NAKAHARA-LAB.net

2021.11.29 08:21/ Jun

で、結局、人材開発への投資は「儲かる」のか?という「香ばしい問い」への答えとは!?

 で、結局、人材開発への投資は「儲かる」のか?
  
  ・
  ・
  ・
  
 せんだって、大学院ゼミで、中原研OBの関根さんが、下記の論文を報告してくれました(感謝)。
  
Crook, T, R., Todd, S. Y., Combs, J. G., Woehr, D. J., Ketchen, D.J. Jr.,(2011) Does human capital matter? A meta-analysisof the relationship between human capital and firm performance. J. Appl. Psychol. 96 pp443–56
   
 人材開発が企業の成果にもたらす影響をメタ分析した論文で、要するに、結論は下記になります。
     
 
  
 過去の数十本の先行研究を、まるっと再分析(メタ分析)して鑑みると、
   
(1)人的資本への投資(human capital)は、企業の業績(firm performance)にも直接的にも正の影響を与えます。
  
 が、それに加えて、それよりも、
  
(2)人的資本への投資は、作業上の成果(operational performance)を高めることを通して、企業業績に間接的に正の影響を与える
  
 ということになります。
  
 平たく平たくシンプルに言えば、
  
 人材開発への投資は「儲かる」
   
 ということになるのだと思います。そして、その儲かり方は「作業上の成果」の高まりを「通して」もたらされる、ということになります。
  
  ▼
  
 ここでのポイントは、先ほどのセンテンスの後半部になります。
   
 つまり、人的資本への投資(human capital)は、作業上の成果(operational performance)を媒介(経由)して、企業の業績に影響を与えるということです。
   
 これを平たく平たくシンプルにいえば、
    
 儲けにつながるのは「現場の行動変容」を通してだ!
  
 ということになります。人材開発は、直接的に企業の業績をあげるというよりは、現場の行動変容などをとおして、成果を生み出すのです。
  
(逆にいうと、人材開発の責任範囲は、「現場にいかなる変化をもたらしたか」に置くべきだということになりますし、そこまでを射程にすればいい、ということになります
  
 この知見は、昨今の研修転移研究の知見とも符合します。
  
 昨今の研修転移研究は、研修効果の射程として、直接「儲けを生み出したかどうか」よりも「現場に行動変化をもたらしたかどうか」をおくケースが非常に多いものです。
   
研修満足度を質問する「直後アンケート」が研修評価としては「プチ残念」になりつつある件:研修評価は「行動の変化」まで追うのであーる!?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/11936
    
 
      
 端的にいえば、儲けに直接効果をもたらすのは「戦略」と「市場」です。

 つまり「何を、誰に、どのように売るのか(戦略)」と「そのとき競合がどういう状態か?」が、儲けに影響を与えます。これはあたりまえです。
  
 しかし、この戦略と同期して、現場がきちんと動き、製品やサービスを顧客に届ける必要があります。このとき重要なのが、現場の行動変化です。研修や人材開発は、この現場の行動変化をもたらします。それが間接的に儲けに寄与するのです
   
  ▼
      
 この業界に長くおりますと、1年に1度くらい、香ばしいオジサマたちが、
  
「で、研修やって、儲かんのか?コルァ」
  
 とすごんでくることがあります。
   
 わたしがこの業界に入った20年ほどくらい前から繰り返されている問いで、まことに香ばしいものです。
      
 研修とは「儲かること」を主目的に行うものではありません。研修ができることは「儲け」につながる「現場の変化」をもたらすことです。
      
 研修やって、それが直接、儲かるんなら、営業なんてせずに、毎日、研修してりゃいいのです。
   
 研修やって、それが直接、儲けにつながるのなら、工場なんて動かさずに、毎日、みんなで研修室にいればいいのです。
  
 研修にできることは「儲け」につながる「ラストワンマイル」を支えることです。で、人材開発は、現場を変えることで、儲けに貢献します
 鬼の首とったのごとく、凡庸な問いを繰り返しなさんな。
 これが結論です(笑)。
   
  ▼
   
 今日は、経営学部で教えている教員!???らしく、企業の業績と人材開発についてお話をしました。
 
 あなたの研修は「現場の行動変容」をもたらしていますか?
  
 そして人生はつづく
    
  ーーー
                    
新刊「チームワーキング」がオンライン管理職研修になりました。JMAMさんからのリリースです(共同開発をさせていただいた同社の堀尾さん、ありがとうございました。中原は共著者の田中聡さんと監修をつとめさせていただきました)。どうぞご笑覧ください! 
     
