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2020.1.23 07:43/ Jun

30年前の名著で予見されていた「3つの仕事」と「社会の分断」!? – ロバート・ライシュ(著)ザ・ワーク・オブ・ネーションズ書評

 この世は、グローバルにつながっていく
   
 シンボルとテクノロジーを扱う知的労働者が、価値をもつ時代になる
   
 所得を再分配する力は弱まり、社会には格差が広がり、分断をもたらす
   
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 30年以上も前、1991年に出版されながら、2020年の現在の社会・経済状況を予見している本に出会いました。ハーバード大学ケネディスクール教授であり、当時、クリントン政権の顧問をつとめたロバート・ライシュ教授の書かれた「The work of nations – 21世紀資本主義のイメージ」です。最近、経済関係の本を読むことが多く、本当に遅ればせながらの「出会い」になりました。己の浅学を恥じます。
  

  
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 ライシュ先生が、この本で論じているうえで、もっとも基層になっているのは「世界はつながっていく=グローバル化していく=企業がグローバルウェブ化していく」という予想です。
  
 具体的には、特定の国に縛られた、いわゆる巨大企業に代わって、グローバル・ウェブを跳梁跋扈しながら高い競争力をもつ企業が生まれてくる。ここでグローバルウェブとは、「グローバルに、クモの巣のように張り巡らされた企業の組織群」です。
  
 2020年、日本企業の中でも、すでにグローバル化している企業は、連結の日本人と外国人の従業員比率が、すでに逆転している企業もあります。役員会の会話は英語になる。
   
 日本企業、外資系企業という区分は、さして意味はなくなる。
  
 それがグローバルウェブ時代の企業の在り方です。
  
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 しかし、話はそれで終わらない。
  
 時代は、さらなるテクノロジーの進展をも進めます。
 テクノロジーの進展と、グローバルウェブにおける国際分業化は、人間の仕事を、3つに区分していくだろう。これがライシュ教授の大胆な予想です。それが下記の3つです。
  
1.シンボリックアナリティック(シンボル分析職)
 データや表現などの、いわゆるシンボル(記号)を扱う抽象的かつ分析的な専門職。技術者、コンサルタント、プランナー、ディレクター、専門家など。彼等は国際移動の対象となるため、国家への帰属意識が薄く、コスモポリタン的な価値観をもつ
  
2.インパーソン(対人関係サービス職)
 対人関係を主に行う職であるが、基本的に行っていることはルーティン作業である。国際的には分業・取引ができないため、国家間で移動はない。国家に根ざす。
  
3.ルーティンプロダクション(ルーティン生産職)
 大量生産企業の生産工程におけるルーティン作業職。ひとに対して仕事をするのではなく、製品に対して働く。
  
 ここまで来ると、もう予想がつきますね。
  
 ライシュ教授は、21世紀に高い経済価値をもっていくのは、シンボリックアナリティックな職業に従事するひとびとであると喝破します。インターネットがまだ普及していない時代、コンピュータもさして普及していない時代、スマホもない時代に、この大胆な予想を行います。
  
 シンボリックアナリティックは、現実を抽象的なシンボル(データ)に変換し、知的操作によって、問題を発見し、解決し、あるいは分解していきます。そして、現実を抽象的イメージで単純化、表現する。彼等は、他の専門家と組みながら、現実を変えていく存在なのです。
   
 しかし、一方、彼等と、それ以外の職種は「分断」が進行する。
 所得の再分配が機能しなくなり、徐々に社会に格差が生まれる。
  
 分断社会、格差社会の誕生です。
  
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 僕は、己の浅学をはじつつ、30年以上前に書かれたこの本を背筋が凍る思いで読みました。この手の本といえば、10年ほど前、トマス・フリードマンの書いた「フラット化する社会」が著名ですが、それよりも、さらに前に、現在を予見しているところに驚愕しました。
  
 似ている・・・2020年の世界の状況に、あまりに「似ている」
  
 30年以上も前に、世界の状況を予見していたのだから、その洞察力は素晴らしいものです。
  
 しかし、一方で、こうも思いました。
 30年以上も前に、こうなることが読めていたのに(とはいえ、本当にそうなるかどうかはわからなかったのですが・・・)、世界の政策担当者は、この本から何も学ばなかったのだな、とも思いました。
  
 教育投資・人的投資を増やし、なるべくシンボリックアナリティックを増やすこともできた。
社会の分断を避けるための諸政策は、まだ打てたかもしれないのに、と。
  
  ▼
  
 今日は名著「The work of nations」について書きました。
 やはり古典と呼ばれる書籍は、色あせないものです。
  
 グローバルウェブ時代、わたしたちは、どのような人的投資・教育投資を行っていくべきなのでしょうか。
  
 かえすがえすも考えさせられる、おすすめの一冊です。
  
 そして人生はつづく
  

   
 ーーー
     
残業学プロジェクトでご一緒させていただいてきた盟友の岩崎真也さんが(議論に議論を重ね、教材をつくりあげていきました!)、「職場に対話を促しながら、職場ぐるみの組織開発で、働き方を改革するやり方」について解説なさっています! 
   
働き方改革から組織開発へ 本当の働き方改革に求められる「次の一手」とは~
https://rc.persol-group.co.jp/column-report/201907020001.html
    
また残業学プロジェクトのスピンアウトツールである「OD-ATRAS」についても、ご紹介しています。職場の見える化をすすめ、現場マネジャーが職場で対話を生み出すためのTipsやツールが満載です。ご笑覧ください。
    

対話とフィードバックを促進するサーベイを用いたソリューション「OD-ATLAS」の詳細はこちら
https://rc.persol-group.co.jp/learning/od-atlas/
   
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