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2019.5.28 06:13/ Jun

「得意技」で逃げ切ってばかりいると、シオシオのパーになっちゃう「理由」!? : 「強み」の上に自己をつくるリスクとは何か?

 得意技「で」逃げきってばかりいると、「得意技」が「得意技」ではなくなってしまう
    
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 仕事をして10ー20年もたってくると、ひとは、そこそこ、自分の得意な領域、自分が専門とする領域が見えてきます。
    
 強みのうえに、自分を築け(Build on your own strength)
   
 はドラッカーの名言でもあり、また、ビジネスの鉄則です。
(鉄則とはいいつつも、確固たる根拠があって用いられるものではなく、皆が、なんとなく、そう思い込んでいるだけです。実際、よくキャリア論では、このように教えられるはずです・・・さして実証的根拠はあるわけではないと思います)
  
 かくして、自分の強み(得意なこと)のうえに、ひとは、キャリアを築き、さらに、その「強み」を磨こうとします。別の言葉でいえば、それは「経験学習」のプロセスとも形容できます。「自らの強み」をもってタフな経験をこなし、「経験学習」を積み重ね、ひとは、業務能力を高めていくのです。
  
 しかし、この強み(得意なこと)ー別の言葉でいえば「得意技」というのが、パワフルである反面、「大きな障害」にもなりえる時代を、わたしたちは生きているのかもしれません。
  
 得意技を連発ばかりしていると、それが相手に見破られて奏功しなくなる。
 変化が激しいので、得意技の寿命が、あまり長くは持たない時代を、わたしたちは生きている、ということです。
  
 せんだって、15年弱のおつきあいになる、北海道大学の松尾睦先生に、慶應丸の内シティキャンパスでの僕の授業「ラーニングイノベーション論」にゲスト講師としてお越しいただいたのですが、そのときに松尾先生からうかがったお話から、僕は、そんなことを考えていました。
(松尾先生、毎年のご出講に心より感謝いたします!ありがとうございました!)
  
  ▼
  
 松尾先生は、将棋の羽生善治さんや、作家の吉本ばななさんなど、多くの識者の言葉を引用しながら、
  
 得意技の「パワフルさ」と「隠れたリスク」
  
 についてお話をしてくださいました。松尾先生のお話は、もう10年以上も、毎年うかがっておりますが、毎年、新たな発見があり、大変素晴らしいものです。
  
 松尾先生によりますと、将棋の羽生さんや吉本ばななさんは、こんな名言を残しておられるそうです。
  

「いつも、「自分の得意な形に逃げない」ことを心がけている。戦型や定跡の重んじられる将棋という勝負の世界。自分の得意な形にもっていけば当然ラクであるし、私にもラクをしたいという気持ちはある。しかし、それを続けてばかりいると飽きがきて、息苦しくなってしまう。アイデアも限られ、世界が狭くなってしまうのだ。人は慣性の法則に従いやすい。新しいことなどしないでいたほうがラクだから、放っておくと、ついそのまま何もしないほうへと流れてしまう。意識的に、新しいことを試みていかないといけないと思う」
  
(羽生善治『直観力』PHP新書、p. 165)

   

「ある程度の年齢になると人間は得意なことに逃げるようになるんです。そうすると得意なことがだめになっていきます。上手くいかないことを得意なことで解消するというサイクルに陥ってしまうと、得意なことが得意でなくなっていくし、楽しくなくなってしまいます」
  
(吉本ばなな『おとなになるってどんなこと?』ちくまプリマー新書, p.119)

  
 なるほど。
 至極名言です。
  
 ひとは、得意技をいったん手にしてしまうと、どんな戦局であれ、「得意技で逃げ切ること」を考えてしまう。しかし、そういう「得意技で逃げ切ること」ばかりをしていると、アイデアが限られ、しかも、戦う相手に見破られてしまう。次第に、新しいことにチャレンジすることが億劫になり、息苦しくなり、楽しくなくなってしまう。
  
「得意技での逃げ切り」は、自省を行いつつ、用いなければならない
   
 そして
  
「得意技」を自らアップデートすることを、忘れてはいけない
  
 そうしないと、
  
「得意技」は色あせて、奏功しなくなる。
「得意技」は次第に「得意技」ではなくなってしまう
   
 ということだと思いますが、いかがでしょうか?
    
  ▼
  
 ひとは30歳ー40歳にもなれば、自分の「得意技」が決まってきます。それは経験学習の苦闘の果てにつかんだ、己の「定石パターン」です。しかし、時には、「得意技を手放す勇気」ー新たなことを学び、「得意技を更新する勇気」を持たなければならない。自戒をこめて、この言葉の趣旨に共感いたします。
  
 誰も気づかないかもしれませんが、僕自身も、いま、「得意技を捨てているプロセス」にいると認識しています(内緒)。43歳になっても、自分が何をしていいか、どちらの方向に進んでいいのか、わからない。でも、このままじゃ、ダメになる(あるいは、ダメになっている・・・泣)。シオシオのパーになっちゃう。うまく、あの得意技、あの文法、あの慣れ親しんだ語法を、捨てることができればいいのですが、どうでしょうかね(笑)自戒をこめて申し上げます。
  
 あなたは、どんな「得意技」で仕事の世界を乗り切っていますか?
  
 最近、「得意技」で逃げ切りすぎていませんか?
  
 あなたの得意技は、まだ「得意技」ですか?
  
 最近、相手に「得意技」を見破られていませんか?
  
 そして人生はつづく
   
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