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2021.11.16 08:19/ Jun

対面授業が復活しても、なぜ、大学生はキャンパスに戻らないのか?:対面熱望・対面幻想から対面現実へ

 コロナ禍に少しめどが見えつつあることから、多くの大学では、授業形態を「オンライン授業」から「対面授業(対面+オンラインのミックス授業)」に転換し、学生にキャンパスに来るよう、促しています。
    
「ようやく対面授業に転換できた。学生は、対面授業が好きなはずなので、すぐにキャンパスに戻ってくるに違いない」
  
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  ・
  
 当初は、多くの大学関係者がそう思っていたところがあります。
  
 しかし、蓋をあけてみれば、実際は、そうなっていない大学が多いのではないかと推察します(少なくとも、わたしの知り合いのいる、いくつかの大学では、共通の現象が見られました)。
  
 わたしの事例で、しかも、ハダカンでしかないですが、コロナ禍前の10%から20%ほどの学生しか、大学には、学生が戻ってきていない印象があります。それほどまでに学生が減っている。
  
 これはどうしたことでしょうか。
  
 これを読み解くためには、学生の立場にたって、学生目線で、物事を考え直す必要がありそうです。
  
 ▼
   
 今からちょうど1年ほど前、急に大学に行けなくなり、対面授業も失われた頃は、学生のあいだに「対面熱望」の状況が生まれていました。
  
 当時は、失われた対面授業こそが「よいもの」とされ、多くの学生が「対面授業」を熱望しておりましたので、コロナ禍が一時的に終息したりしてキャンパスへの入講が「可」となったときには、学生は喜び勇んでキャンパスに戻ってきました。
  
 すなわち「対面授業」とは「希望」だったのです。
   
 とりわけ、2020年の1年生は、一度も大学に来たことなく、コロナ禍に突入しました。
 彼らのなかには、無条件に「対面授業は素晴らしい」といった「対面幻想(対面イリュージョン)」が生まれているパターンもあったように思います。
   
 しかし、何度かコロナが落ち着き、大学に通えるようになると、少しずつ「対面授業の現実」が見えてきます。
  
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 対面授業って、いったって、要するに「授業」です。
  
 ところで、コロナ禍前の、大学の「授業」って、そんなに「熱望」されるものでしたっけ?
  
 もちろん「素晴らしい授業」もあるでしょう。しかし、一方で「環境が厳しい授業」もあります。わかりやすい例を出せば、こんな感じです。
  
 数百人がすし詰めにされて一斉授業がなされる、いわゆるマスプロ授業で、板書も文字も、スライドのフォントも小さすぎて見えなくって、私語もたえない授業がありますよね。こうした「対面授業」って「希望」なのでしたっけ?
  
 かくして、学生たちは、考え始めました。
  
 週明け・月曜日・1限の授業から、数百人の学生に対してなされる大規模一斉授業に、片道1時間かけていく意味って、何なんだっけ?これって、オンラインでよくね?
  
 学生たちは「対面幻想」から徐々に解き放たれ、「対面現実」を見るようになってきました。
  
 考えてみれば、大学のキャンパスというのは「対面授業」だけではなく「対面で行われるサークル」「対面で行われる友人とのダベリ」「対面でおこなわれる懇親会・飲み会」などが行われていたのです。しかし、これらは、授業よりも、厳しい制限がかけられていることがほとんどです。
 大学生たちは、大学に行けるのにもかかわらず、これらの活動が難しいのが現状です。
  
 かくして「対面授業」が復活しても、なかなか学生が戻ってこない現象が生まれているのかなと思います。
  
 大学は現在の授業の多くを「対面+オンライン配信」する、いわゆる「ハイフレックス授業」として行っていますので、オンラインで受講する学生も数割います。つまり、学生は「選択」することができるようになったのです。
  
 すなわち、コロナ禍前は「キャンパスに来ること」を「強制」されていたのです。しかし、コロナ禍は、「キャンパスに来ること」を「選択」に変えてしまったのです。この変化が重要です。
  
 東京での自宅をひきはらい、田舎に行った学生は、突然、学期の直前に「対面を復活するので、これからキャンパスに通いなさい」と言われても当惑します。
 事情で、ワクチンを打てない学生などは、今も、外出を控えているひともいます。
  
