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2019.10.15 06:08/ Jun

能力が低いひとほど、セルフアウェアネス(自己認識)が狂ってしまうのはなぜか?:ダニング=クルーガー効果について考える

 能力の低いひとは、自己認識がうまくできない
 能力が低いひとほど、自分の能力を高めに見積もるバイアスがかかる
   
  ・
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  ・
  
 これは「ダニング=クルーガー効果」としてよく知られているものだそうです。ミシガン大学のダニングと、イリノイ大学のクルーガーは、「ある論文」の著者の名前です。それが下記の論文。
  

Dunning, D. And Kruger, J.(2000) Unskilled and Unaware of It: How Difficulties in Recognizing One’s Own Incompetence Lead to Inflated Self-Assessments. Journal of Personality and Social Psychology 77(6):1121-34

  
「能力の低い人」が陥るバイアスを論じた、この論文が、非常に大きく注目されたことをきっかけに、この発見に著者の名前がつきました。
    
 体調の都合で参加できなかったせんだっての研究会の資料(関根さん、田中さん、加藤さん、企画をありがとうございました。参加者の皆様、欠席まことに恐縮です)を1人眺めていて、いろいろ検索していたら、これが、ひっかかってきました。興味深く読むことができました。
  
  ▼
  
 この論文によりますと、要するに、
  
1)能力の低い人は、自分のレベル(不適格さ)を正しくメタ認知できない
   
2)能力の低い人は、他人の能力レベルも正しく認識できない
   
3)1)と2)により能力の低い人は自分を過大評価する
  
 のだといいます。
   
 実験の一部のグラフはこれ。
 すみません・・・これだけ見せられても、ワケがわからんとは思いますが、Percieved test score(自己認知のテストスコア)、Percieved ability(自己認知の能力評定)と、Actual test score(実際のテストスコア)のあいだに、「乖離がすごくある層」と、「乖離があまりない層」があることがわかります。
   
 
   
 この論文の発見、なんだか、自分にも当てはまるところがあるようでいて、興味深かったのだけれども、すこし背筋が寒くなりました。
 
 皆さんはどう思いますか?
    
 ▼
  
 といいますのは、自分が、経験を重ねてある領域を習熟してきますと、過去を回顧して、こんなことを思うときがないでしょうか?
  
 過去の、あのときの自分は、今から考えれば「何もわかってなかった」な・・・
  
 でも、なんで、あんなに「自信満々」だったんだろう・・・
   
 過去の自分を正直に述懐してみますと、まだ「能力が低い時分」というのは(今もまだまだですが)、このように、自分のレベルがうまく評定できていないがゆえに、なぜか「自信満々」だったりするところがあるのかな、と思います(今も、バイアスに囚われているかもしれない・・・自爆)。
  
 様々なことに習熟した「今」からかんがえてみれば、なぜ、そんなに自分の能力を高く見積もっていたのか、よく理由がわからない。先の論文を読んで、僕は、まず、そのことを思いました。
  
 続いて、脳裏に浮かび上がった考えは、これです。
  
 でも、これが全く「悪いこと」なんだろうか?
 ある側面から考えると、そうでもないのかもしれない
  
 なぜなら、自分の能力評定がうまくできないから
 「向こう見ずな挑戦に向かえるケース」もあるだろう
  
 つまり、「セルフアウェアネスできないから、向こう見ずに挑戦する」ということもあるかもしれない。
    
 すなわち
  
 過去の、かつての自分は「何もわかってなかった」な・・・
 でも、なんで、あんなに「自信満々」だったんだろう・・・
 今じゃ、怖くて、あんな「挑戦」はできないな
  
 そう、自分の能力が低いのに、高く見積もっているから、「向こう見ずな挑戦」もできたのかな、と。
  
 これは仮説にしか過ぎませんが、「自己認識のバイアス」と「挑戦」には、何らかの関係があるんぢゃなかろうか、と勝手きままに妄想しておりました。
  
 皆さんは、どう思われますか?
  
  ▼
  
 今日は「ダニング=クルーガー効果」について、やや妄想を含めて書きました。大事なことは、自己を正しくメタ認知する力、そうしたものを持ちたいものです。
  
 あなたは、自己を高く見積もるバイアスに囚われていませんか?
 あなたは、セルフアウェアネスできていますか?
     
 ま、でも、万が一、それだからこそ「挑戦」に向かうのなら、とりわけ若い頃は、そういう時分があっても、いいのかも。
  
 そして人生はつづく
    
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