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2021.1.13 08:11/ Jun

あなたの会社の1on1は「3つの壁」にハマっていませんか?:日本全国蔓延中の「やらされ1on1」にご注意を!

 あなたの会社の1on1導入は「3つの壁」にはまっていませんか?
     
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 1on1(ワン・オー・ワン)は、ここ数年、もっとも注目されている人材開発施策のひとつです。
      
 ここで「1on1」とは「隔週・月1程度で行われる、上司ー部下のあいだの日常的な振り返りのミーティング」のことをいいます。
     
 1on1は、うまくいった場合には、下記のような効果が期待できるとされています。
   
 1.若年層(経験の浅い人材)の育成
 2.職場のトラブル防止・炎上防止
 3.組織メンバーのメンタルダウン、離職防止
 4.とりわけ優秀人材のひきとめ、メインテナンス
 5.シニア人材の活性化
    
 しかし、この1on1、多くの企業で導入が試みられているものの、その定着までには、なかなか時間がかかっているのが現状のようです。
  
 僕は、仕事柄、さまざまな企業の1on1導入のプロセスを拝見させていただくことが多いのですが、1on1には「3つの壁」があるような気がしています。その3つとは下記のとおりです。
  
【第一の壁】
 ・なぜやるのか?(目的の打ち込み)
  
【第二の壁】
 ・いかにあり(being)、どうやるのか?(doing)(マインドセット・経験の獲得)
    
【第三の壁】
 ・いかに継続しつづけるのか?
    
 これについて、以下、詳しく論じてみましょう。
  
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 まず、【第一の壁】ですが、これは管理職とメンバー双方に「1on1をなぜ実践しなければならないのか」という目的を、彼らの立場に応じて、わかりやすく説明できるかどうか、ということです。
   
「Why do?(なぜやるのか)」がわからないものを実践できるほど、人間というものは「物わかりがよい」わけではありません。目的が見失われれば、ただちに「やらされ1on1」が生まれてしまいます。
  
 ここで重要なのは、本人の立場にたって、この目的が説明されるかということです。
 人事の立場から、1on1の導入の目的を説明しても、そこには共感が生まれません。たとえば「離職率を下げたいので、1on1を導入します」とメンバーは説明されても、そこに共感を感じるひとは少ないはずです。なぜなら、「離職率を下げる」は、人事の関心事であり、メンバークラスの関心事ではないからです。
    
 別の言葉で申し上げますと、「1on1をやる本人にとってのメリット」を、きちんとわかりやすく説明できるかどうかが重要です。
  
 そして、さらに重要なのは、ここで目的を打ち込むだけでなく、
    
 1on1を実践する、それぞれのリーダー・管理職にとっての「目的」を、自ら言葉にさせて、腹に落とし込んでもらうこと
    
 です。
 そのためには、一方向的に目的を打ち込むだけでなく、対話を積み重ねることも重要です。
  
 ▼
  
 次に【第二の壁】です。
  
 第二の壁は「1on1をやる管理職に、1on1を実践していくために必要なマインドセットを獲得させ、そのたたずまい(being)を補正し、さらには1on1の経験を積み重ねていけるかどうか」です。
    
 1on1といえば、よくコーチングなどのスキルが注目されます。
 しかし、それ「以前」に、1on1を実践する管理職・リーダーは、1on1を実践するためのマインドセットを獲得していく必要があります。マインドセットは多々ございますが、
  
 1. 部下に興味をもつこと
 2. 人間は成長できると信じること
 3. まずは人間を信頼すること
  
 などです。こうしたマインドセットのもとに、そのたたずまい(being)をただしていくことが、まずは重要です。
  
 そのうえで、最後に必要なのは実践であり、経験です。
  
1on1は、実践を通してしか学べません
  
 さらにいえば
  
 1on1は、フィードバックをもってしか高められません
    
 よって、研修やワークショップでのロールプレイング、現場での実践を通して経験を振り返り、その精度を高めていくことが重要です。
   
 ▼
   
 【第三の壁】は「1on1の実践を継続できるかどうか」ということです。端的にいえば「継続の壁」といってもよいかもしれません。
   
 1on1は実践していくと、やがて、不安になってきたり、課題が生まれてきたりするものです。
 よって、1on1を実践しはじめたリーダー・管理職には、なるべくフォローアップの研修、ワークショップの機会を設けてあげるとよいと思います。
  
 そこで出てきたさまざまな不安を丁寧にすくい取り、ディスカッションしていくと、1on1の精度はあがっていきます。
  
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 以上、今日は「1on1の導入に際しての3つの壁」についてお話ししてきました。
  
 実は、先だって研修開発ラボという「学びの場」で、人事・人材開発関係者の皆様の課題解決にフィードバックをさせていただいていたのですが、そこで出てきた1on1にまつわる課題には、共通するものが多かったように思います。
  
(ご参加いただいたみなさま、ファシリテータの関根雅泰さん、鈴木英智佳さん、島村公俊さんには、心より感謝いたします。サポートいただいたダイヤモンド社の広瀬一輝さん、永田正樹さんに感謝いたします)
    
研修開発ラボ
https://jinzai.diamond.ne.jp/lab/
      
 とりわけもっとも重要なのは【第一の壁】であることはいうまでもありません。
 1on1を実践する「目的」をしっかりと説明し、対話を通して腹に落としていくことが重要だと思います。
     
 1on1、しょっぱなコケれば、そこから先は、すべてコケますので・・・
  
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 あなたの会社の1on1導入は「3つの壁」にはまっていませんか?
   
 そして人生はつづく
  
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上司と部下がペアで進める 1on1 振り返りを成長につなげるプロセス
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061
 
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