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2021.9.1 07:53/ Jun

あなたのチームは「灯台に近づきすぎて」座礁のリスクが押し寄せていませんか?

「何を、ともに目指すか?」
「何を、みなの目標とするか?」
      
 ということは、ビジネスのなかで、ひとが、チーム・職場を率いていくなかで相対する、もっとも根源的で、難しい問いのひとつである気がします。
  
 なにせ、この「目指すもの」が間違っていれば、ろくなことがありません。
    
 無駄な仕事にまみれ、阿鼻叫喚。
 敵にかこまれ、四面楚歌。
 気がついたときには、ああ無情。
 
 になってしまうのです。
    
 戦略の教科書には、よく
   
 優れた戦略とは「戦うこと」を決めることではない
 戦略とは「戦わない領域」を決めること
  
 と書いてあることもあります。
 しかし、これは実に難しい。無駄な闘いを避けて、自分たちだけの領域を見つけるのは、並大抵のことではありません。
    
 自分たちは何が得意なのか?(自分たちは何をもっているのか?)
 自分たちは何をやりたいのか?
 何をすれば(他者から)感謝されるのか?
  
 などなどの様々な問いを自らに投げかけ、自分たちのフィールドを探していかなくてはなりません。
  
  ▼
   
 目指すものが、いったん決まったとしても、油断はできません。
     
 拙著「チームワーキング」(中原淳・田中聡共著)で述べたように、
  
 チームで合意したはずの「目指すもの」はあっという間に、メンバーに手放されて(リリースされて)いくもの
     
 なのです。
  
 目標は設定したあとが重要。目指すもののイメージが違っていないかを常に確認し合いながら、「目標が常にホールド(Hold)されている状況」をつくりださなければ成果がでないのです。
  
 すなわち、目標設定でもっとも大切なのは「目標設定を行うこと」ではなく「目標を設定したあと」なのです。
 メンバー全員が「目標をにぎり」、しかも、コミットしている状態をつくらなくてはなりません。
        
  ▼
  
 加えて、もうひとつ重要なこともあります。
  
 それは、「目標は、おりに触れて振り返り、再設定しなければならない」ということです。
  
 ここで、何人かのビジネスパーソンは、キッと目つきをするどくします。
  
「目標は、いちど、設定したら、絶対に変えてはならんのだ! なんとしてでも、達成し、かならずやり切ることが重要なんじゃい!」
   
 まぁ、お待ちください(笑)。
    
 わたしは何も「目標を低くしてほしい」と言っているわけではありません。問題は「目標を高くするとか、低くする」とかではないのです。
  
 むしろ、市場環境・顧客の状況が変わってきたときには、
  
「高みをめざしたまま、チームにとってメリットが得られる目標を、再設定しなければならないときがきたとしたら、それを思い切って行うべきだ」
  
 ということです。これがわたしどもの研究から、見えてきています。
   
 目標は近づけば、近づくほど、その全貌が見えてきます。それが目指すべきものであったとしたら、そのまま突進すればいい。しかしながら、それが異なるものだったとしたら、みなで話し合い、目指すものを変える必要があります。
 もちろん、さらなる高みをめざしてもいい。アプローチをかえて、違うものをめざしてもいい。いずれにしても、そこには「納得」が必要です。
  
 かつて、河合隼雄さんは、著書「心のなかの処方箋」のなかで、こんな一文を残しておられます。
  
 「灯台」に近づき過ぎると、船は「難破」する
         
 船が難破するときというのは、大海原を駆けているときではなく、目指すものに近づいていくときにある、ということです。ある灯台に近づいたら、別の灯台を目指さなければ、船は浅瀬にはまり、座礁します。目指すものに耽溺してはいけない。目指すものこそ、常に動的に変化するのです。
       
 チームは「生き物」。
 常に、その状況「〜ing」で変化します。
       
 そしてチームの目指すものも「Moving Target」です。
 一瞬たりとも気が抜けないですね。
           
  ・
  ・
  ・
    
 あなたのチームは「血みどろの闘い」を選んでいませんか?
    
 あなたのチームは「灯台に近づきすぎて」いませんか?
  
 あなたのチームのメンバーは「目標」をすでに手放しちゃっていませんか?
  
 そして人生はつづく
    
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強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000059483.html
   
仲間から実際に認められた行動のデータから、自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加されました。職場における相互称賛を、自分の強みの発見と目標設定に役立てられます。
 
自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000059483.html
   
あなたの会社のリーダー・管理職は「部下の強み」を観察できますか?:相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が示唆する「リーダーの条件」とは?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
    
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