NAKAHARA-LAB.net

2019.5.24 06:54/ Jun

「キャンパスのなかの多様性」と「シャバワールドの多様性」の、あっと驚くタメゴロー的な「段差」!?

「わたしたちは、多様だよね」
「おれらは、多様な人たちが集まっているので・・・」
     
 ここ1年くらい、学部学生と接するようになって、こうした言葉をよく聞きます。そのたびに、僕は、心に「違和感」を覚えますが、あまり「説教おやじになってもな」と思い、ぐっと、言葉を押し殺しています。
   
 正直に申しますと、僕は、「わたしたちは、多様だよね」に対して、心のなかで「逆のこと」を思っています。
    
 それは、
   
「大学生は、均質だよね」
   
 というものです。
   
 いいや、disってるわけではないのです。
   
 というよりも、その「多様性の程度は、さして高くはない」と申し上げたいのです。
    
 より具体的には・・・
     
 大学をあとにして、社会(シャバ)に出た方が、もっともっと多様な人たちとふれ合うことになるよ
      
 今、同じ大学で学ぶ人たち同士ってのは、むしろ、同じような学力で、同じような年齢層で、同じようなキャリア意識を持っている人たちなんだよ
  
 だから、大学生は、むしろ「均質」なんじゃないの?
    
 ということになります。
    
 もちろん、この問題、「何を多様ととらえるのか」という問題が、どこまでもついて回ります。この定義によっては、「大学生だって、立派に多様」です。昨今は、留学生の比率もどんどんと上がっている大学も多いですので、そう考えれば、大学は定義によっては「多様になってきている」ともいえます。
   
 しかし、大学の外に一歩出て、社会で働くようになれば、大学で感じた「多様性」とは、さらに一回りも、二回りも難易度の高い「超絶多様性」が待ち受けています。
     
 会社の中を見渡せば、
    
 会社というハコを使って、世の中に何らかのインパクトを残そうという、パッションに燃えたビジネスパーソンがいる
 しかし、一方で、一日中、ヤフーニュースを見ているビジネスパーソンもいる
   
 部下のことを親身になって気遣い、1on1ミーティングをしてくれる上司がいる。
 しかし、一方で、部下はダメならつぶして取っ替えればいい、と思っている上司もいる
    
 新たな事業で社会貢献をしようとしている役員がいる
 午前中は、職場で、新聞を読み、パチーンパチーンとツメをきっている役員もいる
    
 それに加えて、昨今の会社は、年齢層はバラバラ。
 場合によっては、国籍すらもバラバラ。
 職種も、雇用形態も、バラバラ。
    
 大学を出て、パッションをもって働き始めたら、あなたの横に座っている同僚は、一日中、ハナクソをほじりながら、働いているふりをしているひとかもしれない。
 それが社会です。
    
 わずか、会社の中を見渡すだけでも、これだけの「多様性」が広がります。社会に視野を広げれば、さらにさらにさらに、いろんな人々がいることが、容易に予想できます。要するに、「大学生の考える、キャンパスのなかの多様性」と「シャバワールドの多様性」のあいだには、あっと驚くタメゴロー的な「猛烈な段差」(意味不明)がある、ということですね。
    
 そして、こうした「超絶多様性」のなかを、これからのひとびとは、サバイブしていかなければならない。場合によっては、リーダーシップを生み出し、成果をださなければならない。
  
 これから比べれば、
  
 大学生は、むしろ「均質」に見えてきませんか?
    
 同じような年齢で、同じような学力層で、同じようなキャリア意識をもち、同じようなスキルをもっているひとびとが、4年間、囲われたキャンパスで集まっている。
   
 ま、「何をもって多様とするか」という定義は、ついてまわるけれども(笑)
  
  ▼
  
 今日は、学部学生がよく口にする「わたしたちは、多様だよね」という言葉について考えてみました。また「説教オヤジ」と言われることを覚悟をして(笑)。あー、言っちゃった(笑)。
   
