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2019.8.29 05:49/ Jun

人材開発・組織開発とは「永遠の野党」である!?

「戦略を確実に実行し、成果を出さなければならない」
「タスクをやりとげ、短期的に、とにかくパフォーマンスをださなければならない」
   
 組織のなかにおいては、こうした「戦略重視」「タスク重視」の考え方が当然「支配的」です。こうした考え方を、今、仮に「与党」とおきましょう。
    
 これに対して、
  
「人の能力開発をケアしなければならない」
「中長期の視点にたって、チーム力・組織力を高めなければならない」
  
 という考え方ーすなわち「人間重視」「組織重視」の考え方を、今、仮に「野党」とおきましょう。言うまでもなく「野党」とは「人材開発」「組織開発」が大切にしている価値観です。
    
 本当は、こんなに「戯画的」かつ「二項対立的」に、物事を分けられないことは「百も承知」です。今日は、あえて、思考実験として、組織における人材開発と組織開発の意味を「与野党の攻防」にたとえて考えてみましょう。
   
  ▼
  
 まず確認しなければならないことは、組織においては「与党」が常に優勢で、「野党」が劣勢であるということです。

 今、もし仮に「戦略実行・タスク実行」と「ひとと組織を重視する」という2つの中から、どちらの方が大切か、と聞かれたら、通常の組織や経営者は「前者」を選ぶはずです。そして、それでいいのだと思います。これが逆転することは、まずありませんし、あってはならないのかもしれません。
    
 「野党としての人材開発・組織開発」は「永遠の野党」である
  
 ということが、これにて「確定」です。
   
  ▼
  
 次に、問題は「与野党のバランス」です。
  
 組織の内部において、与党はいつだって「優勢」です。
 世の中の変化のスピードが速く、成果へのプレッシャーが増している昨今においては、「優勢」であったものがさらに「優勢」になっているような気もします。
   
 しかしながら、これが「優勢」すぎて全員が「与党」になってしまいますと、「戦略実行」「タスク重視」だけが極めつけに進み、人間疎外・組織的機能不全の状態が生まれるかもしれません。
  
 もしかすると、
  
 組織の内部が「全員与党」という状況は「ファシズム」にもたとえられる
  
 かもしれません。
 過去の歴史が物語るように、全体主義は、悲劇を生み出す可能性もあります。
  
 大切なのは既述しましたように「与野党」のバランスなのです。
    
 与党が優勢のなかで、いかに「永遠の野党」が声をあげるか。
 そして、カウンターバランスとして「与党」を牽制するか。
 そして
 組織内部の価値観のバランスを「ちょうどよい案配」にたもっていくか。
   
 こう考えると、
    
 「永遠の野党」たる「人材開発・組織開発」は重要な役割を担っている
  
 といえないでしょうか。
  
 頑張らなきゃならんなぁ・・・。
「与党」が優勢な世の中においては。

 与野党攻防の観点からは、これは「負け戦」なのかもしれない。
 でも、負けて、結局、組織が勝てばいい
 負けて、勝てば、それでいい。
  
  ▼
  
 今日は「与野党の攻防」というたとえを用いて、人材開発・組織開発の価値を考えてみました。
   
 あなたの会社は「与党」が優勢すぎて「ファシズム」に陥っていませんか?
 あなたの会社の「永遠の野党」は、きちんと声をあげられていますか?
    
 そして人生はつづく
  
  ーーー
  
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