NAKAHARA-LAB.net

2018.11.19 07:05/ Jun

いい湯だな(ハハハン)・・・僕もあなたも「バイアス温泉」に浸かっている!?

 わたしたちは、みな「バイアス温泉」に浸かって生きているようなものです
  
  ・
  ・
  ・
  
 バイアスとは、端的に言ってしまえば「認知の歪み・偏った見方」のこと。別の言葉でいえば、「完全に合理的かつ論理的に導きだされる解(判断)」を、あえて低く見積もったり、逆に、敢えて高く見積もったりすることをいいます。
  
 たとえば、よく知られているのは「損失回避」。これはバイアスというよりも、むしろ、人間の基本的な性質とも考えられます。
 いわゆる「損失回避」とは、何かを得るときよりも(心理的利得)、何かを失う場合(心理的損失)場合に、ひとはどうしても敏感に反応してしまう、ということですね。
 もう少し具体的にいうならば、人は「利益を得たいという気持ち」よりも、「今持っているものを失いたくないという気持ち」の方に強く突き動かされるということです。
    
 これに類似するものに「現状維持バイアス」というものがございます。
    
 現状維持バイアスとは、「変化」によってたとえ「利益」が得られたとしても、その「変化」によって失う可能性のある「損失」に対して、過剰に反応してしまうことをいいます。
  
 このバイアスに浸かっているひとなんか、あなたのまわりに、いくらでも探すことができませんか?
   
 今、動きだせば、まだ間に合うのにもかかわらず、
 変化することが億劫で、
 自分に言い訳をして動きださずに、
 そのまま、さらに条件が悪化していく・・・
  
 ひとは、悲しいかな「現状維持」を強く望む生き物です。
  
  ▼
  
 このほか、冒頭申し上げましたように、この世は様々なバイアスがございます。
    
 本日ご紹介するハーバード大学のベイザーマンとカーネギーメロン大学のムーアの著した「行動意思決定論ーバイアスの罠」は、わたしたち人間が、いかに「バイアス温泉」にどっぷり浸かっているかを、これでもか、これでもか、というほど思い出させてくれる、なかなかスパイシーな本です(笑)。MBAの教科書としても、用いられているので、お読みになったことのある方はいらっしゃいます。
   
 
  
 本書を読んでいると、ひとは、もしかすると、一生涯、バイアスから逃れることはできないのかな、とすら思えてきます。
 なかなかに「プチ鬱」です。
  
 しかし、一方で、
  
 「自らがバイアスに囚われてしまいがちな、かよわき人間」であることを自認すること
  
 は、大切なことなのかな、とも思います。
  
 わたしは「自らの判断は完全無欠で全知全能だと思いこんでいるリーダー」か「自らの判断はバイアスに囚われてしまいがちなことを自認しているリーダー」のどちらかひとりを、「自分の上司」に選べといわれれば、迷うことなく後者を選びます。
  
 おれは、いやだよ、「全知全能だと思い込んでいるリーダー」のもとで働くなんて・・・(泣)
    
 本書は、そのような観点からお読みいただけると興味深いのかな、と思います。
   
 読後には、僕も、あなたも、あなたも、わたしも「バイアス温泉」にどっぷり浸かっていることが、おわかりになるかと思います。
  
  ▼
  
 今日は「バイアス」のお話をしました。
 世の中には、人間が陥りがちなバイアスは、このほかにも多数発見されており、枚挙に暇がありません。そうした知識を仕入れるのも興味深いことかも知れません。
  
 ちなみに、僕が、バイアスという言葉にはじめて触れたのは、ギロビッチの名著「人間この信じやすきもの」を学部1年生の頃に読んだときなのかな、と思います。こちらもおすすめの一冊です。
  

  
 しかしながら・・・それからもう25年。
     
 嗚呼、いまだに「バイアス温泉」に浸かっている自分を改めて発見します。
 自戒をこめて申し上げますが、狂いと曇りのない目で、物事を見つめたいものです。
   
 今週も一週間頑張りましょう!
 そして人生はつづく
  
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