 「わたしたちは、多様だよね」という言葉は、本当は、別の言葉に置き換えると、しっくりくるのではないか、と僕は思います。
  
 それは
  
 「わたしたちは、多様だよね」ではなく「わたしたちは、まとまらないよね」
  
 です(あー、言っちゃった、笑)。
    
「わたしたちは、均質なのに、まとまらないこと(=同じ目標をにぎって、動けないこと)」をもって、「わたしたちは、多様だよね」と形容してないでしょうか?
それは「多様」ではなく、単純に「まとまらない」だけなのです。 「まとまらないこと」の言い訳に「多様だよね」を使っていないでしょうか。
  
 そして、「まとまらないから」こそ、ひとりひとりの出番なのです。
  
 「簡単にはまとまらないから、リーダーシップを生み出す行動が、それぞれに必要になる」
  
 のです。それを「シェアード・リーダーシップ」とひとは呼ぶのではないでしょうか?
   
 大学時代の4年間というものは、社会から、すこし距離のおいたキャンパスという空間で、様々な失敗や試行錯誤を繰り返す時間です。
 学生たちが、試行錯誤しながら、それぞれにリーダーシップを発揮し、「達成感のある何か」を成し遂げてくれること。さらには、その経験を持って、シャバワールドに力強く踏み出してくれることを、教員として、心より願っています。
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
  
「育児は仕事の役に立つーワンオペ育児からチーム育児へ」(浜屋祐子、中原淳著 光文社新書)、AMAZONカテゴリー1位(光文社新書)、経営学カテゴリー2位を記録しました。育児と仕事の良好な関係、ワンオペ育児を乗り越え、チーム育児に転換していくヒントがあふれる書籍です。浜屋祐子さんの修士論文の知見をモティーフにした、育児の科学。どうぞご笑覧くださいませ。
  

  
  ーーー
   
新刊「残業学」重版出来、6刷決定です!(心より感謝です)。AMAZONの各カテゴリーで1位を記録しました(会社経営、マネジメント・人材管理・労働問題)。長時間労働はなぜ起こるのか? 長時間労働をいかに抑制すればいいのか? 大規模調査から、長時間労働の実態や抑制策を明らかにします。大学・大学院の講義調で語りかけられるように書いてありますので、わかりやすいと思います。どうぞご笑覧くださいませ!
  

   
 ーーー
  
新刊「女性の視点で見直す人材育成」(中原淳・ラーニングエージェンシー 旧:トーマツイノベーション著)が重版出来!1万部突破です!AMAZONカテゴリー1位「企業革新」「女性と仕事」を記録しました!。女性のキャリアや働くことを主題にしつつ、究極的には「誰もが働きやすい職場をつくること」を論じている書籍です。7000名を超える大規模調査からわかった、長くいきいきと働きやすい職場とは何でしょうか? 平易な表現をめざした一般書で、どなたでもお読みいただけます。どうぞご笑覧くださいませ!
  

   
 ーーー
  
新刊「組織開発の探究」発売中、重版4刷決定しました!AMAZONカテゴリー1位「マネジメント・人事管理」を獲得しています。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
 ーーー
   
【注目!:中原研究室のLINEを好評運用中です!】
中原研究室のLINEを運用しています。すでに約11000名の方々にご登録いただいております(もう少しで1万人!)。LINEでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記のボタンからご登録をお願いいたします!QRコードでも登録できます! LINEをご利用の方は、ぜひご活用くださいませ!
   
友だち追加
  

ブログ一覧に戻る

最新の記事

褒め方ひとつ間違えると「怯える、いい子」を量産してしまうメカニズムとは何か?

2024.4.24 08:22/ Jun

褒め方ひとつ間違えると「怯える、いい子」を量産してしまうメカニズムとは何か?

2024.4.17 23:54/ Jun

給特法、および、それにまつわる中教審審議に対する私見(中原淳)

たかがタイトル、されどタイトル!?: 研究タイトルを「一字一句」正確に書いてきてね!

2024.4.17 08:17/ Jun

たかがタイトル、されどタイトル!?: 研究タイトルを「一字一句」正確に書いてきてね!

2024.4.15 08:05/ Jun

「タイパ重視の時代」だからこそ「時代遅れ!?のラーニング」を楽しむ!

2024.4.15 07:29/ Jun

【参加費無料】リーダー育英塾2024募集開始!:特色ある学校づくり+持続可能な学校づくりを進めたいあなたへ!