NAKAHARA-LAB.net

2019.4.16 06:49/ Jun

ブラックボックスとしての「新人研修」!? : 「過剰な剥奪的社会化」が減らない7つの理由!?

 先だって、僕は、新入社員の方々が、4月ー5月に感じる「組織への違和感」について、下記のように書きました。
  
新入社員に「こんなハズじゃなかったのに病」が蔓延しています!離職スイッチを押す前に「冷静」に考えてみたい「3つのポイント」!?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/10140
   
 この時期、新入社員の方々が、新入社員研修時期に感じる違和感は、様々な理由があるのですが、このうちの3「行きすぎた剥奪的な社会化=ちょっとブラックな新人研修での叱責等」について、何名からの方から「共感のメイル」をいただきましたので、今日は、このことについてもう少し掘り下げてお話をしましょう。
  
 今日、すこしだけ考えてみたいのは
  
 なぜ新人研修では「過剰な叱責」などの「剥奪的な社会化」がなくならないのか?
  
 です。
  
 先ほどの記事通り、「剥奪的な社会化」は、アイデンティティの境界を再編成するために行われることが主ですが、場合によっては「過剰」になりがちで、ハラスメントとして認識される場合も少なくないので、注意が必要です。
 わたしは、人材開発の研究者として、そのような研修や研修ベンダーが消滅することを願っています。
 「社会的に問題である」のは言うまでもないことですが、人材開発の研究者としては、「こうした研修には、効果がない=経営によきインパクトを与えた事例やエビデンスがない」からです。
  
 しかしながら、こうした研修は、なかなかなくなりません。そして、新人研修が「剥奪的な社会化」が行きすぎたものになりがちなのは、その他にも、様々な理由がございます。今日は、そのことを考えてみましょう。
  
(ちなみに、多くの新人研修の担当者や研修ベンダーの方々は、新人のことを思い、熱心に誠実に仕事をなさっています。下記のように書きますと問題だらけのように見えますが、それは誤解です。問題をはらんでいるのは、いつも特定の事例、特定の業者です)
  
 ざっとあげてみれば、下記の通りです。
   
1.ブラックボックスだから
 研修室、新入社員研修とは「第三者は、なかなかアクセス」できないものです。「人里離れた研修所」で行われ、日常からは断絶された場所で学ばれます。つまり「ブラックボックス」です。よって、そもそも、なかなか「変化が生まれにくい構造」をもっています。
  
2.人事が腹をくくっていないから&人事が頼んでいるから
 人事のなかには、研修のベンダーの方々などに「叱責」や「剥奪的な社会化」を依頼しているパターンがあります。自分では「耳の痛いこと」を新人に言えない場合に、「新人に言ってやってください」と依頼します。腹をくくって新人指導をする気概を持たないと、指導を他人任せにしてしまうことになります。
  
3.人事が「目利き力」をもっていないから
 新人研修を行う研修ベンダーには、クオリティの分散が極めて高いものです。とりわけ、研修時期が4月に集中しているため、この時期は、人手不足で、ふだんは稼働していない研修講師の方まで仕事にあたっています。当然分散は大きくなります。研修ベンダーをしっかり見極めないと、様々なリスクが高まります。
  
4.「圧倒的に非対称な権力関係」に甘えているから
 新人と、一般的な社会人のあいだには、「圧倒的に非対称な権力関係」があります。新人は「ついさっきまで大学生だった人々」なのです。この「圧倒的に非対称な権力関係」に甘え、指導が行き過ぎる可能性があります。最近は、ソーシャルメディアなどで、あっという間に「ブラックな研修」は広まるようになってきました。こうしたメディア事情を認識していない関係者が、毎年、「圧倒的に非対称な権力関係」のもと事件を起こします。
  
5.クオリティアシュアランスの仕組みがないから&資格制度がないから
 企業研修を行うためには、国家資格はございません。よって、様々な人々がこれに関与します。当然、クオリティの分散は上がります。
 また、研修ベンダーには、そのクオリティや成果を外部にアカウントする制度はありません。しかも、それはブラックボックスに閉ざされた場所で行われます。よって、クオリティを改善する機会やインセンティブが働きにくい構造をもっています。
  
6.研修成果が見えにくいから
 新人研修は研修成果がなかなか見えないものです。新人研修は「組織への適応」といった「ゆるい目標」をかかげますし、また、それがわかるのはずっとあとになってからです。研修成果が見えにくいので、クオリティ改善のインセンティブがかかりにくく、また、価格競争に陥りがちです。
  
