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2020.7.22 09:15/ Jun

「大学院での学び」と「企業研修の学び」は「別物」である!?:「求められる教え方」のこれだけの「違い」!?

「大学院での教え方」と「企業研修での教え方」は異なります
   
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 僕は、これまで過去15年間くらい、大学院で社会人大学院生を教え・指導ながら、一方で、企業研修や社会人コースなどで「実務家の教育」にも携さわってきました。その過去の経験を棚卸ししたとき、痛感するのが、これです。
  
 それは、
  
「大学院での教え方」と「研修での教え方」はまったく異なるのではないか
  
 ということです。
  
 聴講者は、いわゆる「社会人」で実務に携わっているひとで、まったく「同じ」であったとしても、その教え方は異なる。これが僕がふだんから思っていることのひとつです。
  
 もちろん、両者の教え方を、まったく「同じ」にできる先生もいらっしゃるのかもしれない。他人のことまでとやかくいう気は1ミリもないので、それはそれでいいのではないか、と思います。
  
 しかし、僕の個人的な経験に関する限り、これらは明確に分けていったほうが、うまくいくケースの方が多いと思います。
 今日は、それについて書いてみましょう。
  
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 まず「大学院の授業」と「企業研修」の場合、明確に違うのは、その「目的」と「時間(尺)」です。
 授業や研修にもいろいろあるので、一概には言えませんが、総じて下記のことが言えるのではないでしょうか(もちろん、企業研修といっても、いろいろありますよ・・・今日は、それをおおざっぱにまとめます)。
  
■大学院の授業
 ・主に学生が「探究」することを求める
 ・大学院修士は通常2年で完結することが多い
  
■企業での研修
 ・学生が「行動を変えること=決意すること」を求める
 ・尺は長くても数日。最近は、どんどん短期化する傾向がある
  
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 両組織にこうした明確な違いがある以上、僕は、「教え方」を大きく変えます。
  
 まず、大学院の授業では「揺さぶること」をかなり意図的に行います。
 めざしたいのは「学生が自分の問いをもち探究する姿」です。
  
 ですので、僕としては、「なるべく僕が答えを出さないように、学生に考えてもらえるように、いろんな刺激的な言葉や問いかけや、文献を提示することで、彼らの思考や信念を、揺さぶるように、一時期はモヤモヤするように」して、授業を行います。というか、そうしているつもりです(うまくいっていなかったらすみません)。
 揺さぶりによって「自分のわからないこと」を意識するから、モヤモヤします。そして、この「モヤモヤ」をすっきりしたくて、「探究」します。長い尺が、それを可能にします。
  
 極端な話、大学院の場合、学生は、2年間かけて「自分のモヤモヤ」を「成仏」できれば、それでいいのです。
  
 おそらく一時期、猛烈にモヤモヤするときがあります。
 そして、その際、彼らのモティベーションを保つのは、僕自身が「探究」している姿も見せることです。僕自身も何らかの答えを探していて、わからないことがある。それを探究している。それが、非常に重要です。
  
 これはわたしの信念ですが、
  
 探究しない教員に、探究を教えることはできません
 探究に向かう生徒は、かならず教員自身が探究しているか、いなか、を見ています
  
 残酷なようですが、これは事実だと僕は思います。
  
  ▼
  
 反面、企業研修では、この「揺さぶり」が部分的かつ限定的になります。
  
 企業研修は「行動を変えること」を求めること、決意させることが「目的」です。尺も限られています。絶対に2年はとれません。
 ですので「揺さぶり」はまったくゼロにはならないものの、相対的な割合をグンと少なくします。それよりも、過去をリフレクションし、未来を「つくりあげること」、そのための考える素材を提供することを目的にします。その際重要になっているのは、地に足のついた実務ドロドロの経験やストーリー、そして「あるあるのストーリー」です。これを話せるかどうかが、極めて重要です。
  
 このように、企業研修と大学院での僕の教え方は、かなり違います。
   
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 今日は、同じ社会人を教えていても、教え方や関わり方はずいぶん違うことを書きました。今日の僕の議論が、もし仮に「是」とするならば、
   
 社会人教育施設では教えることができていても、大学院では教えられない先生はいます
  
 反面
  
 大学院では教えられていても、社会人教育施設では教えられない先生もいます
  
 どちらが「いい悪い」ではないのです。
 優劣もありません。目的と、そこに流れている時間がまったく異なるのです。
  
 ですので、両者を架橋して教えるという場合に、問題は「教授スキル」だけの問題ではありません。意識しなければならない目的も尺も、そして、教員として提示しなければならない武器も、背中も異なるのです。
  
 なんだか最近の大学界の論調では、実務家教員として大学で教えるためには「教授スキルだけ、あとからとってつければOK」のような論調もあるようです。
    
 大変申し訳ないのですが、僕はその意見には「首肯」できません。
    
 パンツを履き替えるみたいに「教授スキル」だけとってつければ、いいってもんじゃない。
  
 他方の教員が、もう片方でパフォームするためには、目的と尺と、持たなければならない教員の強みや経験が、そもそもが異なると僕は思います。
 
 そして人生はつづく
  
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