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2021.5.28 08:06/ Jun

ニッポンのビジネスパーソンが、ちょっぴり「苦手なコミュニケーション」とは「何」か?:「結論から箇条書きで話すこと」の思わぬ弊害!?

 ニッポンのビジネスパーソンが、ちょっぴり「苦手なコミュニケーション」とは、いったい「何」か?
  
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 仕事柄、ビジネスパーソンの皆さん、リーダーの方々とお話しする機会が多々ございます。皆さん、非常に優秀な方々で「ニッポンの前途は明るいな」と思ってしまうことがまことに多いものです。
  
 しかしながら、彼らが抱える「不得手なコミュニケーション」「苦手な行動」も少なくなく、「おっ、ここが伸びしろだろうな」と思うこともあります。これは僕の独断と偏見です。一般性は主張しません。
  
 それではニッポンのビジネスパーソンが、ちょっぴり「苦手なこと」とはいったい、何でしょうか?
  
 それは
  
 1.丁寧に「観察」すること
 2.聞き手の頭に「観察したもの」が思い浮かぶように伝えること
  
 です。
  
 たとえば、
  
 何かの場面を観察する。その観察したものを、5W1Hに配慮しながら、相手に脳裏に「自分が見たもの」と「同じ風景」が思い浮かぶように、詳細に、じっくり書くこと、コミュニケーションする、といったことが、苦手である
  
 ように思うのです。
  
 ワンワードでいうと、
  
 ダラダラと観察して、詳細に表現すること
  
 ですね。(笑)
  
 もう少しアカデミックな言葉でいうと、
  
 エスノグラフィー、フィールドワークといった「知的生産技法」で駆使される「観察」と「描写」が苦手
  
 ということになります。
  
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 もちろん、
  
「そんなこと、やったこともない」
  
 とおっしゃる方も少なくありません。たしかに「やったことがない」から、苦手というのはある。
  
 しかし、問題は、それだけではないような気がします。
  
 ビジネスの現場では、社員教育などで、
  
 1.結論から話せ
 2.ダラダラ話すな!
 3.箇条書きでくくれ
  
 と言われ続けているのだと思います。ダラダラと見ることなんか、時間の無駄。そんな時間があったら、客先回れ、ものをつくれ。ビジネスとは、常に、そういう経済合理性の上にあります。
  
 たしかに、こうしたコミュニケーション指導は、若年層などには必要なのでしょう。しかし、その「単一のコミュニケーションスタイル」を身体化しすぎているせいもあるのではないでしょうか。
  
 わたくしなぞに言われたくないとは思いますが、とにかく
  
 「結論」らしきものを、パコーンとぶち当て、とびつく
 途中の「過程」はすっとばして、「要するに」を多用する
 具体的な描写は省いて、「箇条書き」と「体言止め」でくくる
  
 ことに慣れすぎているのではないか、と思ってしまいます。そうしたものがあまり役立たない、知的生産、アイデア創出などの現場で、逆に、それが悪影響を与えてしまうように思えるのです。
     
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 くどいようですが、時間がない通常の仕事現場ならば、これでもよいかもしれません。
   
 しかし、たとえば、新たな物事、サービス、商品などを考えるときなどは、これでは困ることが多いのです。
    
 そうした「創造の現場で多用される知」とは、現場を子細に観察し、そこで誰が、どのような行動にいきづまり、お困り事を抱えているかを、観察しなければなりません。そのときに役立つのが、わたしは「エスノグラフィーの目」だと思います。
  
 僕の仕事でいえば、この「観察眼」や「表現力」は、研修開発の際に役立ちます。
  
 現場のひとびとに「刺さる研修」を開発するためには、
  
誰が、どんなときに、どんな行動で、どんな気持ちで行き詰まり、どんな結果に陥っているのか?
  
 を把握したうえで
  
誰が、どんなときに、どんな望ましい行動をとってくれると、どんな成果を残して欲しいのか
  
 のゴール設定をしていく必要があります。
  
 ここで把握できるイメージの「解像度」が高くなればなるほど、効果の高い研修が開発できます。
  
 それが、逆に、たとえば、
  
「研修を開発するためにうかがいたいのですが、現場では何が課題なのでしょうか?」
  
 という質問に対して
  
「ま、要するに、モチベダウンですね。だからモチベが、パコーンとあがるような研修、ないっすか?」
  
 と答えられても、研修の開発のしようがないのです。
  
 要するに「結論から話す」と「イメージするものの解像度が低い」状態になりがちなのです。
 少なくとも、すぐに結論からはなし、箇条書きでくくってしまうのは、そういう弊害もある、ということを把握しておくことも重要でしょう。
    
  ▼
  
 今日は、独断と偏見で、わたしが感じる「ニッポンのビジネスパーソンの伸びしろ」についてお話をさせていただきました。しかし、わたしは、このことをあまり悲観していません。この解像度が上がると、おそらく、いろいろなところに役立つ、と思います。
  
 とりわけ、何か新たな物事を生み出したいと願うひとにとっては、こうした知的訓練も必要ではないでしょうか。
  
 もともと優秀な方が多いですから「鬼に金棒」ですね。
  
 今週もあと1日。ともに頑張りましょう!
 そして人生はつづく
  
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