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2021.11.10 08:12/ Jun

「研修とは対面なんだ」という心の呪縛を解き放て!:元に戻ろう、戻ろうとする「形状記憶合金」のような組織!?

 コロナ禍は、人材開発の業界に20年に一度の変革をもたらしました。
   
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 海外の研究者、実践者と話していると、みな口々にそういいます。それを端的に申しますと、下記の2点かな、と思います。
   
1.対面研修とオンライン研修が組み合わされるようになり、より研修転移を促す研修設計ができるようになった
   
2.対面研修には必須であった「アゴ・アシ・マクラ・カミ・ジム(食事代・交通費・宿泊費・印刷費・事務)」が不必要になり、人材開発の生産性が爆増した
      
 今日はこれを論じてみましょう。
      
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1.対面研修とオンライン研修が組み合わされるようになった+研修転移を促す研修設計ができるようになった
    
 まず、研修・ワークショップが「オンライン化」されることによって、イベント型で、全員を集める対面研修が「分散」することになりました。
   
 具体的には、これまでは2泊3日(16時間)で対面研修をしていたものが、それを分散させるということが起こります。
 たとえば、対面研修を初日一日(8時間)だけにして、残りを3分割させ、下記のように配分することができます。
   
 ■1日目:対面研修 8時間
  
    (一ヶ月のインターバルをおく:実践期間)
  
 ■2回目:オンライン研修(フォローアップ:2時間)
  
    (一ヶ月のインターバルをおく:実践期間)
  
 ■3回目:オンライン研修 (フォローアップ:2時間)
  
    (一ヶ月のインターバルをおく:実践期間)
  
 ■4回目:オンライン研修 (まとめ:4時間)
  
 学んでいる時間は同じ16時間です。しかし、こうすることで、研修と研修のあいだに「インターバル(間隔)」をおき、そこで受講生に「研修で学んだこと」を「現場で実践させること」が可能になりました。すなわち、研修転移させる間隔をかせぐことが可能になったのです。研修転移とは「研修で学んだことを、実践すること」です。
  
 これまでは、コストの面から「何度も研修を行うこと」は難しかったのですが、これからは「より頻度をあげて、短時間の研修(その分、研修の時間を短くする)を、何度か複数回行うこと」ができるようになってくるのです。
   
 この変化は、すなわち、
    
 研修設計が「長時間・イベント型研修」から「短時間・高頻度型の伴走型研修」に変化すること
  
 を意味します。
    
 ・・・絵にするとこんな感じです。
    

   
 従来の研修は、言葉を選ばずにいえば、いわゆる「集中詰め込み・現場ポットンバイバイモデル」に陥ることもありました(左図)。
   
 コストの面から、研修はイベント的に、詰め込みで、長時間・一時期に行われます。その後は、「学習者、現場にポットン・バイバイされる(研修の終了後に、現場でそれが実践されるかどうかは、学習者任せ)」というかたちになります。
  
 研修の転移を「期待される」が、それは「確認・フォローアップされないこと」が多いのです。
結局、人事は「研修転移を祈る(pray)」というかたちになります。
   
 しかし、これに対して、コロナ禍以降の研修は、対面・オンラインを組み合わせて「右図」のようになりはじめています。
    
 対面とオンラインを組み合わせれば、研修は、非常に時間を短くして、前回よりも頻度をあげて集まることができます。
   
 研修と研修のあいだの間隔(インターバル)のあいだには、現場での実践を行うことができる。また、次の研修の冒頭部では、研修と研修の間に実践した結果を「持ち寄ったり」「フォローアップ」したりすることができます。

    
 こうした研修形態の変化によって、これまでは、なかなか難しかった「学習者の変化のプロセス(トランジション)」をしっかりとサポート(伴走)することができるということですね。
    
 研修転移をより促すかたちで、研修設計が可能になった、という点が、コロナ禍以降の、新しいところです。
 誤解を避けるために申し上げますが、「対面研修がダメ」といっているわけでは全くありません。「対面」でなければ、教えられない、伝えられない内容はあります。そうではなく「対面」と「オンライン」を組み合わせることで、今までよりも効率的、かつ、効果的に教えることができますよ、現場に変化が生まれますよ、研修転移が促されますよ、と申し上げているのです。
   
 ▼
  
 次に2)対面研修には必須であった「アゴ・アシ・マクラ・カミ・ジム(食事代・交通費・宿泊費・印刷費・事務費用)」が不必要になり、人材開発の生産性が爆増した、についてはどうでしょうか。
  
 これは、もう説明は不要だと思います。
  
 かつての対面研修には
  
 食事を用意し(アゴ)
  
 交通費をだし(アシ)
  
 宿泊費・会場費を確保し(マクラ)
  
 資料の印刷を行い(カミ)
  
 これらの作業と、それにまつわる事務作業(ジム)にものすごい時間と手間をかけていました。
   
 しかし、コロナ禍と、それにまつわる研修のIT化、さらにはペーパーレス化は、これらの作業コストをほぼゼロにしました。
  
 一般に多くのメタ研究が明らかにするように、「コンテンツの配信」という観点だけなら、
  
 オンライン研修の効果は、対面研修とほぼ変わらないか、ないしは同等以上
  
 というのが業界の常識だと思います。効果は変わらないのに、労働投下量は下がるわけですから、生産性が爆増します。
     
 かくして、人材開発の業界には、この1年ー2年は「過去20年分の変化」に匹敵する変化が生まれたと思います。
 海外では、これを気に、徹底的なR&Dをすすめ、データに基づく、さらなる人材開発の精緻化に乗り出しています。 
  
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 しかし・・・ひるがえって、日本はどうか。
 昨日、ある研修会社の方が、こうおっしゃっていました。
 思わず、椅子から転げ落ちそうになりました(笑)。
    
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「中原さん、今、日本の会社は、びっくりするくらい、元に戻そう、元に戻そう、としてますよ。何事もなかったかのように、アゴ・アシ・マクラ・カミ・ジムをかけて、今まで通りの研修をしよう、しようとするんです。コロナは終わったので、難しいことを考えるのはやめて、元に戻そうってことです。
  
わたしたちとしては、かける労力は同じなので、研修転移を促すようにしましょうよ、と提案します。でも、研修とは対面なんだ、という呪縛から逃れられません。
    
担当者のレベルでは、新しいあり方を模索したいひともいます。しかし、上の方や、経営者は、研修とはかくあるべきものだ、研修は宿泊がなければダメなんだ、という思い込みが強いひともいます。あと、彼らはオンラインが苦手ですから。自分がしゃべるときは、対面じゃなきゃダメだ、ということになります。」
   

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 もちろん、日本の会社といっても、いろんな会社があるでしょう。わたしが関係している企業では、オンラインと対面を組み合わせて、様々な働き方を実現している会社もあります。
  
 しかし・・・上記の会話にあった「コロナは終わったので、思考停止して、元に戻そう」という発想自体が、かなりリスクを伴うものだと、わたしは思います。
     
 わたしがもっとも懸念するのは、このコロナ禍を気に、海外の人材開発のレベルと、日本の人材開発のレベルに大きな溝ができることです。
 コロナ禍を「好機」ととらえて変化することを受け入れるのか、それとも「もとに戻そうオバケ」に囚われて生きるのか。。。
   
 わたしたちは、本当に大きな岐路にいると思います。
   
 それにしても、本当に、組織は、「形状記憶合金」のようなものですね。
 すぐ、元に戻ろう、戻ろう、とする(笑)。
   
 そして人生はつづく
      
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