7.倫理規定がないから
 先ほどお話ししたとおり、企業の研修講師には「資格」がありません。また「倫理規定」などもないために、教壇にたつのにふさわしくない価値感を有する個人が、登壇する可能性がございます。
  
 今日は、新人研修が問題を孕みやすい理由を書きました。ワンセンテンスで申し上げますと、
  
 「やる気のない人事」と「暴れる研修ベンダー」は「共犯」です
  
 もちろん、こう書いてしまうと「新人研修は問題ばかり」のようにも思えます。
 が、誤解を避けるために申し上げますが、ほとんどの担当者の方々、そして、ベンダーの皆様は、新人のことを思い、指導をなさっていると思います。毎年、マスメディアを賑わすのは「特定の研修ベンダー」であり「特定の企業」です。
  
  ・
  ・
  ・
  
 誰が言ったか忘れましたが、
  
 新人研修は、企業人材開発の「顔」です。
  
 ここのクオリティに賭ける人材開発担当者は、非常に多いものです。どんなに取り繕うとも、「新人研修を見れば、その組織が暗黙にもっている文化が表面化してしまう」のです。
  
 4月・・・新人研修を何とか乗り切り、様々な現場に配置された新入社員の方々が、活躍なさることを願っています。
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
     
新刊「データから考える教師の働き方入門」(辻和洋・町支大介編著、中原淳監修)好評発売中です。1日の労働時間が約12時間におよぶ、先生方。その働き方を見直し、いかに持続可能な職場をつくりだすのか、を考えます。「サーベイフィードバック方の組織開発を応用した働き方改革」の事例として、教育機関以外の組織でも応用可能です。どうぞご笑覧くださいませ
  

  
  ーーー
  
新刊「残業学」重版出来、5刷決定です!(心より感謝です)。AMAZONの各カテゴリーで1位を記録しました(会社経営、マネジメント・人材管理・労働問題)。長時間労働はなぜ起こるのか? 長時間労働をいかに抑制すればいいのか? 大規模調査から、長時間労働の実態や抑制策を明らかにします。大学・大学院の講義調で語りかけられるように書いてありますので、わかりやすいと思います。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
 ーーー
  
新刊「女性の視点で見直す人材育成」(中原淳・トーマツイノベーション著)が、AMAZONカテゴリー1位「企業革新」「女性と仕事」を記録しました。女性のキャリアや働くことを主題にしつつ、究極的には「誰もが働きやすい職場をつくること」を論じている書籍です。7000名を超える大規模調査からわかった、長くいきいきと働きやすい職場とは何でしょうか? 平易な表現をめざした一般書で、どなたでもお読みいただけます。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
 ーーー
  
新刊「組織開発の探究」発売中、重版4刷決定しました!AMAZONカテゴリー1位「マネジメント・人事管理」を獲得しています。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
 ーーー
   
【注目!:中原研究室のLINEを好評運用中です!】
中原研究室のLINEを運用しています。すでに約11000名の方々にご登録いただいております(もう少しで1万人!)。LINEでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記のボタンからご登録をお願いいたします!QRコードでも登録できます! LINEをご利用の方は、ぜひご活用くださいませ!
   
友だち追加
  

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2019.4.19 06:45/ Jun

【〆切間近:最後の週末です!】リーダー育英塾第二期で「学びの革新」をめざしてみませんか?

課題解決は「最初が肝心」、しょっぱなから「コケ」れば「みんなで犬の道をデスマーチ」!?

2019.4.18 06:54/ Jun

課題解決は「最初が肝心」、しょっぱなから「コケ」れば「みんなで犬の道をデスマーチ」!?

2019.4.17 06:48/ Jun

「いいねいいね病」に罹患し、心優しく「割り算」かまして、「犬の道ドボン」にご用心!:課題解決で陥りやすい3つの思考の罠

ブラックボックスとしての「新人研修」!? : 「過剰な剥奪的社会化」が減らない7つの理由!?

2019.4.16 06:49/ Jun

ブラックボックスとしての「新人研修」!? : 「過剰な剥奪的社会化」が減らない7つの理由!?

2019.4.15 06:51/ Jun

「組織開発」を学ぶ「オールニッポン・オンライン読書会」に参加してみませんか?