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2019.5.16 06:48/ Jun

「タスクを振る」頭のよいリーダーに、ひとがついてこないシンプルな「理由」!? : 優れたリーダーは「言葉」を選ぶ!?

 みんなに、タスクを「振っといた」からよろしく
 アイツ、振られた「タスク」をやらないんですよ
  
  ・
  ・
  ・
  
 立教経営だけかもしれませんが、学生の「会話」に耳を傾けていると、こんな会話が、今日もキャンパスのここあそこから聞こえてきます。立教経営ビジネスリーダーシッププログラムでは、大学初年次から「プロジェクト学習」を学生たちに必修で課しておりますので、学生たちは、多数のグループに分かれて、課題解決を行っています。
  
 課題解決では、決められた〆切までに、様々なアウトプットをグループで行わなくてはなりません。何を課題として、どのような解決策をつくるか。グループ内部で、メンバー同士で話し合い、役割を決め、課題解決を行うのです。立教経営ビジネスリーダーシッププログラムでは、そのようなプロセスとリフレクションを通じて、「権限や職位にかかわらず、リーダーシップを生み出せる人材」を育成しようとしています。
  
  ▼
   
 ところで、どこを向いても「グループワークだらけ」の大学で飛び交っている言葉のひとつが、冒頭紹介させていただいたものです。
  
 みんなに、タスクを「振っといた」からよろしく
 アイツ、振られた「タスク」をやらないんですよ
  
 おそらく大量な課題を前に、グループメンバーの誰かがリーダー的役割を担い、彼/彼女が、下位分解した「細切れの仕事=タスク」をメンバーに采配したのでしょう。メンバーに、やらなくてはならない仕事をわりふっているところが目に浮かびます。
  
 しかしながら、この言葉を聞くたびに、僕は、すこし心にザワザワしたものを感じます。
  
 18歳ー19歳の学生の時分ならともかく、社会人になって、リーダーを率いる頃になったとしたら、おそらくは、これらの言葉は「用いない」だろうな・・・と思うのです。いや、用いるビジネスパーソンもいるかもしれないけれども、用いる言葉には、慎重になったほうがいいだろうな、とも思います。
  
 それはなぜか?
   
 それは、
  
 「タスク」と「振る」という言葉が、仕事を行うメンバーへの「リスペクト」をどこか欠いているように、メンバーに解釈されかねない
  
 からです。
  
 つまり、「タスクを振る」方はよくても、「タスクを振られた方」は、「やらされ感」を漂わせて仕事をすることになる場合があるからです。
  
 一般に「タスク」とは「誰かによって分解された作業の最小単位」を通常、意味します。
 また「振る」とは、下位分解された作業を個々人に担わせ、やらせることを意味します。
  
 すなわち「タスクを振る」とは、
  
 1.あのさー、悪いんだけど、オレがリーダーなんで、仕事を最小単位に割っておいたから
 2.それぞれ、各人で、やっといてね
  
 的な世界観が、つきまとうことばです。ここにメンバーによっては「やらされ感」を感じてしまう場合があります。
  
 また、「タスクを振る」リーダーによっては、
  
 「2.各人でやっといた」ものを、あとでシンプルに「足し算」すれば、プロダクトが完成するでしょう
  
 的な思い込みも含まれている場合があります。
  
 しかし、実際には、チームで仕事をする場合には、そういう理想的な状況は、まず生まれません。
 グループで仕事をする場合、メンバーに割り振った仕事の「総和」が、グループで出さなければならない「アウトプット」になればいいのですが、それは極めて希です。
  
 なぜなら、
  
 本質的に大切な仕事は「仕事と仕事のあいだ」に存在する場合がある
  
 からです。
  
 やってきた仕事をつなぎ、ひとつの意味をつくりだす。そうしたプロセスを話し合いで生み出す。ここにこそ、グループワークの最も大切な知的生産プロセスがあるのです。
  
 ですので「タスクを振る」という言葉は、すこし「危険」であるように思います。
  
 タスクを振るリーダーには、ひとはついてこないかもしれない
  
 タスクを振るリーダーの率いるチームは、各人の作業がバラバラになされるだけで、首尾一貫したアウトプットを生み出せないかもしれない
  
 こうした理由で、僕は「タスクを振る」という言葉を耳にするたびに、心がザワザワしてしまうのです。
 ま、僕だけかもしれませんが・・・。
 皆さまは、いかがですか?
  
  ▼
  
 今日は「タスクを振る」ということについて書きました。すこし説教臭い文章になってしまいましたが、すみません。ただ、言いたかったのは「みなが、主体性をもって仕事ができるといいね」ということだけです。
  
 また、もし「タスクを振る」という言葉を用いないのであれば、それでは、わたしたちは、どのような言葉を用いればいいのでしょうか。
  
 おそらく、シャバの世界では、
  
「タスクを振る」ではなく「仕事を任せる」
  
 というのだと思います。「任せる」と言う言葉は学生に語感が強いのであれば「担う」でもいいかもしれません。
  
「下位分類された単なる作業=タスク」を割り振るのではなく、「ある部分について裁量をもって考えてアウトプットをだす」のが「仕事」です
  
 そして、上から目線で作業単位を割る行為=「振る」ではなく、相手のことをリスペクトして「任せる」ことが重要であると思います。
  
 こう申し上げると、学生の何人かが、
  
 先生、またはじまったよ・・・お得意のお説教モードが。
 タスクだろうが、仕事だろうが、振るだろうが、任せるだろうが、どうせ、やること同じなんだから、どっちでもいいじゃん。こまけーんだよ。
  
 と、毒づいている声が聞こえてきます。
    
 ま、そうかもな、とも思います。
    
 もちろん、たかが言葉、かもしれない。
 でも、されど言葉、のようにも思うのです。
  
 優れたリーダーは「用いる言葉」ひとつひとつ「選んでいる」
  
 これも「真実」だと思いますので。
  
 タスクを振ったリーダーに、ひとはついてきていますか?
 あなたは「振られたタスク」を、どのような思いで受け取っていますか?
  
 そして人生はつづく 
  
  ーーー
  
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 わたしもショートレクチャをさせていただきますし、またQ&Aに答えさせていただきます。
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