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2021.5.27 08:10/ Jun

コロナ禍が変えていく「人材開発のかたち」!?:「KKD型(勘・経験・度胸)人材開発」からどこに向かうのか?

 この20年で、人材開発のかたちは、どのように変わってきたのか?
  
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 25歳で大学院をでて以来、気がつけば、もう20年以上(20秒に感じます:1年1秒!)が過ぎました。
  
 あっという間だった「この20年」を、振り返ってみれば、僕の研究領域にも、ゆるやかながら「大きな変化」があったような気がします。
  
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 まず第一の変化は、それまでKKD(勘と経験と度胸)で行われてきた人材開発の世界に、アカデミック(学術)な知見や理論が、導入されたことです。2000年代の中盤には、それが本格化しました。
   
 すなわち、それまで「KKDの人材開発」であったものが、「理論を意識した人材開発」に変わっていったのです。
  
 もちろん、企業規模、業界特性もあるでしょうから、いまだにKKDというところもあるでしょう。
    
 しかしながら、僕がキャリアを始めた頃には、この業界にはアカデミックな知見はあまり存在していませんでした。たとえば「経験学習」という言葉も「研修転移」という言葉も、「組織開発」という言葉も、「採用学」という言葉も、まるで存在すらしていなかったのです。
  
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 その次の変化は、水面下では、2015年あたりから見受けられるようになりました。それは、それまでの人材開発が「理論を意識し始めた人材開発」であった、とするならば、今度は「データに基づく人材開発」に変わり始めたのです。
    
 このあたりから、先端的な企業では、僕にコンサルティングや研修開発をご依頼いただく際に、自社のサーベイデータを持参してくださるようになりました。「データに基づく人材開発」の胎動です。
        
 ちなみに、正しくいうと「データに基づく人材開発」を「理論」を置換するものではありません。それは「理論も」意識していますので、さしずめ「理論とデータに基づく人材開発」ということになります。2010年代を終えるころには、先端的な企業では、これがだんだんと本格化していきました。
    
 せんだって、HR総研さんのWebサイトで下記の興味深い調査結果を目にしました。
  
ピープルアナリティクス、エンプロイーエクスペリエンス に関する実態調査速報版:PwCコンサルティング合同会社×HR総研共同調査
https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=299
  
 この調査によりますと、人材データ分析をすでに取り組んでいる企業の割合は従業員5,000名以上の大企業に限れば34%から15ポイント増の49%とほぼ半数に達しているのだそうです。全回答企業ではまだ4分の1という数字ですが、それが徐々に変化してきた様子が、可視化されています。
    
 これに関連して、せんだって、ヤフーの本間浩輔さんと、某コンサルティングファームの研修でご一緒させていただいた際、本間さんは、こんな名言を残されていました。
    
 No measurement, No management!
(測定できないものは、マネジメントできない)
  
 これが「データに基づく人材開発」をワンセンテンスでいいあらわす言葉であるような気がします。本間さんらしい勢いのある言葉であり、まさに慧眼であると感じます。
    
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 コロナ禍は、さらにさらに「人材開発の世界」に変化を迫っています。
 いまだ渦中にいるコロナ禍をふりかえるとき、
   
「コロナ禍の変化は、この20年に匹敵する変化を生み出している」
  
 という思いを持ちます。
  
 それは「テクノロジーの強制的普及」です。わずか前まで、ZoomやslackやTeamsなどのコミュニケーションツールを誰もが用いる世界は存在していませんでした。それが大きく変わります。
     
 コロナ禍は、
     
 同一の場所に、いつものメンバーが集い、同一の時間に仕事をする
 同一の場所に、会社のメンバーが集い、同一の時間に研修を受ける
    
 という仕事の原則を変えています。
   
 ITテクノロジーが普及し、どのようなひとでも、オンラインでの会議や打ち合わせを一度は経験したことのある状態が生まれてきました。これは、とてつもない大きな変化です。
  
 これに敷衍して、今後を考えるとき・・・
    
 理論にもとづき
 データを駆使し
 テクノロジーを活用する
 「新たな人材開発」のかたち
  
 が生まれてくるように思います。この業界に生きるひとは、このかたちをキャッチアップすることが求められるようになるとわたしは思います。わたしの勤務する立教大学大学院経営学研究科 LDCコース(人材開発・組織開発の大学院)のわたしの授業コンセプトは、これを意識しています。
  
 いいえ、何も怖いことはありません。
 その方向に、自分をアジャストし、楽しみながら学べばいいだけです。
 
 「自分の学び」を手放すな!
 「自分の学び」を他人任せにするな!

 大切なことはいつだってシンプルです。それだけのことです。
  
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 今日は、この20年の人材開発の変化を振り返り、論じてみました。
 僕の研究者としてのキャリアも、もう折り返し地点を過ぎつつあります。今後の20年で、どのような変化と「ともにあること」ができるのか。楽しみでなりません。
  
 あなたは、今後、人材開発に、どのような変化が生まれると思いますか?
  
 そして人生はつづく
  
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 立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コースでは、経営学を基盤にしながら、人材開発・組織開発・リーダーシップ開発を実践できるアカデミックプラクティショナーを養成しています。別名、「ひとづくり・組織づくりの大学院」です。
 授業は「フルオンライン」。授業は金曜日夜と土曜日だけ行われており、2年間で、修士(経営学)が取得できます。
   
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立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コース
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中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
      
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。利用人数20名までは「無料」だそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
    
強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000059483.html
   
あなたの会社のリーダー・管理職は「部下の強み」を観察できますか?:相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が示唆する「リーダーの条件」とは?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
   
ピアトラストお問い合わせ
https://www.peer-trust.com/contact/
  
ピアトラストの効果まとめページ
https://www.peer-trust.com/research/2020/
   
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