NAKAHARA-LAB.net

2017.6.27 06:42/ Jun

「それって、あるあるだよね」という研究が「ある」理由!?

「見えてはいるが、誰も見ていないものを、見えるようにするのが、詩だ」
(長田弘)
   
 先だって、哲学者・鷲田清一さんの本を読んでおりましたら、上記の詩人の長田弘さんの言葉が引用されておりました。非常に含蓄にとむ言葉だな、と思い、思わずメモをとってしまった次第です
  
 僕は「詩」に関しては、まったくの「造詣」も「知識」もございません。
 が、このセンテンスでいわんとしているところは、自分の「土俵」である、研究にもあてはまるよな、と思い、関心をもってしまったのです。
  
   ▼
  
「見えてはいるけれど、誰も見ていないもの」とは、誰もが、ふだん「日常の生活世界」のなかで、自らの「網膜」にはうつっているけれど、「意識や志向性」を当ててはいないものと解釈できそうです。英語でいうならば、「Seen but not noticed(見えてはいるが、気づいてはいない)」ということになるのではないでしょうか。

 そうしたものを「見える化」していく、「Visualize」していくものが、「僕にとっての研究」なのかなと思っています。人は、見えないものは、マネジメントはできません。また、見えないものをもとに、対話することも難しいものです。
「見えないもの」をいかに「見える化」し、人々のあいだに意識を向けてもらったり、そこに対話や議論を生み出すか。これが僕の考える研究です。他人の研究観は、知りません。
  
  ▼
  
 これに関しては思うところもあります。
 苦節20年・・・未だたいした成果をあげていない僕の研究ですが、よく第三者から、よくこうした評価を受けることがあります。
  
「中原さんの研究は、驚きはないけど、あるあるだよね」
  
 はい、出ました、「あるある」(笑)
 皆さん、耳の痛いことをしっかりと告げてくださる、ナイスフィードバッカーですね(笑)。
 「驚きがない、でも、あるある観はある」は、僕が、最も皆さんから評価いただけることです。ありがたいことですね。
   
 この問題なんとか、自分としては「驚きに満ちたアイオープナー(Eye opener)な知見」を生み出したいとも考えるのですが、それは「センイチの世界(1000本に1本)」。残念ながら、僕には、まだクリーンヒットはありません。
  
 しかし、「研究のあるある度」だったら、それよりは「マシな線」はいけるような気がします。「地に足のついた研究をしたい」と常日頃から心がけておりますし、現場に還ることをそもそも最初から考えて、研究をしているからです。
  
 僕に「研究とは何か?」を教えてくださった先生が、かつて、こんなことをおっしゃっていました。
   
「基礎を積み重ねたら、いつか、応用になるという神話を疑え。(中略)最初から、応用することを考えて、しこたま考えて、研究を組みたてることだ。現場をなめるな。(中略)現場に還る研究がしたければ、最初から現場に還ることを想定して、方法を選べ。あとから現場に還ることを考えても、おそいんだ。あとから何とかなると思った研究は、もれなく、何ともならん。
  
現場をなめるな!? :「基礎研究を積み重ねたら、いつか、現場に応用できる」というのは本当か?    
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/7367
  
 願わくば、現場の人々が「見えてはいるが、誰も見ていないもの」、「Seen but not noticed」を、研究というアプローチによって、何とか「見える化」し、それをお返ししたいと願います。
 「あるある」としか感じられなくてもいい。むしろ、それは喜ばしい事態なのかな、と思います。「あるある」がきっかけで、「対話」や「議論」が起こることを願っています。
  
 そして人生はつづく
  
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