NAKAHARA-LAB.net

2021.12.3 08:09/ Jun

あなたの周囲には「チェリーピッキング的学び」が広がっていませんか?:「小難しいこと」に詳しくなるけれど「Dxできない人材」が生まれるメカニズムとは何か?

「管理職研修は廃止します。これからはキャリア自律の時代です。オンラインビデオを、勝手に自分で選んで、自分で学んでください」
    
  ・
  ・
  ・
     
 こうした会社が、ここ半年で、本当に増えてきた印象があります。おそらくはリモートワークの影響もあるのでしょう。いわゆる「オンラインビデオ・自己啓発」の台頭です。
   
  ▼
    
 これまで、日本の「ビジネスパーソンの学びの現状」は「むごい」ものでした。パーソル総研の調査によれば、下記のことがわかっています。
  
  ・
  ・
  ・
  
 勤務先以外での学習や自己啓発について、日本は「特に何も行っていない」が46.3%で、14の国・地域で最も高い。
 2位のニュージーランドと比べて24.2ポイントも差があり、断トツで自己研鑽していない。
  
https://rc.persol-group.co.jp/news/201908270001.html

    
  ・
  ・
  ・
    
 この現状が「オンラインビデオ・自己啓発」で変わるのだとしたら、それ自体は嬉しいことです。
   
 しかし、ちょっと「気になること」も生まれています。
    
 10分のオンラインビデオを毎日見てるけど、小難しい言葉を知って、ちょっと小賢しくなって、終わった
   
 とか
  
 10分のオンラインビデオを見た先に何があるのかがわからない。これを知って、そのあと、何をしたらいいのだろうか?
  
 とかいう声を、ここ半年でたくさん聞くのです。
    
 くどいようですが、もともとアジアパシフィックでダントツ・ビリの現状が変わるのなら、自己啓発をはじめただけよいとも言えます。
    
 しかし、一方で、
   
 オンラインビデオ・自己啓発が「チェリー・ピッキング(つまみ食い・ラーニング)」に堕してしまう事例
   
 が増えているのだとしたら、それはすこし残念なことです。
  
 研修で学んだことが、現場で実践されることが「研修転移」です。
 そして近年の人材開発でもっとも重視されるのは「研修による学び」ではなく「研修転移」です。チェリーピッキング的な学びには「学び」はあっても「転移」がないのです。

「転移」がないということは「成果」はでません。よって、これは人材開発したことにはならないのです。
    
 これを防ぐのは、いくつか方法があります。
   
1)本人が目標設定を行い、何のために、何を成し遂げるために、どの順番で、何を学ぶのかを意識すること
      
2)学習内容を適切に配列し、行動を変容させるべく仕立て上げること
      
3)学んだことは必ず実践させ、フォローアップを行う機会をもつこと
         
 などがあります。
    
 要するに、「チェリーピッキング的な学び」には「カリキュラム(学習経験のつらなり・総体)」がないのです。
 カリキュラムが存在せずに、つまみ食いをするのだから、小難しい概念について詳しくなっても、その「先」がないのです。
   
 たとえば、「DX人材の育成」のためにチェリーピッキング的学びを仕立て上げるとします。ここで学ぶべきコンテンツは「デジタルフレーバーのするもの」だったら、なんでもいいのです。適当に用意して、「Dx人材育成コース」とかいう名前で「バンドル(束ねておけば)」いい。
   
 それを10分くらいのショートコンテンツにして100本ー200本用意すれば、いっちょあがりです。それを見たひとは「DX」を学んでいる気になるかもしれません。しかし、その「先」には何もありません。なぜなら、そこには「小難しい知識」はあっても、目標もなければ、行うべき行動変容も想定されていないからです。だから「学び」はあるかもしれませんが「転移」はしません。だから「Dx人材」には絶対になれません。
   
 このような「チェリーピッキング的学び」は、みなさんの周囲には広がっていませんか?
   
  ▼ 
    
 それでは、チェリーピッキング的学びを改善するにはどうすればいいでしょうか。これを改善するためには、本人の努力ないしは、サプライサイドの努力で「カリキュラム」に仕立て上げることが重要です。
   
 ちなみに・・・中教審でも「教師の学び」のこれからには、こうしたオンライン研修なども検討されています。その際には、「単なるチェリーピッキングにならない」ようにすることが重要です。
   
 むろん、これまでの研修も「チェリーピッキング」になっているところがあるのだとしたら、見直しが必要です。
   
 ▼
   
 今日は広がる「オンラインビデオ・自己啓発」について書きました。
   
「オンラインビデオ・自己啓発」は非常に安価で、広がりをみせています。一方、これに応じて、管理職への支援などは打ち切られています。管理職のやることは増え、しかも、給与はさしてあがらないのに、です。
    
 ただでさえ、「日本の管理職への投資はショボイ」のに、これをさらにさらに切り詰め、行わない選択をとっているのだとしたら、わたしは、そこに未来を感じません。
    
 なにも「オンラインビデオ・自己啓発」が悪いわけではありません。そもそもの人材開発の方針の認識が、時代にあっていないのだ、わたしは思います。
   
 管理職に対する支援は、これまで以上に徹底的に行い、オンデマンドビデオ・自己啓発にもさらに投資していくくらいでも、まだ少ないくらいです。
     
 あなたの周囲には「チェリーピッキング的な学び」が広がっていませんか?
  そして、それが単なる人材開発投資の削減のために使われていたら、要注意かもしれませんよ。
 
 そして人生はつづく
       
  ーーー
      
【好評発売中】1on1のコツをまとめた映像教材を、中原とPHPさんで共同開発しました。上司用、部下用あります。1on1について「同じイメージ」をもつことができます。どうぞご笑覧くださいませ!
     
上司と部下がペアで進める 1on1 振り返りを成長につなげるプロセス(上司用)
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061
  
経験を成長につなげる1on1(部下用)
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061   
  
  ーーー
   
【祝・eラーニング完成!】中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース完成しました。リーダー・管理職になる前には是非もっていたいフィードバックスキルを、PC、スマホ、タブレット学習可能です。ケースドラマでも学べます! 
     
中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース:Youtubeでデモムービーを公開中!
https://youtu.be/qoDfzysi99w
   
「実践!フィードバック」コース ありのままを共有し、成長・成果につなげる技術(PHP)
https://www.php.co.jp/el/detail.php?code=95123&fbclid=IwAR2he6Z_PTe3YiahcnCv3z9pNRXvrajPwVaRS8LLAYFkbWVH167qHDfYF5Q    

ブログ一覧に戻る

最新の記事

褒め方ひとつ間違えると「怯える、いい子」を量産してしまうメカニズムとは何か?

2024.4.24 08:22/ Jun

褒め方ひとつ間違えると「怯える、いい子」を量産してしまうメカニズムとは何か?

2024.4.17 23:54/ Jun

給特法、および、それにまつわる中教審審議に対する私見(中原淳)

たかがタイトル、されどタイトル!?: 研究タイトルを「一字一句」正確に書いてきてね!

2024.4.17 08:17/ Jun

たかがタイトル、されどタイトル!?: 研究タイトルを「一字一句」正確に書いてきてね!

2024.4.15 08:05/ Jun

「タイパ重視の時代」だからこそ「時代遅れ!?のラーニング」を楽しむ!

2024.4.15 07:29/ Jun

【参加費無料】リーダー育英塾2024募集開始!:特色ある学校づくり+持続可能な学校づくりを進めたいあなたへ!