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2022.1.11 08:26/ Jun

わたしを「既存のカテゴリー」でくくらないでください!? : 偉大なクリエイターたちの密かな願い!?

 わたしを「既存のカテゴリー」で
 十把一絡げに、くくらないでください
   
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 銀座で開かれている「ソール・スタインバーグ展」に先日出かけました。ソール・スタインバーグといえば、雑誌「ニューヨーカー」のアートを担当し、世界で最も有名なイラストレーターのひとりです。
 
 
 
 彼を知ったのは、数ヶ月前に出かけた和田誠展(こちらも日本のトップイラストレーター)で、和田が幼少期・青年期に、スタインバーグの絵を模写していたという事実を知ったからです。
 
 天才・和田誠が模写まで行うアメリカ人・イラストレーターって、どういうひとなんだろう?
  
 という疑問をもちました。
 かくして、スタインバーグ展に出かけることになったのです。
  
ソール・スタインバーグ シニカルな現実世界の変換の試み
https://www.dnpfcp.jp/CGI/gallery/schedule/detail.cgi?l=1&t=1&seq=00000785
  
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 のっけから申しますが、このソール・スタインバーグ展は「素晴らしい展示」でした。とても興味深かったし、インスピレーションを受けました。彼のイラストレーションは、知性的で、かつ、哲学的なのです。
   
 とりわけ、スタインバーグの絵の根底に感じる、循環性・再帰性が僕としてはとても気になります。絵を描いているわたしが、描かれている。歩いているわたしは、永遠に歩く。そういうところが、みているものを、グラグラと揺さぶります。
  
 
 
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 加えて、スタインバーグの仕事の姿勢にも大変共感を持ちました。
 スタインバーグの残した名言というものが、こちらです。
  
「わたしは、まだ何の専門家にもなっていない、、、幸いにして」
  
 展示によりますと、生前、彼は「漫画家」と呼ばれることも、「イラストレーター」と呼ばれることも、ましてや「芸術家」と呼ばれることも、忌み嫌っていたといいます。要するに、スタインバーグは「何者でもない」と言われたかった。
  
 つまりは、スタインバーグは、どの領域、どのカテゴリーにも「分類されないこと」や「くくられないこと」を望んだ、ということです。おそらく、既存のカテゴリーに分類できないようなクリエイティブな仕事をしつづけたかったのだと思うのです。
  
「イラストレーター」と呼ばれて「イラストの世界に閉じこもる」のではなく、「漫画家」と呼ばれて「漫画界の重鎮」になるのではなく、「他人から名付けられること」「他人から権威づけられること」を拒否しつづけていた
 そして、彼は読者を魅了することに賭けたんだろうと思います。そこにしか、彼のクリエイションの存在理由はなかった。
  
 晩年、スタインバーグは、
  
「私は読者に共犯を呼びかけている」
  
 という名言を残しています。自らの絵をもって、読者に大いなる謎かけ、問いを残したかったのではないか、と推察しました。素晴らしいクリエイターです。
  
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 スタインバーグの展覧会からの帰り道、僕は、ボブディランが、ノーベル賞を受賞したときのスピーチを思い出していました。
  
 2016年、歌を歌い続けてきたアーティストであるボブディランは、ノーベル「文学賞」という賞を受賞し、悩みに悩んで、結局は、賞を受賞します。僕が思い出していたのは、そのときのスピーチです。
  
 このスピーチにおいて、ボブディランは、劇作家・シェークスピアを引用しつつ、「自らをくくり出すカテゴリー」について論じています。以下、少し引用してみましょう。

このスピーチには、「文学」というカテゴリーに括られることへの戸惑いと、それとは対極にある「創造するということのシンプルさ」が表現されているような気がします。
そして、本当のクリエイターは、「カテゴリーなど1ミリも気にせずに、目の前の作品に向かい合っていること」がわかるのではないでしょうか。
  
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ノーベル賞受賞の知らせを受けた時、私(ボブディラン)はツアーに出ている最中でした。そして暫くの間、私は状況をよく飲み込めませんでした。
    
その時私の頭に浮かんだのは、偉大なる文学の巨匠ウィリアム・シェイクスピアでした。
   
彼は自分自身のことを劇作家だと考え、「自分は文学作品を書いている」という意識はなかったはずです。
  
彼の言葉は「舞台上で表現するためのもの」でした。つまり「読みもの」ではなく「語られる」ものです。
  
彼がハムレットを執筆中は、
  
「ふさわしい配役は?」
「舞台演出は?」
「デンマークが舞台でよいのだろうか?」
  
などさまざまな考えが頭に浮かんだと思います。
  
もちろん、彼にはクリエイティヴなヴィジョンと大いなる志がまず念頭にあったのは間違いないでしょうが、同時に
  
「資金は足りているか?
「スポンサーのためのよい席は用意できているか?」
「(舞台で使う)人間のしゃれこうべはどこで手配しようか?」
  
といったもっと現実的な問題も抱えていたと思います。
  
しかし、賭けてもいい。「自分のやっていることは、文学なのか、否か」という問いだけは、シェイクスピアの頭の中には「微塵もなかった」と言えるでしょう。
  
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(中略)私(ボブディラン)は自分のやり始めたことを、ここまで長きに渡って続けてきました。何枚ものレコードを作り、世界中で何千回ものコンサートを行いました。しかし何をするにしても常に中心にあるのは私の楽曲です。
  
私もシェイクスピアのようにクリエイティヴな試みを追求しながらも、
  
「この曲にはどのミュージシャンが合っているか?」
「レコーディングはこのスタジオでいいのか?」「
この曲はこのキーでいいのか?」
  
などという、避けて通れぬ人生のあらゆる俗的な問題と向き合っています。400年経っても変わらないものはあるのです。
  
「私の楽曲は文学なのか?」と何度も自問しました。
この難題に時間をかけて取り組み、最終的に素晴らしい結論を導き出してくれたスウェーデン・アカデミーに本当に感謝しています。
 
ありがとうございました。
  
全文掲載|ボブ・ディランのノーベル文学賞の受賞スピーチ(引用・一部筆者加筆・修正)
https://rollingstonejapan.com/articles/detail/27267/2/1/1
  
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 わたしを「既存のカテゴリー」で
 十把一絡げに、くくらないでください
  
 わたしを「わたしのまま」でいさせてください。
  
 そして人生はつづく
   
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