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2017.3.19 17:28/ Jun

「就職が縁故で何が悪い?総長が人材紹介して何が悪い?」の時代のお話!? : 福井康貴(著)「歴史のなかの大卒労働市場」書評

企業の採用活動は、縁故採用でなされており、職員などの紹介がなければ履歴書は提出できなかった
      
福沢諭吉は、トップ自ら、かつて企業に、塾生の人材紹介をしていた
   
大学の卒業試験は大変厳格で、その成績で就職が決まった
  
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 これらは、過去、この国の大卒労働市場に存在していた「あたりまえの光景」です。今、これら光景は、すでに「過去のもの」になっておりますが、しかしながら、数十年前には、これらが「社会の常識」でした。
 たとえば、現在の常識で、わたしたちは「縁故採用」を目にしたとき、それを「ずるい」と思う人の方が多いと思います。しかし、そうした「メンタリティ」こそ、歴史的かつ社会的に構築されたものであることを本書は思い起こさせてくれます。
 
  ▼
  
 せんだって、福井康貴(著)「歴史のなかの大卒労働市場」(勁草書房)を読みました。
  

  
 この本は、「大学の卒業」と「企業への就職」という2地点間のトランジションプロセス(移行過程)ーそこに駆動する選抜・採用の「仕組み」が、歴史的にいかに構築されたのかを明らかにしています。
  
 具体的には、「学生の潜在的な能力」という「見えないもの」をはかり選抜を行うために、いかにして、企業や教育機関が、このプロセスを設計してきたのかを論じています。
  
 学生の職業能力という「見えないもの」をはかり、効果的な採用活動を行うために、企業は何をシグナルとして情報を得て、採用を行っていたか。その現場では、どのようなスクリーニングが行われていたのか。
 就職活動の解禁に代表されるような、タイミングの制約がどのような意図をもってつくられ、どのように運用されてきたのかを明らかにしています。大変コンパクトに、この領域の歴史が論じられており、勉強になりました。
  
 本書を読んで痛感したのは、わたしたちが「今みているあたりまえ」は、過去には「あたりまえ」ではなく、歴史的に構築されてきたものであるという、社会科学のテーゼです。
 頭ではわかっていることなんです。
 しかし、大卒労働市場の形成プロセスもやはりそうなんだよな、と再び認識を新たにしました。
   
 そして、このことは、これからの「変化」をも予言することになります。
 すなわち「今現在、わたしたちがみている現実」さえも「変化のまっただなか」にあるということです。
  
 ワンセンテンスで述べるならば、
  
 今の就職・採用が、あたりまえだと思うなよ!
  
 ということですね。
 まことに興味深い。
   
  ▼
  
 本書は、本学・駒場の福山佑樹助教が、僕にすすめてくださった本でした。
 研究室の博士課程の高崎美佐さんが、「大学生の就職活動が組織社会化に与える影響」に関する研究をなさっているので、僕も勉強をしなくてはならないのです。
   
 素晴らしい本をご紹介いただき、心より感謝です。
 ありがとうございました。
  
 そして人生はつづく
   
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