NAKAHARA-LAB.net

2021.1.8 08:32/ Jun

コンサルタントの本性と能力が「むき出し」になる「クライアントとの別れ方」!?

 コンサルタントは、いつかクライアントと「別れなければ」ならない
  
 クライアントをいかに「支援するか(support)」も大切だが、いかに「支援を解除するか(fade out)」はより重要である
  
  ・
  ・
  ・
  
 立教大学大学院 経営学研究科の、中原と藤澤先生の授業「人材開発・組織開発論II」では、
    
 1. 受講生がチームになって
 2. 自らが貢献したい「従業員規模100名以下くらいのリアルクライアント」をさがし
 3. クライアントの方々と協働しながら、
 4. クライアントの抱える人材・組織課題を調査し
 5. クライアントに対して、人材開発・組織開発を「実行」し
 6. 評価する
   
 といった、はちゃめちゃ「実践的な授業」をしています。
  
 この授業で、学生の皆さんは、
    
 1. 人材開発・組織開発のプロセスコンサルテーションの要諦と
 2. コンサルタントとクライアントとのコラボレーションの仕方を
 3. 生身で行う「コンサルティング」、リアルクライアントとの邂逅を通して
    
 学ぶことができます。
  
 授業は、終盤にたどりつき、残すは1月16日の最終成果発表を残すだけになってきました。
  
大学院生のみなさんは、各クライアントに対して、人材開発・組織開発などをなし、その成果をまとめる段に入ってきています。
  
 素晴らしい成果発表を、心より期待しています。
  
  ▼
  
 成果をまとめる段になって、最近、大学院生のみなさんが直面しているのが、冒頭の問題です。
  
 要するに、
  
 コンサルタントが、クライアントと「いかに別れるのか」を考えなくてはならなくなってきている
  
 のです。
  
 外部からの支援者コンサルタントは、いつまでもクライアントと一緒にいられるわけではありません。
 適切な支援をおこなったあとは、クライアントが独力で、自分の組織や事業を「立て直せる」ようにして「別れる必要」があります。
  
 コンサルタントは「クライアントを自分漬け」にしてはいけません。
  
 ここで「自分漬け」とは、コンサルタントがクライアントから対価を得続けるために、「自分がいなくては回らない仕組み・仕掛け」をはりめぐらせることを言います。
  
 一般に、コンサルタントにとってクライアントとは「金のなる木」でもあります。よって、自分の「金のなる木」を手放したくないがゆえに、コンサルタントが一生必要なかたちで「支援する」というやり方を行うコンサルタントもいます。
  
 クライアントが独力で歩けないように、クライアントを「育てる」
   
 のです(くわばら、くわばら)。つまり「育てる」ようでいて「育てない」のが邪悪なコンサルタントのサバイバルストラテジーです。
    
 一方、もっとも望ましいあり方とは、
    
 クライアントが、自分の組織を、自ら観察し、自ら立て直すことができることであり、独力で、何かを成し遂げることができるようになること
  
 なのだと思います。
 そのためには、クライアントが徐々に、自分を取り戻し、専門家の力を借りなくてもいいように、体力をつくりあげていく必要があります。
  
 このようにコンサルタントは、いつかクライアントと「別れる運命」にあります。しかし、この「別れる」というものは難しいものです。
  
 一般にコンサルタントは、
  
 いかに支援するか(Support)を考えるものですが、
 いかに支援を解除するか(Fade out)は、なかなか考えない
  
 ものなのです。
  
 支援の解除が早すぎれば、クライアントは「元の木阿弥」に戻ってしまいます。一方、支援の解除が遅すぎれば、クライアントは「独力」で立ち上がる機会を逸してしまいます。別れ方と、別れるタイミングをいかにとるかは、このように難問のひとつでもあります。
 
 ▼
  
 コンサルタントがクライアントと別れる時には、いくつかのパターンがあるかと思います。端的にいえば、「置き土産」を残して、その場を去るケースが多いのかと思います。
  
 置き土産の残し方には、典型的にはこの4つがあるかと思います。
   
 1. ひとで残す 
 2. 仕組みで残す
 3. ツールで残す
 4. 問いを残す
  
 1の「ひとで残す」とは、クライアントの組織のなかに、コンサルタントが去ったあとでも、独力で物事が成し遂げられるように後継者を育てていくことです。これをおこなうのであれば、コンサルタントは、かなり前から、「自分なきあとの世界」を想像し、後継者の育成を行わなくてなりません。
  
 2の「仕組みで残す」とは、制度やルールをつくりあげておいて、自分がいなくなったあとでも、制度やルールが、現場の行動や変革を「継続」してくれるようにしていくことです。
  
 3の「ツールで残す」とは、クライアントが、その取り組みを継続できるように、クライアントが独力で試みられるような素材ーたとえばプレゼンのファイル、計算式、調査、ワークシートなどなど、さまざまな素材を残していくことです。これらの素材をクライアントが用いることで、コンサルタントがいなくても、現場の変革が継続できます。
  
 最後の「問いを残す」とは、クライアントが継続して考えていかなければならない問い、課題を整理してあげて残していくことです。「すべての問題は解決できなかったけれども、このスケジュールで、この課題に対して考えていってくださいね」というかたちで、クライアントに「宿題」を残して、コンサルタントは去ることになります。
  
 さぁ・・・ひとづくり・組織づくりの大学院「立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コース」の大学院生のみなさんは、クライアントといかに別れ、いかに置き土産を置いていけるのか・・・。成果発表会がとても楽しみです。
  
 別れ方には「品格」が出るからね。
 最後の最後まで、頑張っていただきたいものです。
    
  ▼
  
 今日はコンサルタントのあり方を書きました。今日の記事は、主に「コンサルタントが外部からクライアントを支援すること」を想定して書きましたが、これは「内部コンサルタント(組織の内部のひとが、組織の内部のひとを支援する場合)」にも、ある程度は、言えることだと思います。
   
 あなたの周りのコンサルタントは、クライアントを「自分漬け」にして、がんじがらめに縛り付けていませんか?
  
