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2020.1.27 07:32/ Jun

日本初!刑務所のなかでの「治療共同体(対話)」を克明に描き出した、とてつもない映画「プリズンサークル」を見た!

「これは闘いだった」
  
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 坂上香監督が10年の歳月をかけてつくりあげた映画「プリズンサークル」を見ました。
 

  
プリズンサークル
https://prison-circle.com/
  
 プリズンサークルは「刑務所の映画」です。
 日本で唯一、刑務所の内部で「治療共同体」を運営している刑務所である、島根あさひ社会復帰促進センターの「内部」にはじめてカメラが入り、そのプロセスが撮影されました。
 
 ここで「治療共同体」とは、薬物、アルコール、軽犯罪などの問題を抱える個人が、グループになって、その問題について語り合い、支え合うことで、相互の回復を促進し合うグループ療法のことです。
 支援員とよばれるファシリテータのもと、受刑者たちが輪(サークル)になって、自己と向き合い、罪を語り合う。そうした対話のプロセスを通して、罪をつぐない、再犯を防ぐのが治療共同体です。
   
 この映画では、数十人の治療共同体ユニットにいる「4人の若い受刑者」を対象に、2年間にわたり撮影を行い、彼らの変化をおっています。
  
 ▼
  
 最初に申し上げておきますが、加害者がどんなに内省を行おうが、変化をとげようが、回復しようが、それで加害者の被害者に対する罪が消えるわけではありません。悪いものは悪い。罪は償わなければならない。このことはあたりまえのことです。
   
 しかし、このアタリマエの事実を確認したあとで、治療共同体の内部を見ていくと、そこには、違った現実も広がっています。
  
 プリズンサークルは「暴力が連鎖することを訴えた映画」です。
 この映画が暴き出した事実とは、加害者のなかには「加害者であるまえに、被害者であったひと」も少なくない、ということです。
  
 子ども時代
 前歯が欠けるまで殴られたこと
 ネグレクトでいつもおなかをすかせていたこと
 学校では、いじめに苦しんだこと。
  
「受刑者=加害者」の過去には、かつて自らが被害者であったストーリーがあります。映画は、彼らの過去を克明に描き出していきます。
  
 蓄積する暴力、積み重なる被害の果てに、彼等は、子ども時代、少しずつ変わっていきます。「自らが虐待されていた」「自分は言われもない暴力を受けていた」という事実から、次第に「反倫理的・反社会的なストーリー」を強化させていくのです。
  
 自分も被害者なのだから、誰かを被害者にしてもかまわない
 自分はいわれのない暴力を受けていたのだから、暴力を行ってもかまわない
 自分はずっと孤独だったのだから、他人のお金を奪っても、赦される
  
 これが「犯罪」につながっていきます。
「被害者」が「加害者」に転換してしまう瞬間です。
  
 島根あさひ社会復帰促進センターでは、治療共同体が組織され、40人の加害者たちが、定期的に2年間にわたって、自分に向きあいます。
 自分の過去を語り合い、自分の罪を語り合い、他人からフィードバックを受け、受容され、少しずつ自分を回復させていく。自らを呪縛し、自らを負の方向に駆り立ててきたストーリーを解体させていくことがめざされます。そうした対話のプロセス自体が、治療共同体、プリズンサークルです。
  
 映画は、こうしたストーリーを冷静に記録します。企画から10年、許可をとるまで6年、2年かけた撮影のプロセスで、4名の受刑者たちは、少しずつ変化を見せます。
  
  ▼
  
 このたび、僕は、この映画を、封切り当日の、一番最初の上映回に見ました。
 映画の最後には、坂上香監督が、舞台挨拶にお越しになり、映画撮影の苦労を語っておられました。
  
 坂上監督の言葉は、どれも重いものでしたが、もっとも印象的だったのは、
  
「これは闘いだった」
  
 という言葉でした。
   
 その闘いのなかには、6年間かけて法務省から許可を得たこともあるでしょう。
 しかし、もっとも苦労したとおっしゃっていたのは、その撮影手法です。今回、法務省から撮影が許可される条件として、1)被写体とは決して接触してはならない(話してはいけない)、2)被写体には必ずモザイクをかけなくてはならない、というものがありました。
  
 ドキュメンタリー映画の撮影は、通常、被写体と信頼関係を結びながら、生の声を語ってもらいます。それなのに、今回の映画撮影では、被写体とは話してはいけない。
  
 坂上監督は、
  
「これが映画として成立するか、最後までわからなかった」
  
 とおっしゃっていました。
 印象的なひとことです。
   
「これが映画として成立するかどうかわからないまま」、2年間にわたり、広島からレンタカーで2時間のところにある島根あさひ社会復帰促進センターまで、監督は通い、この映画をつくりました。監督のご苦労が忍ばれます。
  
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 プリズンサークルは「刑務所の映画」であり「暴力が連鎖すること映画」であり「監督の闘いの映画」です。
  
 ひとの学び、変化、対話の可能性に興味をお持ちの方には、ぜひおすすめしたい映画です。
 ちなみに、組織開発(OD)や人材開発(HRD)の歴史に詳しい方ならば、ここまでの文章を読んだ時点で、この治療共同体とOD、HRDが、似たような「ルーツ」を共有していることにピンとくると思います。僕は、組織開発の探究の執筆時に、治療共同体の概念を知りました(組織開発の探究 p110)。
  
 治療共同体については、下記の書籍や論文もでています。
 あわせて、どうぞご覧くださいませ!
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
  
藤岡淳子(2019) 治療共同体実践ガイド―トラウマティックな共同体から回復の共同体へ. 金剛出版.
  

   
毛利真弓・藤岡淳子(2019) 刑務所内治療共同体の再入所低下効果—傾向スコアによる交絡調整を用いた検証. 犯罪心理学研究.56 巻 1 号 p. 29-46
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcp/56/1/56_560103/_article/-char/ja

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