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2020.11.6 08:25/ Jun

あなたの近くの若者たちは「アイデンティティ資本」をたっぷり持っていますか?:コテ&レヴィン著、河井亨・溝上慎一訳「若者のアイデンティティ形成」書評

 逆境に負けず、アイデンティティ(自分が何者か?)を探究しつづけるひとが、自らの「仕事人生」をアクティブに切り開いていくことができる!?
      
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 ここ数ヶ月、非常に難解な研究書「若者のアイデンティティ形成」を、知り合いの研究者たちと一緒に読む機会に恵まれました。この本は、ジェームズ・E・コテ&チャールズ・G・レヴィンらの著書の翻訳書(河井亨・溝上慎一訳)。まずは、この重要な著書を日本語に訳してくれた訳者たちに、心より感謝いたしたいと思います。
  

  
 また、研究会にお誘いいただいた加藤走さん、折口みゆきさん、堀尾志保さんに心より感謝いたします。ありがとうございました。楽しかったです。
  

 
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 本書「若者のアイデンティティ」の舞台となるのは、「かつての伝統」や「強固な共同体」が揺らぐ現代社会です。
 こうした液状化して、不確実性の高まった時代には、「人生の目標」を「個人」で引き受け、個人で「達成」することが求められます。
  
 かつての時代であれば、個人の仕事人生やキャリアは、「個人が決めるもの」ではなく「家や共同体が決めてくれるもの」でした。ある意味で「不自由な時代」でした。しかし「不自由」であるからこそ、個人は「悩まなくてもよい時代」であったと言えます。
  
 しかし、後期近代社会は様相がまったく異なります。
 後期近代社会は「家や共同体」が弱体化し、むき出しの「自由」が出現します。
 しかし、この「自由さ」こそが、悩ましさを生むこともある。
  
 かつて、サルトルは「ひとは、自由の刑に処せられている」という命題を発しましたが、まさに、現代社会を生きる若者は「自由の刑」に悩ましさを感じることになる。
  
 すなわち「自分の人生」は「個人で引き受けるプロジェクト」のようなものとなるのです。そして、こうした社会においては、すべてが「自己で決めること」「自己で引き受けること」になります。
  
 こうした時代にあっては「自己」を追求し、自らの「自尊感情」を保持したうえで、持ち前のプロアクティビティを発揮し、「アイデンティティ」を探究・確立していくことができなくてはなりません。
  
 逆境のなかでも自分を見失わず、自己を保ち続け、プロアクティブに物事を達成しようとする「心の状態」ーいわば「アイデンティティ資本」を確立することが重要なのです。これは、いわば「資本」として機能して、将来のキャリアを決めていきます。
 そして、それが保持できなくなってしまった場合、将来「アイデンティティ危機」に陥ったり、「仕事人生へのトランジション」に「つまづいて」しまうのです。
  
 くどいようですが、現代社会は、「アイデンティティ形成の不断の作業」こそが、いわば「資本」のように機能してしまいます。「アイデンティティ危機」は、将来の仕事人生の機能不全につながります。そうなってしまった場合、若者は、社会的・経済的にしんどい立場に置かれてしまいます。
  
 本書を端的に要約するとすると、こんな感じでしょうか
(溝上さんに、「中原くん、そら、違うでー。よく読んでや」と言われそう、笑)。
  
 今回の研究会では、加藤走さん、折口みゆきさん、堀尾志保さん、中原で本を読みつつ、1章、1章、文章を味わいながら、そこで得たインスピレーションを対話しました。ありがとうございました。
  
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 本書の面白さのひとつは、「この本は、研究者の目線で読むこともできるが、思わず、親の目線になってしまう(子どもをお持ちの方には)」ということもあるのかな、と思います。
  
