NAKAHARA-LAB.net

2020.6.25 08:02/ Jun

あなたの組織は「リモートワークをするから」イノベーションが生まれなくなったのか?

「リモートワークになる前から、あなたの組織って、そもそも、イノベーションの種が、がんがん生まれていたんでしたっけ?」
 
「イノベーションが生まれなくなるから、リモートワークはダメって言いますけどね・・・本当にリモートワークになる「前」には、がんがん、アイデアの種が生まれていたんでしたっけ?」  
      
  ・
  ・
  ・
      
 新型コロナウィルス感染拡大の影響は、とどまるところを知りません。
 かくして、リモートワークや、従来のオフィスワークとリモートワークの融合であるフレキシブルワーク(ハイブリッドワーク:例えば週3出勤、週2が在宅)などの働き方が、だんだんと広まってきています。
  
 と同時に、そうした「新たな働き方」を覆そうとする「反作用の言説」も生まれてきます。
  
 つまり、
  
 リモートワークなんてダメだよね
 やっぱ、オフィスワーク、最強じゃん!
  
 を補強する言説です。オッサン言説ですな、いわゆる(笑・・・ちなみに、わたしにとって、オッサンとは、心の持ちようをいいます。新しいことにチャレンジしなくなった状態を、オッサンとよぶ)
  
 そうした言説のひとつで、もっともパワフルなものが
 
 リモートワークでは「イノベーション」は生まれない
   
 という「言説」です。
  
 曰く、
  
 リモートワークでは「作業」はできるかもしれないけれど「イノベーションは生まれなくなる」というものですね
  
  ・
  ・
  ・
  
 この言説、支持したくなる「気持ち」はよくわかる。

 たしかに、アイデア同士がぶつかりあうような「リアルな場」や、異なるひとびとが偶然に出会う「リアルな機会」などが、リモートワークによって減少していることは、否めぬ「事実」です。
 そうした「異なるもの同士」の「新結合」が「イノベーションの端緒」というのなら、先ほどの言説「リモートワークではイノベーションは生まれなくなる」も「是」ということになるのかもしれない。
  
 ただ・・・ここでマヂで「注意」が必要です。
  
 話をわかりやすくするために、極端に描き出しますが、本当に「リモートワーク」の「事前と「事後」で、イノベーション創出の機会が減っているのでしょうか?という疑問が、どうしてもわいてきます。
  
 つまり、
  
 リモートワークでは「イノベーションは生まれなくなる」
  
 というのであれば、リモートワークの「事前と「事後」で、イノベーション創出の機会が減ったことにならなければ「おかしい」のだと思います。これは本当でしょうか。研究者のはしくれとしては、ひとつひとつ、こうしたディテールが気になります。
  
  ・
  ・
  ・
  
 ここからはさらに妄想を深めますが、わたしは個人的に
  
 1.リモートワークになる「前」には、
 2.イノベーションの種がガンガン生まれていた組織が、
 3.コロナ禍でリモートワークになった「後」に、
 4.まったく「イノベーションの種」が生まれなくなってしまった
  
 という事例を、あまり聞いたことがありません。いやー、本当にそういう組織事例を聞かない。
 むしろ、イノベーションの種がバコバコ生まれている組織のチームでは、あらゆる手を尽くして、こんなときだからこそ、新たな開発を進めている。
   
 むしろ、現実はこうではないでしょうか。これは、リモートワーク反対派にとっての「不都合な真実」です
  
 むしろ日本全国津々浦々にあふれているのは、
  
 1.リモートワークの「事前」にも
 2.アイデアは枯渇し、イノベーションの種すら生まれていなかった組織が
 3.コロナ禍でリモートワークになった「後」に、
 4.これまでと変わらず「イノベーションの種」が生まれない
  
 ということです。それが「リモートワークのせい」にされている。
  
 でもね、、、本当はリモートワークのせいなんかじゃなくて、もともと存在していたのは
  
 コロナであろうと、なかろうと「イノベーションの生まれないアイデアショボショボ組織」であった
   
 ということですね。
  
 これをグラフにしてみましょう。
   
 縦軸に「イノベーションの種の程度(謎の指標)」をとって、横軸に「時間」をとってみると、こんなグラフになります。
 「リモートワーク前後」で「イノベーションの種の量」が、どの程度変わったのかを、グラフにプロットしてみると(これ、実証データがあるわけじゃありません。あくまで妄想グラフね)、さて、どうなるでしょう。
  
 
 
 もうおわかりですね。 
 本当に存在しているのは、下のグラフ。
 つまり、おそらく、巷に存在しているのは、「リモートワークの前」であっても、「リモートワークの後」であっても、イノベーションの種が生まれる程度は、「超低空飛行」をしている組織だということです。 
  
 イノベーションが生まれない理由は、もっと他のところにある。たとえば、出てくるアイデアをバコバコ組織内政治で潰していたり、既存事業と新規事業の仲が悪かったり、役員が新規事業のアイデアをはしご外ししていたり、そもそも役員が新規事業の芽を吟味する能力がなかったり・・・だいたい、そんなところです。

 イノベーションが生まれていないのは、リモートワークのせいではない
  
 ▼
  
 今日は、リモートワークとイノベーションについて考えてみました。
  
 あなたの組織は、本当に、「リモートワークになった」から、新しいアイデアが生まれないのでしょうか?
   
 そして人生はつづく
  
  ーーー
      
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