文脈で用いられる言葉(!?)であるように思います。

 皆さんの周囲には、「他責」という言葉が流通していますか?
 もしYESなら、流通しはじめたのは、いつからですか?
  
  ▼
     
 ところで「他責(たせき)」の意味とはなんでしょうか?
  
 今、仮に「物事がうまくいかないシーン」を思い浮かべてください。問題は、「物事がうまくいかない」ときの「原因」をどこに求めるか、ということです。
  
 端的に申し上げますと、
  
 物事がうまくいかない際の原因を「自分」に求めるのが「自責」
 その際の原因を「環境」や「他者」・・・すなわち「自分以外の要因」に求めるのを「他責」
  
 と言うのかな、と思います。
  
 ビジネスの文脈では、「売り上げがあがらない」「物事がうまくいかない」ときなどに、すぐに「環境が悪いせいです」「お客様が悪いのです」というふうに「自分以外のもの」に原因帰属をしてしまうひとのことを「他責」とラヴェリングされます。
   
 そういうときに、「自分が何とかします」といって動きだすことを「自責」といいます。
 一般には「自責」の態度をみせればポジティブに評価されますが、「他責」にはネガティブな評価がくだされます。
   
 なぜなら「自責」は、ただちに自分で「動きだす」からであり、アクションにつながるからです。一方、原因を「他責」に求める人は、原因が「自分以外」なので、動きだすことをしません。アクションがとられないのであれば、状況はよくかわることはないので、ビジネスの現場では「他責」は忌み嫌われることになりがちです。
  
 しかし、ここには注意も必要です。行き過ぎた「自責」は、過剰労働や過負荷を生み出しますので、自制が必要です。
  
 世の中には、誰がやっても売れないものはあるのです(泣)。
 誰がやっても、うまくいかないものはうまくいかない。そういうものはあるのです(泣)。
  
 世の中には「誰がやっても無理ゲー」に対して「自責思考がほどよくブレンドされた精神論」を持ち出して挑ませるケースが、ままありますので、注意が必要です。
 くどいようですが、「行き過ぎた自責」は、「みんな笑顔でデスマーチ」を生み出しますので、わたしたちは注意しなくてはなりません。
  
 ▼
  
 「他責」と「自責」
   
 ビジネスの文脈で広く流通している、この言葉ですが、ひとつ興味深いことがあります。
 それは「誰しも、他責と自責の罠から逃れるのは、なかなか難しい」ということです。
   
 たとえば、部下や自社の従業員のことを評して、やれ「自責」だ、やれ「他責」だとしている経営者や経営陣も、ともすれば自ら「自責」と「他責」の罠にはまっているということです。
  
 仕事柄、経営者の書いた書籍、残したインタビュー記事などを目にしますが、多くの部下を動かす経営者や経営陣ですら、
  
 経営がうまくいっているときには「自分」に原因を求める
 経営があんまり調子がよくないときには「環境・市場」に原因を求める
  
 傾向があるように思うのは、僕だけでしょうか。
 そういう方が、一方で、部下を評して「自責」だ「他責」だとおっしゃっておられるのを、どこかで耳にすると、まことに微笑ましく、そして、香ばしく感じます。
  
 みんな、あまり変わんないよね(笑)。
 あなたも「他責」
 僕も「他責」かも・・・自戒をこめて(笑)
   
 ▼
  
 今日は「自責」と「他責」ということについて書きました。これはビジネスの文脈では広く使われている言葉だと思いますが、皆さんの周囲ではいかがでしょうか?
  
 あなたは「自責」思考、それとも「他責」思考?
 そして
 あなたの周囲にはどんな人がいらっしゃいますか?
 「自責」思考、それとも「他責」思考? どちらが多い?
  
 そして人生はつづく
  
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