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2017.9.8 06:45/ Jun

「ケースメソッド」の行く手を阻む「50枚読んで、500本ノックかまして、血尿信仰」!?

 ケースメソッドはもっと「自由」でいいのです!
  
  ・
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  ・
  
 先だって、僕の授業・慶應MCC「ラーニングイノベーション論」に、九州大学大学院経済学研究院の星野裕志先生におこしいただき、「ケースメソッド教授法」についての実演・ご講義をたまわりました。
  
 星野先生におかれましては、世界中を飛び回るお忙しさのなか、ご登壇をたまわり、心より感謝しております。僕も含めて、参加者一同、知的好奇心を刺激された、素晴らしい授業でした。ありがとうございました(参加者の皆さんもお疲れさまでした!)。
  
  ▼
  
 一般に、ケースメソッド教授法とは、
  
 1.授業の前に、予習として、学習者がビジネスケースをあらかじめ読みこみ
 2.授業中は、教員がファシリテータになりながら、ビジネスケースをみなで解釈し
 3.その中で、経営にまつわる意思決定を擬似的に行う
 4.マネジメントトレーニング(リーダートレーニング)
  
 と考えられていると思います。
  
 よく知られているように、ハーバードビジネススクール(HBS)を筆頭に、世界中には、この教え方でMBAを取得できる経営大学院がございます。
 HBSでは、卒業までに、1ケース30枚ー50枚、500本のケースを読み込み、解釈し、意思決定のトレーニングを積ませることで、経営者を育成しようとしているのだそうです。
  
 ▼
  
 ただ・・・このような「紋切り型のケースメソッド教授法の説明」は、実は、ケースメソッドの「敷居」を格段に高めてしまうことも、また事実です。
 実際、ケースメソッドは「ものすごく敷居の高い教え方」であるかのようなイメージが、世の中には流布しているのではないかと思います。
  
 世の中には、ケースメソッドには興味はある方は少なくありません。
 しかし・・・ケースメソッドの「紋切り型の説明」を目にしますと、
  
 ケースって50枚も書かなきゃならないのか・・・
 500本やらないと意思決定のトレーニングにはならないのか・・・
 ハーバードの学生のレベルじゃないと、ダメなのか・・・
  
 というような「深いため息」を生み出してしまうのです。
 これに加え、ケースメソッドでトレーニングを受けたかつての卒業生などが、昔の過去を懐かしみ、多少は「事実を盛って」話すこともあるものだから、事態は深刻です。
  
 オレは、学生の頃は、血尿がでるほど、ケースを読みこんだ!(笑)
 いやー、本当にお疲れさまでした。お体、くれぐれも大切に。
  
 かくして、ケースメソッドをめぐる言説には「〜しなければならない」が「満載」になってしまうのです。
  
 かくして人々の頭に生まれるのは、
  
 ケースは「50枚幻想」
 ケースメソッドは「500本ノック教」
 ケースをやるなら「血尿」
  
 というイメージです。
  
 ま、要するに、ぜんぶ「まるっと」まとめますと・・・
  
 ケースメソッドやるなら「50枚読んで、500本ノックかまして、血尿」
  
 ってことになるのですね。
  
 そして、そういう思い込みを前に
  
「やっぱり、うちには無理かも・・・」
  
 となりがちなのです。
  
 僕自身も、かつて、こういう思いをもってしまった人間の一人でした。
 ケースメソッドには、興味をもっていましたし、学生相手に授業でやっていたこともありましたが、いざ本気で踏み込むということになると、かなり二の足を踏んでいたのです。
  
  ▼
  
 しかし、星野先生は、わたしたちに「ケースメソッドは、もっと自由であっていい」とおっしゃってくださいました。
  
・ケースメソッドでは「何を誰に学ばせるか」という目的がきわめて重要。目的に応じていろんなケースの「書き方」や「使い方」があっていい
  

・ケースメソッドは「講義の前振りやつかみ」に使ってもいいし、「情報共有」のために使ってもいいし、「意思決定トレーニング」のために使ってもいい
  
・ケースの枚数は、目的に応じて「自由」でいい。「長さ」は目的に応じて変えていい
  
ケースは、講義と組み合わせてやってもいい
  
 といってくださり、実演を通して、フレキシブルで、知的好奇心をくすぐられるケースメソッド教授法を用いた授業をなさっていただきました。
  
 要するに、先生がおっしゃりたかったことは、
  
 ケースメソッド教授法は「目的」に応じて、フレキシブルに使えばいい
  
 ということだったのかな、と思います。
  
 これには非常に勇気を得ました。僕自身、「ケースを、自ら、また書いてみようかな」という気になりました。おそらく参加者の方の中からも、そうした方がでてくるのではないか、と推察します。
   
 心より感謝を申し上げます。
 ありがとうございました!
    
  ▼
  
 個人的な思いを書かせていただくと、ケースメソッドに関しては、(国内外問わず)、まだまだ今後の普及に可能性があると感じています。
  
 特に課題なのは、以下の3つをきちんと満たすような定番の教科書が、まだないことです
  
 ケースライティング(ケースをいかに書けばいいのか)
 ケースリーディング(ケースを使っていかに授業をすればいいのか)
 ケースラーニング(ケースを使っていかに学べばいいのか)
   
 個人的には、星野先生に監修いただくなどして、こうした書籍が出版されることが大変に嬉しいのですが(勝手に師とあおいでおります)、お忙しい星野先生のこと、今後にぜひ期待させていただきたく思っております。
   
 ケースメソッドは「自由」であっていい
  
 今回のワークショップには、研究室や部門から何名かのスタッフが参加させていただきました。今、彼らは、ケースライティングを行いつつ、それをリーディングし、ケースを開発しているところです。フレキシブルで、誰でもリーディングできるようなケースがさらに生まれることを願っています。
 最後になりますが、お忙しい中、ご登壇いただきました星野先生には、重ねて御礼を申し上げます。本当にありがとうございました!
    
 そして人生はつづく
  
 ーーー
  
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