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2022.10.31 08:06/ Jun

ひとは、社会に出ると「伸びしろ」の意味が、いつのまにか変わってしまうのかもしれない!?

 先日、慶應MCCの僕の授業で、社会人同士がペアになって、お互いの「過去の仕事人生」をインタビューしあうワークショップの機会を持ちました(受講生の皆様、お疲れ様でした!)。
  
 2人のペアインタビューには、敢えて、ゼミ生(大学生)にも1名、入ってもらい、そのインタビューで何が話され、どのような仕事人生が見える化したのか、そのプロセスを記録してもらうことにしました。
  
 キャリアインタビューのあと、幾人もの社会人のインタビューを横で聞いていた田上颯(たがみ・はやて)さんが、先日、大変興味深い感想を述べていました。一字一句同じというわけにはいきませんが、その観察が鋭いと思ったので、その要旨をご紹介します。
  
  
(田上颯さん)
https://www.instagram.com/p/CiFEx_1pTZw/
  
  ▼
  
 田上さんが、興味をもったのは、キャリアインタビューにのぞむ社会人(30代ー50代が多い)たちが、ある「問い」に、ものすごく「反応」をなさることでした。
  
 その問いとは、キャリアインタビューのなかに含まれる
  
「あなたの、伸びしろは何ですか?」
  
 という問いです。
   
 田上さんによれば、ビジネスパーソンの皆さんは、とくに、この「伸びしろ」という言葉を前にして、どう答えればよいのか困ってしまい、「うーん」と深く考え込んでしまう方が多い、のだといいます。
   
 実は、田上さんにとっては、この反応は「予想外」でした。
    
 なぜなら、20歳になったばかりの田上さんからすれば「伸びしろ」というものは「自分の行動の改善ポイントを書けばいい」といった内容で、どちらかというとポジティブな言葉(一歩譲って、少なくとも、ニュートラルな言葉)のように見えたのです。
   
 しかし、社会人の皆さんは、まったく異なる反応を見せました。
  
 社会人の皆さんにとっては、どうやら「伸びしろを述べる」ということは
   
 1.自分の短所や欠点を自分で表明すること(=これが、イコール、振り返り)
  
 ということになっているように見えたのです。
  田上さんに見えたのです(それが真実かどうかは、わかりません)。
    
 もし仮に、これが「是」だとして、これは、なかなか興味深いことです。
 N=1の事例なので、一般化はできないことは百も承知ですが、すこし妄想を膨らませて考えますと、
     
 ひとは、社会に出ると、「伸びしろ」の意味が、いつのまにか、変わってしまう
   
 という妄想的仮説が思い浮かびます。
  
  ▼
   
 ビジネスパーソンも、かつては、教育機関で過ごしていた、田上さんと同じような学生でした。
 しかし、おそらくは、社会でもまれ、様々な上司に出会い、期初・期末ごとに、仕事の反省を求められているうちに、「伸びしろ」の意味が変わってしまう。
  
 伸びしろという言葉の前に、否定的なイメージが浮かび、たじろいでしまう自分がいる。
   
 伸びしろという言葉の先が、なかなか、浮かばなくなってしまっている自分がいる。
    
 断定はできませんが、もしかしたら、田上さんの発見した事実とは、そういうことだったのかもしれないな、とも思います。それはビジネスパーソンの皆さんが悪いわけでもなんでもありません。仕事をしていくなかで、様々な出来事を、いわば年輪に表現されるかのように、経験してきたということです。
    
 実際、社会人の皆さんの、キャリアインタビューの感想のなかには、
   
「(キャリアを考えるときには、)自分のこれまでの仕事人生とは、全く「別のこと」をこれからするのではない、ということがわかった。自分の過去に、すこし接ぎ木をして、違うものにチャレンジしていけばいい」
  
 といった趣旨の感想がございました(内容をぼやかし、加筆・修正しています)。
  
 自分の将来の仕事人生を考えるにあたり
  
 ・自ら伸びしろを考える
 ・自らのこれからを考える
  
 ということは、とても大切なことです。
  
 しかし、キャリアワークショップなどで、ただちに安易にそこに向かってしまうと、それは誤解される可能性がある。それだけ、このシャバの世界には、キャリアを考えることが「過去のダメだし」とか「全否定」といったイメージに囚われているということでしょう。
   
 キャリアにまつわるインタビューを行うときには、そのあたりのイメージのすりあわせから行わなければならないことを、田上君のリフレクションは教えてくれました。素晴らしい!
    
 あなたの伸びしろはなんですか?
  
 あなたは自分のキャリアを考えるとき、過去のダメ出し、欠点探しからはじめていませんか?
  
  ・
  ・
  ・
  
 自分なんて探したって、
 見つかりませんよ
 自分は「ここ」にいるんだから
 (役所広司)
   
 過去を否定する必要ないですよ
 過去は変わらないんだから
 未来しか変えられないのだから
  
 そして人生はつづく
     
 ーーー

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