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2020.9.4 08:54/ Jun

オンライン授業の抱える「3つの課題」とは何か?:立教大学経営学部がオンライン授業に関する学生意識調査の結果を公開

 大学の行う「オンライン授業」にまつわる学生の思いは、様々です。
  
 ネット上を渉猟してみると、そこには、オンライン授業に対する「呪詛」のような言葉も踊る場合があります。そうした書き込みを見ておりますと、ひとりの教員として、胸が痛くなります。
  
 世の中には、たしかに「ぺんぺん草もはえないようなオンライン授業」もあるのでしょう。そうした授業を受けていけば、オンライン授業にネガティブなイメージをもってしまうことも、あり得る話です。
 
 また「大学生活=授業」ではありません。やむを得ないことはわかっていつつも、サークル活動、部活動、学園祭、友達づきあい、恋愛など・・・本来ならば送れたであろう大学生活が、送れていないことへの焦燥感、無念さも、心が痛くなります。
 それらの満たしきれない思いが、たんたんと続く日々の「オンライン授業への呪詛」の言葉にかわる場合もあるように思います。教員としては、胸がしめつけられる思いがいたします。
    
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 しかし一口に「オンライン授業=ネガティブ」といっても、その改善のためには、もう少し掘り下げて物事を考えていかなければ、本質的な解決に至らないことも、また事実です。
 今、必要な知的な態度とは、具体的に、オンライン授業の「何」が芳しくないのか。そこを掘り下げて考えてみることです。
  
 管見ながら、さまざまな経験談、データを拝見してみて、僕が感じたオンライン授業の課題は、下記の3つです。
  
1. 授業のクオリティに分散がある
  
2. 課題が多い
  
3. フィードバックが得にくい+質問ができない
  
 今日は、これについて考えてみましょう。
  
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 まず、「1. 授業のクオリティに分散がある」は、「素晴らしい授業」から「ぺんぺん草もはえないような授業」まで、大学の授業の質に「分散」があるということです。
  
 とりわけ、評判が悪いのは「双方向オンラインでも、オンデマンドでも、授業自体は行わない、配布資料だけちょろんと配って、課題をだして終わり」という「授業?」です。あえて「授業?」と「?」をつけているところに、わたしの思いをくみ取ってください。
  
 こうした「授業?」に対する呪詛が、他の「素晴らしい授業」と十把一絡げにされて、イコール「オンライン授業=ネガティブ」のイメージが形成されているところもあるようです。
  
 しかし、それでは、なぜこうした授業が生まれてしまうのでしょうか。
 それは「授業」が「教員の所有物」かのようにとらえられ、その実施方法、クオリティにフィードバックがかからないからです。
 もうすこしシステム的に述べると、教育のクオリティに関する見える化、PDCA、教員に対するフィードバックが、大学内で機能していない大学もあるからです。これを機能させることが、問題の解決につながります。
  
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 ちなみに・・・この問題は、コロナになったから、オンライン授業だから生まれた問題ではありません。
 実は、「ずっと前から課題」だったのです。「オンライン授業のクオリティに差がある」のではなく、コロナ禍以前から、大学の授業には「クオリティに差があった」のです。
  
 コロナは、大学がもともと持っていた闇のひとつ、「授業のクオリティに差がある」を単純に白日のもとに晒しただけです。もちろん、そのままにしておいてよい問題ではありません。これを機会に、何らかの改善を行っていかなければならない、と当事者のひとりとして思います。
  
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 次に「2. 課題が多い」です。
  
 これは、オンライン授業を許諾する条件として、単に授業を行うだけでなく「双方向性」を確保すること、「課題をだすこと」が授業者に求められていることから生じます。
  
 ただ・・・問題は、実は「課題そのもの」ではありません。
  
 最大の問題は、実は、もっと別の所にあります。
 そのひとつは「授業の数がそもそも多すぎる」+「学生が一時期に膨大な授業を履修している」ことです。
 大学の授業が多すぎるのは、大学のなかには、学部として「カリキュラムをつくるという発想」がなく、教員が採用されるたびに、その教員にひもづく「新たな科目」を設置しているところもあるためです。また科目は、増やすことはあっても、一般に減らされることがありません。かくして、膨大な量の授業科目が生まれます。
  
 さらに深刻なのは、一時期に履修できる科目数の上限が設定されていないために、学生が、膨大な授業を履修していることも、そのひとつです。最近は、3年で就職活動がはじまるため、1年生、2年生の時期に多数の科目履修を行う傾向があります。
  
