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2017.10.3 06:14/ Jun

あなたの会社の研修は「武器を前もって渡すモデル」それとも「乾いたときに水を飲んでもらうモデル」?

 あなたの会社の研修は「武器を前もって渡すモデル」ですか? それとも「乾いたときに水を飲んでもらうモデル」ですか?
  
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 研修やセミナーの企画を担当する人々のあいだには、「武器を前もって渡すモデル」「乾いたときに水を飲んでもらうモデル」という考え方の相違がございます(笑)。
       
「武器を前もって渡すモデル」というのは、
  
「学習者が、今後、仕事をしていくうえで使うスキルやツールを、前もって、研修企画者が予測して、研修やセミナーなどで、学習者に前もって、前もって、渡していくこと」
  
 をいいます。
  
 場合によっては、学習者にとってみれば、なぜ、今、この武器を渡されるのか、あまりピンと来ていないこともあります。でも「将来、必要だからと言われ、持たされる」。
 研修企画の担当者からすると、将来、必ず必要になる武器を、何とか「前もって渡したい」のです。それは学習者が苦労することが目に見えているからです。
  
 ドラクエ(ドラゴンクエスト)などのロールプレイングゲームにたとえて考えてみれば、わかりやすいかもしれません。
  
 ロールプレイングゲームでは「武器」を持たずして、「街の外」にでてしまえば、スライムにだってやられてしまうかもしれません。だから「前もって」武器を渡したいと願います。
  

  
 このように「武器を前もって渡すモデル」には、どこか「パターナリズム(権力のある人が、権力のない人に、よかれと思って介入すること)」が駆動しています。
  
  ▼
  
 これに対して「乾いたときに水を飲んでもらうモデル」というのは「逆」をいきます。
  
「乾いたときに水を飲んでもらうモデル」では、
  
「学習者が、困難な状況に陥って、喉が乾ききったあとで、水を飲んでもらう(=学習をしてもらうこと)」
  
 を考えます。

 この考え方の背景には、
  
「喉が渇いて」いないのに、水をいくら差し出しても、学習者は水(学習内容)を飲もう(学ぼう)とはしないだろう
  
 という思いがあります。
 なので、こちらのモデルでは、「乾いたときに、水をはじめて差し出すこと」を考えます。
 先ほどのメタファをもってみると、「武器を前もってわたす」のではなく、「武器は必要になってから渡す」ということになりますね。
  
 こちらのお考えをはじめて伺ったのは、ヤフー株式会社の本間浩輔さんからです(いつもインサイト溢れるお話をありがとうございます)。
  
 なるほど、こちらのモデルであれば、「学習者は必要性を認識」しておりますので、水を飲まない、武器を持たない、ということはありえません。
 ただし、「学習者が、水を飲まずに奮闘し続ける時間がそれなりにつづくので、基礎体力はもっていなくてはならない」かもしれません。
 また、悪意をもつ人がいれば、「何も育成はしないで放置すること」を正当化する言説としても機能してしまうので、その点は注意が必要です。
  
 ▼
  
 今日は「武器を前もって渡すモデル」と「乾いたときに水を飲んでもらうモデル」という2つのモデルで、研修企画を考えてみました。どちらが、悪いとかいいとか申し上げているのではありません。
 たとえば、研修の学習内容や職位に応じて、よしあしはでてくると思います。また新入社員などは、「武器を前もって渡すモデル」になりやすいと思います。月並みですが、ケースバイケースです。
  
 ただし、
  
 「こちらは思いをもって研修企画をしているのに、学び手が学んでくれないんだよねー」
  
 というときには、案じてみるのもよいかもしれません。「武器を前もって渡すモデル」の場合には「武器を渡される意義」と「武器を使うイメージ」が頭になければならないとは思いますし、「武器の素振り(イメトレ)」くらいはしておかなければ、実戦には迎えません。

 会社・組織によって、あるいは研修企画者によって、この2つのモデルは明確に意見が分かれるような気がいたします。
  
 あなたの会社の研修は「武器を前もって渡すモデル」ですか? それとも「乾いたときに水を飲んでもらうモデル」ですか?
  
 そして人生はつづく
  
 ーーー
  
追伸.
  
 昨日のブログでの調査につきまして、141名の方々にクリックいただきました。心より感謝いたします。結果は、下記の通りでした。
  
【中途採用社員の3年後離職率】
 御社に中途採用社員が、10人入社したとして、3年後、どのくらいの割合の社員が「離職」するでしょうか? ざっくりとした数字をお聞かせください。
  
36%  0%から14%くらい辞めてしまう
32%  15%ー29%くらい辞めてしまう
16%  30%ー44%くらい辞めてしまう
16%  45%以上辞めてしまう
  
 このブログをお読みの方の組織では、このような分布になったようです。離職は様々な要因がございますが、この離職のなかで、問題は「不適応」に関する離職がどの程度あるのか、ということなのかな、と思いました。それを少なくすれば、「とってダメなら、またとればいい」という悪循環を抜け出せる気がいたします。
  
 本当にありがとうございました。
  
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