NAKAHARA-LAB.net

2020.2.13 07:48/ Jun

その組織調査の結果が「現場の改善」につながらない理由は何か?:大学の機関調査(IR)を事例として

 ここ10年ほどのブームでしょうか・・・大学では機関調査(IR : Institutional Research)と称して、教育・学習の達成度や、各種の教育情報を定量的に把握して、カリキュラム改善や組織運営に役立てようとする動きが広まりつつあります。
   
 別の言葉でいえば、これも、いわゆる「サーベイフィードバック(Survey Feedback)」の一種ですね。
   
サーベイフィードバックとは、サーベイ(調査 : Survey)で把握した、さまざまなデータを、組織やファカルティなどに「返して(Feedback)」して、関係者のあいだに「対話」をうながし、組織運営などに役立てる、ということです。関係者の方々は、それぞれご尽力なさっておられ、頭がさがります。
   
 しかし、一方で、この10年、さまざまな大学の試行錯誤を、噂で聞くことが多くなりました。どうやら、さまざまな大学で起こっていることの本質は、
  
 サーベイはやっているけれど、Feedbackができていない
  
 サーベイはやっているけれど、関係者のあいだに対話が促されていない
  
 サーベイはやっているけれど、カリキュラム改善・組織運営に役立てられていない
  
 といった残念な事例かなと推察できます。
  
 残念な事例は、たいていこんなパターンをとるのでしょうか
  
 IRの担当者として心理学、社会学、統計学の博士号をもつ専門家を雇った
 担当者は尽力し、教育情報の測定を正確に行い、高度な統計解析・モデリングを行っている
   
 しかし・・・
  
 この調査自体が、組織のなかで、どの程度、オーソライズされているかが怪しい。
 マネジメント側が、調査をどのように組織づくりやカリキュラムづくりに活かしていくのか、という回路が設計していないために、関係者に、そうしたデータが返らない。
  
 データを各部局から集めようとしても、学部が抵抗して集まらない。そもそもデータを取得することの意味が共有されていないので、データ取得の時点で、激しい抵抗にあう。学部はデータを用いて比較され、評価されることに及び腰になる。
  
 あるいは、現場にデータを返したとしても、あまりに高度な解析データで、どのように、それを活かしてよいかがわからない。専門家が多いので、高度な統計量で解釈に終止し、本質的な議論にならない。
  
 そもそも、関係者がデータをもとに、いかなる対話を行って良いかがわからない。担当者は統計やデータ解析の専門家であって、対話を促すことには長けていない。
  
 しかたがないので、担当者は、組織の「外」で、自分の大学のデータを用いて、学会発表などを行っている。かくして、サーベイフィードバックのデータは、組織の内部ではなく、組織の外部に環流する。他大学の先生が、他大学の状況を知って、学会で議論する、という「謎の状況」が生まれうる。
  
  ・
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 さまざまな大学の状況は「噂」でしか聴いていないのですが、たいてい、こんな想像が成り立ちます。この場合の根源的な問題は、機関調査にあるのでもなく、まして担当者にあるわけではない。機関調査を生かし切れない、「マジメントの機能不全」です。
  
  ▼
  
 手前味噌で恐縮ですが、わたしの勤める立教大学経営学部では、学部レベルで、ビジネスリーダーシッププログラムが主体となって「IR的な活動(IRと呼んでいません)」を行っています。
  
 データアナリティクスラボとよばれる、そのチームは、ビジネスリーダーシッププログラムを中心に様、入試データ、成績データ、意識調査などのデータをすべて統合し、分析にあたっています。ビジネスリーダーシッププログラムそのものの改善もそうですが、入試の種別による学業成果の違いを明示したり、就職活動の状況などをモニタリングしています
    
開催報告:立教BLPカンファレンス2019 新しい教育手法の評価とデータを活かした授業づくり(去年、この活動を伝えるカンファレンスを行わせていただきました)
http://cob.rikkyo.ac.jp/blp/3612.html
  
 こちらのチームは、助教の田中聡さんを中心に、高橋俊之先生、舘野泰一先生らの教員の皆さん、RAの木村君、中原、そして事務局の加藤さん、小森谷さんが参加しています。データアナリティクスラボは、公益財団法人・電通育英会のご支援のもとで設置された寄付研究ユニット(研究代表者:中原淳)です。
  
 データアナリティクスラボの目的は、下記の4つです。
    
 1.400名近くの学生から、様々な学習データを取得し
 2.それらをデータベースで一元管理し、
 3.ゴリゴリとデータを分析した上で、教育改善に活かすこと
 4.卒業後のデータも縦断で追跡することで、教育の効果性を検証すること
   
 これらの活動を通して得られたデータは、教授会に年に3度ほどの定期報告されたり、全学への年に1度の報告されたりします。
 くわえて、ビジネスリーダーシッププログラムのファカルティミーティングや合宿などでの、関連教員、TAなどへの報告がなされており、とりわけ現場に近いところでは、対話が促されています。
   
 いずれにしても、サーベイを行うだけでなく、フィードバックすることを重視しています。もちろん、課題がないわけではなく、フィードバックをいかにタイムリーに行っていくか、たとえば、学生に対して、どのようなメリットを出していくか、などチャレンジングが課題も存在します。
  
  ▼
  
 今日は大学の行う「機関調査」について書きました。
  
 今後、大学のIR的な活動は、サーベイをすることよりも、それをいかにフィードバックするのか、という観点から語られることになるのではないか、と思います。
  
 その際に必要とされる専門性は、高度な統計解析や、データ解析もさることながら、現場のひとびとにわかりやすくデータを可視化していくスキル。そして、関係者のあいだに対話をうながすスキル。そして、そうしたうねりを、組織内に広めていくリーダーシップを発揮するスキル、ではないかと思います。
  
 統計パッケージのSPSSやRのスキルをいくら高めても、大学のなかで「よい機関調査」を為すことはできません。
   
 担当者の尽力に応えるよう、そうした機関調査を、しっかりと組織のなかに意味づけ、目的が共有されている状況をつくることが重要であろうと思います。
   
 ちなみに・・・2月28日、実は、PHP研究所さんから、新刊が出ます。
 せんだって、新刊のタイトルが決まりました。
  
 パンパカパーン!
  
 サーベイ・フィードバック入門――「データと対話」で職場を変える技術
 【これからの組織開発の教科書】
  
 です。
  
 現在、最終の作業を編集の宮脇崇広さんがなさっておられると思います。構成の杉山直隆にも、大変お世話になりました。この本は、会社のなかのサーベイ(調査)の活かし方について論じた本ですが、一部、大学で行っている教育調査、機関調査などについても論じています。
  
 多くの方々にお読みいただければと思っております。
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
  
新刊「フィードバック入門:耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術」絶賛発売中、13刷重版出来です!。AMAZON総合13位、1位(マネジメント・人材管理カテゴリー、リーダーシップカテゴリー)を記録!年上の部下、若手のトンガリボーイ、トンガリガール。職場には、多様な人々が集っています。難易度の高い部下育成に悩む管理職向けの新書です。どうぞご笑覧くださいませ。スピンアウト企画にDVD教材「フィードバック入門」、研修、通信教育もあります。こちらもどうぞご笑覧ください。
      

    
『フィードバック入門』スピンアウト企画
https://www.php.co.jp/seminar/feedback/
  
 ーーー
  
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