 あなたはコンサルタントとして、クライアントと適切に「別れて」いますか?
 
 あなたの周りのコンサルタントは、クライアントを「支援する」一方で、「支援を解除すること」にしっかりと向き合っていますか?
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
     
【新刊予約発売中】
新刊「学校がとまった日」の特設サイト完成!&予約販売開始中! 緊急事態宣言・全国一斉休校で「学びを継続できた子どもの特徴」は?学びをとめないために学校にできることは?:書籍の内容が概観できます!どうぞご覧くださいませ!
  

新刊「学校がとまった日」の特設サイト
http://toyokan-publishing.jp/stop/index.html
  
新刊「学校がとまった日」予約販売開始中(AMAZON)

   
  ーーー
  
【好評発売中】1on1の失敗・成功ケースをまとめ、映像教材を中原とPHP研究所さんとで開発しました。失敗しない1on1について、具体的なイメージをもって学ぶことができます。どうぞご笑覧くださいませ!
     
上司と部下がペアで進める 1on1 振り返りを成長につなげるプロセス
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061
   
  ーーー
   
【祝・eラーニング完成!】中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース完成しました。リーダー・管理職になる前には是非もっていたいフィードバックスキルを、PC、スマホ、タブレット学習可能です。ケースドラマでも学べます! 
     
中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース:Youtubeでデモムービーを公開中!
https://youtu.be/qoDfzysi99w
   
「実践!フィードバック」コース ありのままを共有し、成長・成果につなげる技術(PHP)
https://www.php.co.jp/el/detail.php?code=95123&fbclid=IwAR2he6Z_PTe3YiahcnCv3z9pNRXvrajPwVaRS8LLAYFkbWVH167qHDfYF5Q    
   
  ーーー
  
ラーニングエージェンシーさんと中原研究室の共同研究により開発した「女性の視点で見直す人材育成:トランジションサポートプログラム」のご提供がはじまっています。ライフステージに応じて、役割移行を支援する、きめ細かい研修となっています。共同研究の成果は書籍「女性の視点で見直す人材育成」としても刊行されています。
  
女性の視点で見直す研修 トランジション サポート プログラム
https://www.learningagency.co.jp/service/transition/
 

 
 ーーー
    
。AMAZONの各カテゴリーで1位記録!(会社経営、マネジメント・人材管理・労働問題)。
長時間労働はなぜ起こるのか? 長時間労働をいかに抑制すればいいのか? 大規模調査から、長時間労働の実態や抑制策を明らかにします。大学・大学院の講義調で語りかけられるように書いてありますので、わかりやすいと思います。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
また残業学プロジェクトのスピンアウトツールである「OD-ATRAS」についても、ご紹介しています。職場の見える化をすすめ、現場マネジャーが職場で対話を生み出すためのTipsやツールが満載です。ご笑覧ください。
    

対話とフィードバックを促進するサーベイを用いたソリューション「OD-ATLAS」の詳細はこちら
https://rc.persol-group.co.jp/learning/od-atlas/

  ーーー
   
「研修開発ラボ」(ダイヤモンド社)が、フルオンライン化して大幅リニューアルしました。人材開発の「基礎の原理」を学ぶことのできるトレーニングプログラムです。どうぞお越しくださいませ!
    
研修開発ラボ 特別講座「人材育成の原理・原則を学ぶ」
https://jinzai.diamond.ne.jp/seminar/SEMINAR0495/
  
 ーーー
   

     
「組織開発の探究」HRアワード2019書籍部門・最優秀賞を獲得させていただきました。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
    

   
 ーーー
    
【注目!:中原研究室記事のブログを好評配信中です!】
中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約31000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
   
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.3.19 08:33/ Jun

私たちには見えている「将来の光景(vision)」!?:心ゆくまで知的に暴れてください!

なぜ?(why)と聞くより、How と What を聞け!:学生面談・部下面談をより有意義にするためのコツ!?

2024.3.15 10:38/ Jun

なぜ?(why)と聞くより、How と What を聞け!:学生面談・部下面談をより有意義にするためのコツ!?

相手の行動を変えたければ「行動を変えよ」と命令してはいけない!?

2024.3.14 08:16/ Jun

相手の行動を変えたければ「行動を変えよ」と命令してはいけない!?

生成AIがあるから「基礎」が重要!?

2024.3.12 11:04/ Jun

生成AIがあるから「基礎」が重要!?

「現場を知っていること」は本当に「良いこと」なのか!?:「おまえは現場をわかっていない」というフィードバックが、相手に1ミリも刺さらない理由!?

2024.3.11 10:43/ Jun

「現場を知っていること」は本当に「良いこと」なのか!?:「おまえは現場をわかっていない」というフィードバックが、相手に1ミリも刺さらない理由!?