 また、もうひとつ深刻な問題は、課題の量が、個々の教員の裁量にまかされていることです。これは自戒をこめて申し上げます。他の授業でどんな課題が出されているかがわからず、個々の教員の判断で、課題が出されているため、それがまとまったときに、猛烈な量になってしまうことです。
  
 この問題の解決のためには、教員間の情報共有、カリキュラムマネジメントの発想が必要になります。
  
 ちなみに・・・この問題も、コロナ以前から大学のなかにもともとあった問題です。
 コロナは、大学がもともと持っていた闇のひとつを、また、白日のもとに晒しただけです。
 もちろん、そのままにしておいてよい問題ではありません。
  
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 最後の「3. フィードバックが得にくい+質問ができない」は、大規模授業が多い大学では、必然的に起こってしまう問題です。
  
 教員がひとりで、数百人に対して授業を行わなければならない環境で、個々の学生の抱える課題が質問に答えていくのは、ほぼ不可能です。ただでさえ授業をするのも大変なのに、それまでテレビ会議システムの操作もひとりでやらなければならない大学もあります。これは、猛烈な負荷です。
  
 加えて、オンライン授業では、授業終了後に教員が教室のまわりに残っていることができません。ですので、学生の皆さんのなかで質問をしたいひとがいても、これまでのように気軽には答えられません。
  
 この問題の解決のためには、たとえば、1つの授業科目を週に2回行い、1回は大規模授業(教員による授業ライブ)、もう1回はTAなどをもうけて学生同士で議論をしたり、質問タイムをもうけるなどのことがありえます。
  
 あるいは、授業の前後やオフィスアワーなど、学生が質問をしたければできる時間をもうけておくなどがありえます。
  
 ちなみに・・・程度の差こそありますが、この問題も、コロナで生まれた新たな問題というよりは、これまでにも大学が抱えてきた課題を、より鮮明に白日のもとに晒した、ということです。もう、おわかりだと思いますが。
  
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 いずれにしても、大事なことは、これを機会に、「ピンチをチャンスに変えること」かと思います。
  
 オンライン授業で顕在化した課題をしっかりと「見える化」していくこと、その課題をひとつひとつ向き合いながら、解決していくことかと思います。よいところも、厳しいところも踏まえて、課題を見える化して、議論をしていくことがもっとも重要なことです。
  
 この試みのひとつになるかどうかわかりませんが、昨日、わたしの勤務する立教大学経営学部(山口和範学部長)から「オンライン授業の効果、秋学期以降の方針」に関するプレスリリースがでました。どなたでも報告書のPDFファイルをダウンロード可能ですのでご笑覧ください。
   
 
  
立教大学経営学部がオンライン授業に関する学生意識調査の結果を公開:双方向型オンライン授業の授業満足度は、去年の対面授業を上回る結果
https://www.rikkyo.ac.jp/news/2020/09/mknpps000001bg3b.html
  
 内容は、先日のBLPカンファレンス(舘野泰一先生、田中聡先生、ご登壇)で語られたオンライン授業の効果性と、それを支える要因に関するものがベースとなっております。両先生方、事務局のみなさま、講師の先生方、SA・CAのみなさま、本当にお疲れ様でございました。
  
 報告書によりますと、1.双方向型オンライン授業の授業満足度は、去年の対面授業を上回る結果であること、2.授業内で質問しやすさ/インタラクティブ性を高める工夫が必要などのことが、データをもって示されています。成果をあげたところも、そうでないところも、現在の可能性や課題が見える化されています。
    
 もちろん、ここで見える化されているデータは、経営学部のBLP内部のもので、状況・文脈に依存したものです。これだけのデータから、オンライン授業一般を語ることはできません。ただ、今後のあり方を考える上での参考資料、対話の種にはなるのかな、とも思います。
    
 この報告書には、立教大学経営学部が学部レベルで行なっているIR(機関調査)のデータが活用されています。ご支援をいただきました公益財団法人電通育英会さまには、この場を借りて御礼を申し上げます。どうかご笑覧くださいませ!
  
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 あと数週間で、秋学期がはじまります。
  
 ピンチをチャンスに変えて、大学がもともと抱えてきた課題を、地に足をつけて、地道に解決していきたいものです。
  
 そして人生はつづく
  
 
  
立教大学経営学部がオンライン授業に関する学生意識調査の結果を公開:双方向型オンライン授業の授業満足度は、去年の対面授業を上回る結果
https://www.rikkyo.ac.jp/news/2020/09/mknpps000001bg3b.html

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