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2021.1.20 08:08/ Jun

ハイフレックス授業って「オンラインのぞき穴」を教室につくるだけでいいの?

 ハイフレックス授業って「オンラインのぞき穴」を教室につくるだけでいいの?
     
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 新型コロナウィルス感染拡大を背景に、急速に、教育機関・研修業界に広まっている授業・研修形式が、「ハイフレックス授業」というものです。
    
 ハイフレックス授業にも様々な形態がございますが、この記事のなかでは、ハイフレックス授業を
  
「対面で行われている授業・研修を、オンラインでも同時に配信すること」
  
 といたします。
  
 要するに
  
 対面にも学生がいる、オンラインにも学生がいる
 対面でも授業が聞ける、オンラインでも聞ける
  
 ということです。
  
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 このハイフレックス授業・・・わたしも何度か経験してきましたが、その感想としては、下記です。
  
1.「オンラインのぞき穴」のごとく、ただ単に「対面授業」をオンラインで「ダダ漏れ配信」するだけなら、ハイフレックス授業は、それほど難しくない。でも、単なる「ダダ漏れ」
  
2.ハイフレックス授業で、教員、対面の学生、オンラインの学生のすべてインタラクティブにやりとりさせるのは「至難の業」。双方向型ハイフレックス型授業は、はちゃめちゃ難しい。
  
3.データがないので確たることはいえないが、1の「オンラインのぞき穴型ハイフレックス授業」の教育効果は、双方向・フルオンラインの授業よりも、相対的に低いものと予想される。
ハイフレックスなどやらずに、フルオンラインで双方向のやりとりをした方が教育効果は高いと予想される

  
4.2の「双方向型ハイフレックス授業」の教育効果は、おそらく、フルオンライン双方向の授業と同等程度と思われる。ただ、言っとくけど、難しい。
  
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 上記は、もちろんデータをとって実際に比較したわけではありません。20年の教師としての勘であり、人材開発の経験です。
  
 しかし、そのくらい、ハイフレックス授業というのは難しく、それに慣れるには、よほどの経験が必要だということです。
  
 少なくとも個人的には、双方向型フルオンラインで行っていただいた方が、高い教育効果を出せます。
  
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 それでは、ハイフレックス授業の「難しさの根源」は、いったい、何に由来するのでしょうか?
  
 ひとつは、すでに多くの先生方が指摘されていることかと思いますが「マイクコントロールの難しさ」です。
   
 ハイフレックス授業では、同じ部屋で2つ以上のマイクが「オン」されてしまうとハウリングが起こります。
 また、オンライン側の音声が対面型教室に入るときには、マイクをオフしておかなければ、音声がめぐりめぐってしまいます。
  
 最近はずいぶんよい機器がでているようですが、基本的には、このマイクコントロールが肝です。
 わたしの場合、必ず、TA(Teaching Assistant)の役割をになっていただける方に授業のサポートを行っていただいております。
  
 授業者が受講生に向かって「真剣勝負」をしているときに、システムのことなんか、思いが及びません。
 授業者にハイフレックス授業を依頼するのならば、願わくば、サポートを考えていただく必要があるとわたしは思います。
  
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 もうひとつの難しさは「オンライン側の学生の存在」をいかに「忘れず」に、しかも同時に、対面授業側の学生も、きっちり相手にするかです。
   
 経験なさった方ならすぐにおわかりだとは思うのですが、ハイフレックス型授業では、対面の学生への対応を重視する余り、「オンライン側の学生の存在」を「綺麗さっぱり忘れてしまいがち」なのです。
  
 あっ・・・
 オンラインにも、学生、いたんだっけ?
 忘れてたわー
  
 という感じです(本当にすみません)。
  
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 これを防ぐため、わたしの場合は、対面型授業の教室に、授業者の方を向いたモニタをおき、そこにオンライン側の学生の顔を表示してもらいます。
   

   
 そういたしますと、対面の学生を見るのと同じように、オンライン側の学生を意識できます。
 つまり、「オンラインのぞき穴にうつるオンラインの学生」と「対面の学生を「併置」して授業を行う、ということです。
  
 ややこしい。
  
 このように教えるという行為は、授業者が用いるシステムと密接に関連します。なぜなら「教えるという行為の有能さ」は、授業者とシステムとの関係に「分かち持たれて」いるからです。
 授業者が、このシステムになれていないと、いつもどおりのパフォーマンスを発揮することはできません。
 
 オンライン授業でも、「いつも使っているシステム」とは違うシステムで授業をしろ、と言われると、なかなかうまくいきません。「わたしたちの授業の有能さ」は、自分とシステムとのあいだに「分かち持たれている」のだと思います。
  
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 今日はハイフレックス型授業について書かせていただきました。新型コロナウィルスの感染拡大は、「変異種」というややこしいプレイヤーの新たな登場で、いまだ余談を許しません。
 
 誤解を避けるために申しますが、わたしは「オンライン授業が好き」でも「ハイフレックス授業の信者」でもありません。
  
 わたしは「自分の授業がしたいだけ」であり「自分の授業を学生に届けなければならない」と思っているだけです。
  
 わたしたちにできることは、地道に、地に足をつけて、「学びをとめない努力」を為すことなのだと思います。
 そう自分に言い聞かせながら、日々、地道に授業に取り組み、研鑽する毎日です。
 
 春よ、来い!  
 そして人生はつづく
  
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