 たとえば、僕の担当した7章には、不確実化する社会において、若者たちがどのようなタイプに分化していくかを論じてある部分があります。
  
 この部分、僕は、もはや研究者として読めませんでした(笑)
 思わず、親の目線になって
  
「このドロドロに液状化する社会において、TAKUZO、KENZOは大丈夫だろうか」
  
 ということを案じながら読んでしまいます(笑)。
  
 コテ先生曰く、不確実化する社会において、若者は下記の5つのカテゴリーに別れていきます(ただしくいえば、5つのアイデンティティ形成戦略をとります)。そして、それぞれごとに将来の経済的地位が「約束」されてしまう。以下では、それを見て見ましょう。
  
1. 「拒絶者」・・・「大人になること」を拒絶する若者たち
    
・成人期に入ることを「拒絶する」若者たちのことです
・30代になっても、まだ親と暮らし、職業スキルを獲得することを拒否します
・犯罪集団や地下経済に依存するひともいます
・大人の共同体に能動的に入っていくための資源(家族の裕福さなど)がありません
・両親と同じ経済的地位を確保はできません。
・キャリアは下方移動します
   
 ーー
  
2.「漂流者」・・・「豊かさ」ゆえに「漂流」する若者たち
  
・拒絶者同様、成人期に入ることを「拒絶」しています
・しかし、漂流者はキャリアを切り開いていける資源はもっています
・資源には高次知能、家族の裕福さなどがあります。
・しかし「漂流者」はそれらを「活用しようとしません」
・大人の共同体にはいっていかず「漂流」しつづける
・両親と同じ経済的地位を確保はできません。
・キャリアは下方移動します
   
 ーー
  
3.「探索者」・・・「終わりなき旅」のなかで探し続ける若者たち
  
・大人のコミュニティに入っていくことは「あきらめてはいません」
・むしろ「意識が高すぎます」
・彼らの「高すぎる水準期待」から「見いだすべき共同体」を見つけられません
・結局「終わりなき永続的なキャリアの旅」にでてしまいます
・両親と同じ経済的地位を確保はできません。
・キャリアは下方移動します
  
 ーー
  
4. 「守護者」・・・「親の価値観」から自由になれない若者たち
  
・拒絶者、漂流者、探索者とは異なり、十分に確立された児童期を過ごしています。
・青年期にも能動的に環境探索ができます。
・しかし・・・両親や共同体の価値観を「強く完全に内化」してしまっています。
・青年期になっても「個」としてのアイデンティティを確立できない
・両親の経済的地位を複製することができます
・キャリアは上方移動することができます
  
 ーー
  
5. 「解決者」・・・「仕事人生」を自分ごととして切り開ける若者たち
  
・さまざまな機会を利用して、成人期のアイデンティティ形成に成功します
・仕事人生をプロアクティブに切り開くことができます
・高いアイデンティティ資本を有しており、逆境に負けず、前向きに人生を乗り越えることができます
・社会経済的な障壁に打ち勝って上昇移動することができます
・自分の両親ほどの社会的地位を確保することができます
 
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 いかがでしょうか。
 親的には、ガクブルですね(アワワワワ)
  
「うちの子どもは大丈夫だろうか」(笑)
  
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 もちろん、5つのタイポロジーは、若者のリアリティを単純化・矮小化しているところがあります。
 しかしながら、このタイポロジーから「アイデンティティを見つける作業こそが、将来のキャリアに強い影響を与える」ことは、非常にクリアに理解できるのではないかと思います。
   
 端的に申し上げれば、現代社会とは、裕福な両親や上流階級の出身であるだけで、両親の地位を再生産することはかなり厳しいのだと思います。
 逆境のなかでも自分を見失わず、自己を保ち続け、プロアクティブに物事を達成しようとする「心の状態」こそが「社会的経済的の優位=経済資本」につながっていくのであり、それが、「将来の裕福さ」を決めてしまうということなのかな、と思います。
  
 わたしが何者かを問い続けること
 重要なのはわかるけど・・・
 しんどい社会でもありますね
  
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 今日は「若者のアイデンティティ形成」を紹介しながら、自分の息子たちの来し方を案じてみました(あれ?)
  
 あなたの近くの若者たちは「拒絶者・漂流者・探索者・守護者」になっていませんか?
 逆境に負けず、「自分が生きる意味」を探求し続けていますか?
  
 そして人生はつづく
   

   
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