リリースしました!「チームワーキング研修版」
https://www.jmam.co.jp/hrm/training/special/teamworking/
   
 書籍「チームワーキング」おかげさまで「重版」を重ねております。応援いただいた皆様に心より感謝いたします。
   
    
 
https://amzn.to/3esCOrW
           
すべてのリーダー、管理職にチームを動かすスキルを!
ニッポンのチームをアップデートせよ!           
     
 ーーー    
       
【立教大学大学院で大学院生として学びませんか?】
 立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コースでは、経営学を基盤にしながら、人材開発・組織開発・リーダーシップ開発を実践できるアカデミックプラクティショナーを養成しています。別名、「ひとづくり・組織づくりの大学院」です。
 授業は「フルオンライン」。授業は金曜日夜と土曜日だけ行われており、2年間で、修士(経営学)が取得できます。
 今年は、3期生の募集になります!ご興味がおありの方は、ぜひ、お申し込みくださいませ!
   

      
 なお、在学生などの声、リーダーシップ開発コースでの授業の様子について知りたい方は、ぜひ、下記のニュース欄をお読みくださいませ!
  
ひとづくり・組織づくりの大学院での「学び」とは?
https://ldc.rikkyo.ac.jp/news/
       
  ーーー  
       
拙著「経営学習論」の増補改訂版が、東京大学出版会より刊行されました。新たに「リーダーシップ開発」の章を追加し、カバーの装いも変わっています。人材開発の基礎的な理論を体系的に学べる一冊です。どうぞご高覧くださいませ!
      

    

      
  ーーー
     
【好評発売中】1on1のコツをまとめた映像教材を、中原とPHPさんで共同開発しました。上司用、部下用あります。1on1について「同じイメージ」をもつことができます。どうぞご笑覧くださいませ!
     
上司と部下がペアで進める 1on1 振り返りを成長につなげるプロセス(上司用)
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061
  
経験を成長につなげる1on1(部下用)
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061   
  
  ーーー
   
【祝・eラーニング完成!】中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース完成しました。リーダー・管理職になる前には是非もっていたいフィードバックスキルを、PC、スマホ、タブレット学習可能です。ケースドラマでも学べます! 
     
中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース:Youtubeでデモムービーを公開中!
https://youtu.be/qoDfzysi99w
   
「実践!フィードバック」コース ありのままを共有し、成長・成果につなげる技術(PHP)
https://www.php.co.jp/el/detail.php?code=95123&fbclid=IwAR2he6Z_PTe3YiahcnCv3z9pNRXvrajPwVaRS8LLAYFkbWVH167qHDfYF5Q    
  
 ーーー
   

     
「組織開発の探究」HRアワード2019書籍部門・最優秀賞を獲得させていただきました。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
    

     
 ーーー
    
新刊「中小企業の人材開発」(中原淳・保田江美著、東京大学出版会、2021年)マニアックなガチ・学術研究書なのですが、発売10日で重版出来となりました。ありがとうございます。中小企業の人材開発メカニズムに接近を試みています。どうかご笑覧くださいませ!
   

   
 ーーー
        
中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
       
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。1カ月間は無料トライアルだそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
     
強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000059483.html
   
仲間から実際に認められた行動のデータから、自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加されました。職場における相互称賛を、自分の強みの発見と目標設定に役立てられます。
 
自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000059483.html
   
あなたの会社のリーダー・管理職は「部下の強み」を観察できますか?:相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が示唆する「リーダーの条件」とは?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
    
ピアトラストお問い合わせ
https://www.peer-trust.com/contact/
   
ピアトラストの効果まとめページ
https://www.peer-trust.com/research/2020/
    
 ーーー 
    
【注目!:中原研究室記事のブログを好評配信中です!】
中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約35000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
   
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.4.17 23:54/ Jun

給特法、および、それにまつわる中教審審議に対する私見(中原淳)

たかがタイトル、されどタイトル!?: 研究タイトルを「一字一句」正確に書いてきてね!

2024.4.17 08:17/ Jun

たかがタイトル、されどタイトル!?: 研究タイトルを「一字一句」正確に書いてきてね!

2024.4.15 08:05/ Jun

「タイパ重視の時代」だからこそ「時代遅れ!?のラーニング」を楽しむ!

2024.4.15 07:29/ Jun

【参加費無料】リーダー育英塾2024募集開始!:特色ある学校づくり+持続可能な学校づくりを進めたいあなたへ!

日本の企業はホワイトになったのか?:あなたの周りには「ノスタルジー温泉」につかって「昔」を懐かしんでいるひとがいませんか?

2024.4.4 08:57/ Jun

日本の企業はホワイトになったのか?:あなたの周りには「ノスタルジー温泉」につかって「昔」を懐かしんでいるひとがいませんか?