 そして、もっとも多いケースは「対面熱望」「対面幻想」から解き放たれ「対面現実」を見てしまった学生なのだと思います。すなわち、キャンパスに来ること、来ないことを、彼らは「主体的に選択」しているのです。
  
  ▼
  
 今後、大学はどうなっていくのでしょうか。
  
 おそらく、どこかで対面授業とオンライン授業の「落とし所」が見いだされるのでしょうけれども、それにはもう少し時間がかかるようです。
  
 現段階では、
  
 対面で授業をするからには、そこに「学生たちが、大学に来る意味」を見いだせるような授業に徐々にシフトしていくことが必要なのではないか
  
 と思います。
  
 逆にいえば、
  
 コンテンツを伝達するだけでよいのであれば、オンライン・オンデマンドで行っていくこと
  
 も考慮に入れられるのではないでしょうか。
  
 以上、大学の「今」を、現場からお伝えしました!
  
 N=1の事例ですので、一般化は危険ですが、こんなことを日々考えながら、学生と1on1したり、あーでもない、こーでもないと議論しています。
  
 そして人生はつづく
    
  
 ーーー
  
追伸.
 昨日は中教審・特別部会でした。審議のまとめが提出され、教員免許更新制度が「廃止」されました(わたしはたいした貢献はしていません。月1の議論に参加しているだけです)。パブリックコメントも結果がでています。ご覧ください。
 
中央教育審議会・特別部会(教師の学び・働き方)
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2021/1422489_00010.html
  
審議まとめ要約
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20211115-mxt_kyoikujinzai01-000018914-7.pdf
  
パブリックコメント結果
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20211115-mxt_kyoikujinzai01-000018914-3.pdf
 
 昨日の特別部会での、わたしの発言は下記の通りです。教員の採用、および、教員養成系大学・研修の学びに関して、私見を述べました。
 
========================================
1.教師の人材確保問題:「入口」を増やす、「出口」を減らす
========================================
   
1.1.採用(入口問題)
 ・「選んでいるのではない、選ばれている」
   という認識をもつ
   
 ・多様な採用を実現する
  (採用の複線化に応じて、育成も複線化する必要性)
   【採用と育成はセットで考える!】
  
 ・とにもかくにも長時間労働の是正
  (長時間労働是正は、最大の採用メッセージ)
     
1.2. 離職防止(リテンション:出口問題)
 ・組織調査など組織状態・コンディションを
  見える化する仕組みの必要性
     
 ※多様な組織では
 管理職の管理コスト・必要なマネジメント力は爆増する
 (管理職の育成・エンパワーメントが必須)
    
========================================
教員養成大学、教職大学院における学び、教師研修は
 「子どもの学び方」と同期するべき
========================================
   
三位一体で「トランジション(役割移行)」
を確実を支援
   
・三位一体(役割分化+積極連携)
  1.教員養成大学(大学教育)
  2.教育委員会(研修)、
  3.学校(現場の学び)
  
  ↓
  
基本コンセプト
  
①「教師の学びは子どもの学び
   子どもの学びは教師の学び」
    
 ・子どもがICTを学ぶなら、教師の卵もICTを
 ・子どもがアクティブラーニングなら
  教師の卵もアクティブラーニングを!
 ・教師の卵も個別最適な学び+協働的学びを!
 ・子どもに振り返りが求められるならば、教師も振り返りを!
  
(この実現のためコストではなく
 投資を行うという姿勢が重要)
   
(自分が学んだ経験こそが
 教えるときに活用できる) 
  
②教師は「経験学習」で学ぶ+研修転移で学ぶ
 ・学んだことは実践してもらい、振り返る
  
③研修内容の徹底的に精選
 ・研修内容は増えていく運命にある:必ず見直しが必要
 ・思い切って、研修内容を減らす
  その分の資源で、重点項目をやり切る
    
  ↓
   
(荒瀬先生のコメントを受けての私見)
  
「教師の研修」ではなく「教師の学び」を考える
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
   
 ・学びには、それぞれの教師が興味関心、スキル
  に応じて、自ら決めて、自ら学ぶことが重要
   
========================================
  

                      
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強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
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自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000059483.html
   
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